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43年前、日本中が耳を奪われた“動かない愛の歌” 普通の女子大生が生み出したミリオンヒット

  • 2025.8.2

「ラジオから流れるあの声が、誰よりも強く感じた夏だった」

1982年の夏、街角の喫茶店、通勤ラジオ、家庭のステレオから、ある1曲が繰り返し流れていた。それは派手なアイドルソングでも、CMソングでもなかった。

女子大生2人がアコースティックギターを抱えて歌う、ただひたすら「待つ」と言い続ける歌。

あみん『待つわ』(作詞・作曲:岡村孝子)――1982年7月21日リリース。

この曲は、あみんにとってのデビューシングルであり、同年唯一のミリオンセラーを記録した“異例の大ヒット曲”だ。

だが、当の本人たちに「ヒットの実感」などなかった。ふつうの女子大生が、ふつうの気持ちで、ふつうに歌った――それだけのはずだった。

だが、43年経った今でも『待つわ』が色褪せない理由は、“そのふつうさ”にこそある。

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(C)SANKEI

「歌いたいだけだった」女子大生が頂点へ

あみんは、岡村孝子と加藤晴子による女性デュオ。お互い音楽好きだった2人は、やがてヤマハ主催のポピュラーソングコンテスト(ポプコン)に挑戦する。1年目は予選落ち。だが翌年『待つわ』でグランプリを受賞。そのままメジャーデビューが決まる。

ちなみに“あみん”という名前は、さだまさしの楽曲『シナモンとパンプキンパイ』の歌詞に出てくる喫茶店「安眠」に由来する。

“何もしないこと”が共感を呼んだ時代

当時、音楽チャートを賑わせていたのは、キラキラしたアイドル全盛期。パフォーマンスも見た目も華やかで、テレビ中心の“魅せる音楽”が主流だった。

そんな中、突如として登場したのが、あみんという名の女子大生デュオ。岡村孝子と加藤晴子、どちらも大学在学中。芸能的なオーラは皆無。むしろ地味だった。

だがその“地味さ”こそが、時代の“揺り戻し”を象徴していた。

淡々と歌われる『待つわ』は、聴き手の想像力を掻き立てる余白があった。そして、「待っている私」という姿勢に、当時の多くの女性たちが共鳴した。

「主張しない」ことの美しさ。「選ばれる」ことより、「信じて待つ」ことを肯定する視点。

それは当時の“恋愛観”や“女性像”にも、小さな波紋を起こしていた。

1年後、潔く解散。だけど終わりではなかった

デビュー年に紅白出場、100万枚を超えるセールス――だがその翌年、あみんは静かに活動休止を選ぶ。理由は、加藤が就職活動を控えていたから。

「私のいる場所は芸能界じゃない」

その言葉に、岡村も「別の人との“あみん”は考えられない」と応えた。

ビジネスではなく、“人”として続けていたからこそ、終わり方も潔かった。

その後、岡村はソロデビュー。ソロでも『夢をあきらめないで』(作詞・作曲:岡村孝子)などヒット曲を生み出す人気アーティストとなった。

43年経っても、あの歌が心を掴む理由

『待つわ』は、いま聴いても決して古くない。

何もしないけど、ただ信じていたい――このシンプルな感情が、どんな時代にも必ず存在するからだ。

誰かを追いかけず、ただ自分の想いを大事にする。

その強さと、どこか不器用な弱さが混ざった“あの声”は、今でもふとした瞬間に心を掴んでくる。

大きなことは何もしていない。でも、確かに何かを変えてしまった。

『待つわ』とは、そんな1曲だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。