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名バイプレーヤー・安藤玉恵がエッセイ本を上梓。戌井昭人が読んで受け取った、“日常のやさしさ”とは

  • 2025.6.27
安藤玉恵『とんかつ屋のたまちゃん』

気持ちが明るくなってくる。でも、なんだかホロリときてしまう。明るいからこそ消灯もあって、死や別れがある。そこをカラッと乗り越える。実は、そう簡単ではないこともあるだろうが、あくまでカラッと、そしてやさしさがある。つまり人情ってやつだ。泣いても最後は、そよ風が吹く。そんな人々や出来事が詰まっている本書は、俳優、安藤玉恵さんのエッセイで、読めば、とても気分が良くなれる。

安藤さんとは随分前から面識があって、実家のとんかつ屋さんで宴会をしたこともあったし、近くで用事があったとき、絶品とんかつを食べたくなり、ひとりでランチを食べに行ったりもした。だから本書に登場する、お父さんやお母さんにも会ったことがあって、泣けてきた。また舞台となる尾久の商店街の情景を思い浮かべると、いろいろ思い出すことがある。場所は違えど、自分は、東京の商店街の八百屋の孫で、店の前の靴屋のおっさんが変な踊りをしたり手品を見せてくれて、とても面白かったとか、天麩羅屋のおやじが嫌な奴で爺さんがいつも喧嘩をしていたとか、商店街のあれやこれやを思い出した。

それにしても昨今、このように軽やかな本が少ない気がする。いや、単に軽いわけではなくて、そこには人情が詰まっている。また安藤さんの情景描写が秀逸だ。におい立ってくる感じがたまらない。読めば、皆さまも、人情商店に足を踏み入れ、あたたかい気分になれるはずだ。やはり人間は、やさしさでなりたっているのだと、やさしさの足りない昨今の世界事情を憎々しく思いながら、小さな商店街の発するやさしさに浸りました。

Information

『とんかつ屋のたまちゃん』

『とんかつ屋のたまちゃん』

『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』など話題作で異彩を放つ俳優の安藤玉恵が、東京・尾久に構える実家のとんかつ屋〈どん平〉での日々を綴るノスタルジックな一作。幻冬舎/1,540円。
HP:https://www.gentosha.co.jp/topic/detail/032359/

profile

安藤玉恵さん

安藤玉恵(本を書いた人)

あんどう・たまえ/1976年東京都生まれ。俳優。早稲田大学時代に演劇を始め、たしかな演技力で活躍。

profile

戌井昭人(感想を書いた人)

いぬい・あきと/1971年東京都生まれ。作家。『のろい男 俳優・亀岡拓次』など文芸賞受賞作も多数発表。

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