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30年前、日本中が一撃で射抜かれた“暴力的なイントロ” 鋭いギターと声で刺激する“本能直結の異端ロック”

  • 2025.7.29

1995年、景気は失速し、社会はどこか重たかった。未来にワクワクする感覚より、今この瞬間に響く“刺激”を求める空気が、若者たちの間に広がっていた。

そんな中、あるロックギタリストが鳴らした1曲が、日本中の感覚を一撃で射抜く。

布袋寅泰『スリル』(作詞:森雪之丞・作曲:布袋寅泰)――1995年10月18日リリース。

GUITARHYTHMプロジェクト完結後、初めて放たれたソロシングルだった。

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(C)SANKEI

いきなり全開、オープニングの“音の爆発”

『スリル』は、イントロから全力で走り出す。

鋭いオーケストラ・ヒットの一撃が、冒頭から「ただ事ではない」空気を叩きつけてくる。直後に炸裂するギターリフと、鋭利なシンセサウンド。そこに布袋の重たく切れ味のあるリズムが重なり、攻撃性と緊張感に満ちた空間が一気に立ち上がる。

この曲は“派手なサビ”ではなく、“始まり”でリスナーの意識を掌握してしまう。リズムも構成もシンプルなのに、なぜか目が冴える。それが『スリル』の本質的な中毒性だ。

ギターとボーカルが切り拓く

布袋寅泰といえばギター――。それは間違いない。この曲でも、鋭く歯切れのよいカッティングと、爆発寸前のリフが全体を牽引する。

だが『スリル』において特筆すべきは、彼のボーカルの“荒さと力強さ”だ。完璧な歌唱ではない。むしろ粗く、攻撃的で、言葉がまるで刃物のように飛び出してくる。

ギターと声、その両方が武器として正面からリスナーにぶつかってくる。それがこの曲に、ひとつのジャンルに収まらない緊迫感を与えている。

音と映像が完全に同期した、サイバーな世界観

『スリル』は音だけでなく、映像面でも強烈な印象を残した。

無機質な照明、鋼鉄のような美術、そして冷たい空間でギターを叩き込む布袋寅泰――。

サイバーで閉塞感のあるMVは、まるで近未来の都市で鳴り響く警報音のようだった。

このミュージックビデオは、「音楽を映像で拡張する」試みとしても素晴らしい完成度だった。

実は、あの人もこの曲に参加している

『スリル』には、藤井フミヤがコーラスとして参加している。CDクレジットにはきちんと名前が載っているが、意識して聴かなければ気づかないレベルのさりげなさ。

繰り返される「Baby」の後ろで重なっているのだが、ファン以外にはあまり知られていないトリビアである。

時を超えて残る、“本能に直結する音楽”

『スリル』は、布袋寅泰のキャリアの中でも異質で、極めてストレートな一曲だ。

コンセプトやアルバムの文脈を超えて、ギター・リズム・声、その三要素だけで真っ向から勝負した音楽。

その潔さが、30年経っても色褪せない理由かもしれない。

この曲がライブで鳴るたびに、会場の空気が研ぎ澄まされる。

“懐かしさ”ではなく、“スイッチ”が入る。

それが、『スリル』という楽曲の真価だ。

余談ながら、布袋非公認でありながらも後年この曲が江頭2:50の登場曲として定着していくのも、この“強さ”ゆえだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。