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30年前、日本中がザワついた“クセ強な別れ歌” ドロドロと甘さを共存させた“異色のエンタメ爆弾”

  • 2025.8.3

「30年前、どんな“クセ強バンド”がいたか覚えてる?」

1995年。テレビから流れてきたのは、思わず体が動いてしまうようなノリノリの曲だった。明るいのに、歌ってる内容は妙にドロドロ。爽快なのに、言葉のひとつひとつがやけに生々しい。

シャ乱Q『ズルい女』(作詞・作曲:つんく)――1995年5月3日リリース。

当時の音楽シーンでは、クールで洗練されたバンドが主流になりつつあった。そんな中に飛び込んできたのが、関西仕込みの“勢いとクセ”で押し切るバンド。とにかく、目立ちすぎていた。それが、シャ乱Qだった。

「何この曲!クセすごっ……でも、めちゃくちゃ聴いちゃう」

そんな声が、日本中で響いていた。

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1998年 ライブコンサートでのシャ乱Q (C)SANKEI

“シャ乱Qらしさ”が凝縮された1曲

『ズルい女』は、シャ乱Qにとって7枚目のシングル。累計で140万枚を超えるセールスを記録した、バンド最大のヒット曲のひとつだ。

メロディは親しみやすく、グルービーで楽しい。だが、歌詞とボーカルの存在感がとにかく濃い。“君”でも“あなた”でもなく、“あんた”

情念たっぷりの言葉選びと、つんくの鼻にかかった甘い声――そこに歌謡曲的なメロドラマの空気が漂う。

一見すれば“別れの歌”。だが、その裏には愛情も未練も皮肉も混ざっていて爽やかさゼロ、でも妙にクセになる。衣装もとにかく派手。

この“濃厚な味付け”こそが、シャ乱Qというバンドの真骨頂だった。

“ラブバラード”から“ラーメン”まで、雑多なセンスが光ったバンド

シャ乱Qは、よく“コミックバンド”と誤解されることがある。確かにバンド名もクセが強い。インディーズ時代からコミカルな要素も武器にしていた。だが、ただの“面白いバンド”では終わらなかった。

『シングルベッド』のような切ないラブバラード。『上・京・物・語』のような等身大の青春ソング。一方で、『ラーメン大好き小池さんの唄』のようなサウンドも歌詞もクセが強いユニークな曲もあった。

そして、そのどれもが“シャ乱Qらしい”と言えるのがポイントだ。

音楽性に振り幅がありながら、つんくのボーカルとバンド全体の“関西的ノリ”が一本芯を通していた。

『ズルい女』は、まさにそうしたシャ乱Qの“全要素詰め込み型”の曲だった。ドラマチックな歌詞。感情を煽るメロディ。甘いのに暑苦しいボーカル。バンドの持つ真面目さとふざけた感性が見事に同居していた。

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1997年公開映画『シャ乱Qの演歌の花道』舞台挨拶の様子。後列左はメガホンをとった滝田洋二郎監督 (C)SANKEI

城天ストリートから這い上がった“雑草ロック”

シャ乱Qは、大阪・城天(大阪城ホール前)の路上ライブで活動を重ねながら、実力と知名度を積み上げてきた城天バンドの先駆的存在だ。いわば“ストリート育ちのやんちゃバンド”。その背景が、彼らの曲に滲み出る“泥くささ”や“生活感”を生み出していた。

当時の音楽シーンは、ヴィジュアル系やビーイング系など多様なバンドが盛り上がりを見せていた時代。そんな中で、昭和歌謡を下敷きにした“歌ってしゃべるような”つんくのボーカルは、異彩を放っていた。

ただしその異質さが、むしろ逆にリスナーの耳を掴んだ。

クセが強い、けれどそれがイイ――そんな共感が、広がっていったのだ。

今もどこかに“あんた”はいる

『ズルい女』がリリースされてから30年。音楽シーンは大きく変わり、トレンドもサウンドも常に移り変わっている。だが、今もなお、「ズルい女」を耳にすれば、1990年代の空気が一気によみがえる。

人は誰しも、どこかで“あんた”に出会ってしまう。

そして、その“あんた”に翻弄されてしまう。

だからこそ、この曲は今も、変わらずにリアルだ。

シャ乱Qというバンドが、どれほど特異な存在だったか。

そして、その“特異さ”が時代の中で確かな意味を持っていたことを、『ズルい女』は証明し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。