1. トップ
  2. 30年前、日本中の心に刺さった“静かな月9名作” 事件も衝撃も無いのに沁みた“あえて叶わぬ恋の物語”

30年前、日本中の心に刺さった“静かな月9名作” 事件も衝撃も無いのに沁みた“あえて叶わぬ恋の物語”

  • 2025.7.27

「1995年の夏、どんなドラマに心を預けていたか覚えてる?」

スマホもSNSもなかった1995年。約束はポケベルで、気持ちは手紙で伝えていた――そんな時代。人と人が「ふとした再会」にすべてを託していた頃に、ひとつの静かな恋物語が始まった。

1995年7月3日スタート、フジテレビ系列で月曜9時に放送された『いつかまた逢える』だ。

時代の真ん中で、恋愛の“切なさ”と“優しさ”に静かに寄り添った月9ドラマだった。

undefined
(C)SANKEI

友情と再会が織りなす、交差した恋心の行方

舞台は東京の小さな編集プロダクション。福山雅治が演じる主人公・紺野伸一は、上京後も変わらず交流を続ける高校時代の親友である荒木(椎名桔平)と乾三(今田耕司)と、気のおけない日々を過ごしていた。

ある日、荒木の代理としてお見合いに出席した紺野の前に現れたのは、かつて淡い想いを抱いていた高校の後輩・つゆ美(桜井幸子)。思いがけない再会に心が揺れるも、やがて彼女が想いを寄せているのは自分ではなく、親友の荒木だと知る。

紺野は自分の恋心を胸にしまい、ふたりの恋をそっと後押しするという道を選ぶ。

『いつかまた逢える』は、再会がもたらすささやかな希望と、“誰かの幸せを願って身を引く”という優しさが滲む、静かな群像劇だ。

“あえて叶わない恋”に踏み出した、優しさの物語

華やかな事件も衝撃の展開もない。けれどそこには、“好きだけど、譲る”という選択が持つ、静かな強さと優しさがあった。

主人公・紺野の感情の動きは、決して声高には語られない。

でもだからこそ、画面越しに伝わる微妙な表情や距離感が、よりリアルに心に刺さる。自分の気持ちを押し殺し、彼女の幸せを願う。

そんな“報われない役回り”が、なぜか懐かしく、そして美しく感じられたのは、あの時代特有の温度感かもしれない。

友情と恋愛のあいだで揺れながらも、どこかでお互いを大切に思っている。そんな関係性が、“青春の終わりと大人の始まり”を象徴していた。

夏の夜に流れた、あの主題歌とともに

このドラマの空気感を支えていたのが、主題歌のサザンオールスターズ『あなただけを~Summer Heartbreak~』(作詞・作曲:桑田佳祐)。

南風のように軽やかで、どこか寂しげなメロディは、“一歩届かない恋”の感情にぴったりと重なっていた。イントロが流れるだけで、視聴者の胸にはあの切なさがふと蘇る。

また、劇中音楽を手がけた日向敏文による繊細なサウンドが、物語全体に優しい陰影をもたらしていた。ドラマの余韻を、音楽がさらに深めてくれた。そんな一作だった。

30年後の今、改めて思い出す“譲る恋”の温度

2025年の今、恋愛はもっと自由で、選択肢は増え、感情表現も多様になっている。

だからこそ、『いつかまた逢える』のような、“言わない”ことを選ぶ物語に、逆に新鮮さと深みを感じる。

あの頃、画面越しに紺野に重ねていた「自分」も、今はもう違う場所に立っている。

けれど、ふとした瞬間に思い出すのは、恋が叶う瞬間ではなく、叶わなかった気持ちを誰かのためにしまった時間――。

『いつかまた逢える』は、そんな“記憶の片隅にやさしく残る”ラブストーリーだった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。