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30年前、日本中が心奪われた“ありえないほど重たい青春ドラマ” 暗い時代に映した“リアルな若者の痛み”

  • 2025.7.28

「1995年の秋、どんなドラマに心を奪われていたか覚えてる?」

バブルが完全に崩壊し、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が社会を大きく揺るがせたこの年。日本全体がどこか不安定で、どこかピリついた空気をまとっていた。

そんな時代のど真ん中に登場したのが、いしだ壱成主演のドラマ『未成年』だった。

このドラマは、ただの青春ドラマではない。笑いもない、明るさもない。あるのは、出口の見えないモヤと、若者たちの「息苦しさ」だった。

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(C)SANKEI

“どこにも行けない”少年たちが出会った、それぞれの“限界”

1995年10月13日から金曜22時の枠で放送が始まったTBS系ドラマ『未成年』。脚本は、当時からすでに一線を走っていた野島伸司。

主人公は、将来に何の確信も持てず、家庭内でも孤独を抱える高校3年生・戸川博人(いしだ壱成)。どこにも自分の“居場所”がない――そんな感覚を抱えたまま日々を漂う彼は、ある日、女子大生・新村萌香(桜井幸子)と偶然出会う。

だが、博人が淡い期待を抱き始めたその相手は、後に兄の恋人として家に現れる。目の前で、大切なものが音もなく壊れていく感覚。それは、博人にとって“決定的な孤立”の引き金だった。

その孤独の中で彼が出会うのが、知的障害を持つ仁(香取慎吾)、優等生だが家庭に問題を抱える勤(河相我聞)、博人の幼なじみの順平(北原雅樹)、暴力団構成員として生きる五郎(反町隆史)の4人。

それぞれに傷を持ち、居場所を持たず、「正しく生きたいのに、正しさがわからない」――そんな未成熟な魂たちが、偶然にも集まり始める。

“ありえないほど重たい青春”が、なぜ心を打ったのか

『未成年』は、恋愛でも友情でも夢でもなく、“不在”の連続を描いたドラマだった。

大人にもなれず、子どもにも戻れない、半端な年齢。社会からは期待されず、家庭からも認められず、どう生きていいかもわからない。

そんな“未完成”な若者たちが、時に暴走し、時に自滅しながら、それでも繋がろうとする姿があった。

中でも印象的だったのは、障害を持つ仁をめぐる展開。

「命とは何か」「守るとはどういうことか」を突きつける重く痛切なテーマは、当時のドラマとしては異例だった。

そして、その世界観を静かに彩ったのが、劇中で随所に流れるカーペンターズの楽曲。

『Top of the World』『I Need To Be In Love』など、穏やかで切ない旋律が、登場人物たちの痛みや不安を際立たせていた。

今なお忘れられない“問いかけ”を残したドラマ

主演の戸川博人を演じたのは、当時若手俳優として注目されていたいしだ壱成。そして物語の鍵を握る新村萌香を桜井幸子が繊細に演じきった。

香取慎吾や反町隆史など、後に日本のドラマ界で確固たる地位を築いていく彼らが、等身大で“痛み”を演じた記憶は、今も多くの視聴者の胸に焼きついている。

また、本作には歌手としてデビューする前の浜崎あゆみが、女優として出演していたことも後に話題となった。

ちなみに、後に同じTBSで放送されたバラエティ番組『学校へ行こう!』の名物コーナー「未成年の主張」は、このドラマのタイトルと世界観から着想を得たとされている。屋上での“叫び”とラストに流れるカーペンターズの楽曲は、まさにこのドラマへのオマージュだった。

30年経った今だからこそ、見直すべき“未成熟な衝動”

『未成年』が描いたのは、「青春は明るいものだ」という幻想を壊す、リアルな痛みだった。

その痛みを、誰も笑わず、誤魔化さず、真っ直ぐに見つめた作品だった。

理不尽な現実と、出口のない感情。

それでも誰かと関わりながら、自分の輪郭を見つけようとする姿が、どこまでも切なく、美しかった。

未熟だからこそ、心は激しく揺れる。

その揺れを肯定してくれたこのドラマは、30年経った今も、確かに誰かの“現在”に寄り添い続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。