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25年前、日本中が耳を奪われた“静かなる決意ソング” 130万枚超を記録した“ひとりの表現者”の出発点

  • 2025.8.3

「2000年の冬、どんな曲に心奪われた?」

ミレニアムイヤーが終わろうとしていた頃、日本の空気はどこか静かで重かった。経済も社会も「希望」を語るには曖昧すぎる。そんな不確かさの中で、ただ“真っ直ぐで強い何か”を欲していた――そんな時代だった。

その空気を震わせるように、ある1曲が静かに、だが強烈に響きわたった。

浜崎あゆみ『M』(作詞:ayumi hamasaki・作曲:CREA)――2000年12月13日リリース。

これは、ただのヒット曲ではない。浜崎あゆみが“自分自身の音”を鳴らし始めた、決定的な出発点だった。

“CREA=浜崎あゆみ”が初めて動いた瞬間

『M』は、浜崎あゆみにとって19枚目のシングル。

それまでの彼女は、言葉を紡ぐ作詞家としても絶対的な存在感を放っていた。だがこの作品では、それだけにとどまらなかった。

作曲者名義には「CREA」と記されている。

当時、この名義について明確な情報は明かされていなかったが、のちにそれが浜崎自身の別名義であることが明らかになる。

つまり『M』は、浜崎あゆみが作詞・作曲を手掛けて世に送り出した初の楽曲だった。

誰かの作った楽曲に感情を乗せるのではなく、「自分の感情そのものを音にする」ことに踏み出した、記念碑的な一作。

この曲から、浜崎は“歌う人”から“創る人”へと変化し始める。

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2002年の浜崎あゆみ (C)SANKEI

冷たく、でも力強く鳴り響いた“あの音”

『M』のイントロが流れた瞬間、空気がピンと張り詰める。

硬質なピアノの一音、重厚なストリングスの波紋。まるで冬の街並みそのものを切り取ったような、凍てついた美しさが広がっていく。

曲の構成も、サビへの展開も、極端にドラマチック。

ただ感情を煽るのではなく、「冷たさ」や「孤独」をそっと掬い上げるような繊細なサウンド設計が施されている。

そこにあるのは、J-POPによくある“前向きな応援”でも、“誰かに支えられる愛”でもない。

むしろ儚さと強さが同居する音像、そしてどこかで浜崎あゆみ自身の姿が重なるような、芯の通った孤独が響いていた。

『M』は、最終的に130万枚を超える大ヒットに到達。だが、その本質は売上ではない。聴く者の感情の奥底に、静かに深く突き刺さる“余白”の強さこそが、この曲を“特別”にしていた。

“表現者”から“創造者”への本格的な転換点

このシングルをきっかけに、浜崎はCREA名義での作曲活動を継続。翌2001年には『evolution』をリリースし、CREA名義による楽曲は今後の彼女の活動において重要な柱となっていく。

「歌われる曲」ではなく、「彼女にしか鳴らせない曲」

そのスタンスが確立されたのが、まさにこの『M』だった。表現全体を“自分のもの”として組み立てていく。その姿は、もはやアイドルでも、単なるシンガーでもなかった。

“自己を作品として貫く表現者”としての浜崎あゆみの始まりが、ここにある。

『M』という存在が、タイトルになる意味

それから19年後――『M』はふたたび大きな意味を持つことになる。

2019年、小松成美による小説『M 愛すべき人がいて』が刊行され、2020年にはテレビ朝日とABEMAとの共同制作でドラマ化。

浜崎あゆみの半生を描いたフィクションをベースに、彼女のキャリアの原点となった“ある関係”と“ある決意”が描かれていく。

そこで物語の象徴として選ばれたのが、他でもない『M』だった。

つまりこの曲は、彼女自身にとっても「ただのヒット曲ではない、決定的な1曲」だったということだ。

裏側に何があったのか、誰を想っていたのか――それを知らなくても、音だけで“何かが起きている”ことが感じ取れてしまう。

それほどの強度を、この曲は今も持ち続けている。

25年経っても、“あの冬”の空気を連れてくる

時代が変わり、音楽の届け方がストリーミングに変わっても、冬になると、ふと『M』が流れてくる瞬間がある。

それはきっと、この曲が時代の音ではなく、“感情そのもの”だったから

わかりやすく誰かを励ますのではなく、誰の心にもある“ひとりの時間”に寄り添うように鳴る。

誰にも届かない孤独を、誰よりも正確に音に変えたこの楽曲は、25年経った今でも、静かに、確かに、私たちのそばで鳴っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。