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35年前、日本中が心を委ねた“静寂の思春期バラード” バブルの残り香に寄り添った“時代を超える名曲”

  • 2025.8.2

1990年の夏、日本の空気はまだ少しだけバブルの残り香をまとっていた。

音楽シーンにはアップテンポなダンスナンバーや、派手なアレンジが並ぶ中で、あるバラードがゆっくりと、けれど確実に心の深い場所へ入り込んでいった。

徳永英明『壊れかけのRadio』(作詞・作曲:徳永英明)――1990年7月7日リリース。

TBS系ドラマ『都会の森』の主題歌に起用され、徳永自身も役者として出演していたが、この曲の魅力はドラマを離れても、なお色褪せない。

静寂に始まり、感情がにじむ構成

この曲の1コーラス目には、ドラムが入っていない。静かなシンセパッドがゆっくりと空間を満たし、時折ピアノの音が聞こえる中、徳永のボーカルがまっすぐに浮かび上がる。

余計な装飾をそぎ落としたアレンジは、聴き手の集中を“言葉”に向ける。

「思春期に少年から大人に変わる」

この短いフレーズが、驚くほど多くの人の記憶を揺さぶった。誰にでも思い当たる“通過点”のような感情。それを、無理に説明せず、ただ歌として差し出されたことで、自分の過去と自然につながる感覚を覚えた人も多いはずだ。

2コーラス目からはドラムが加わり、ストリングス、ギターと音が重なっていく。だが最後まで一貫して、歌詞と歌声を主役に据えた静かな演出が貫かれている。

徳永英明の音楽的影響とキャリア

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(C)SANKEI

共感が“名曲”を定義した

この曲が名曲へとなっていったのは何故なのか?それはメロディでも、サウンドでもなく、“感情の輪郭を言葉にしてくれたこと”が最大の理由なのかもしれない。

「かっこいい」よりも「わかる」と思える。

「力強い」よりも「そばにいる」と感じられる。

そんな音楽が欲しかった人たちにとって、この曲はちょうどよかったのだ。

カラオケで蘇る“誰かの記憶”

リリースから35年が経った今も、『壊れかけのRadio』はカラオケで歌い継がれている。

特に40〜50代の男性にとっては、“青春を思い出す定番曲”であり、今になって歌うと、当時よりもしみるという声も多い。

歌いながら、自然とあの頃の感情を思い出す――この曲を歌うことそのものが“記憶を再生する行為”になっている。

今もまた、新たな世代へと引き継がれていっている。この曲は知っている。いつの時代も心をノックしてくれる。

そっと思い出を連れてくる一曲

この曲を聴くと、ふと昔のことを思い出す。

街の空気、夕方の光、何でもない会話――そんな風景が、静かに浮かんでくる。

特別な思い出じゃなくてもいい。

ただ、あの頃を思い出すだけで、少しだけ心があたたかくなる。

『壊れかけのRadio』は、そんな時間をそっとくれる一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。