1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「文化、都市、国ごとに進め方がある。まずは根気強く対話を続けること」──台湾と日本の“今”をマンボウ・キーと與真司郎が語る【プライド月間 2025】

「文化、都市、国ごとに進め方がある。まずは根気強く対話を続けること」──台湾と日本の“今”をマンボウ・キーと與真司郎が語る【プライド月間 2025】

  • 2025.6.17

近年、LGBTQ+という言葉が広く認識されるようになってきた。そこには多様なセクシュアリティや性自認などで暮らしをおくる、さまざまな当事者が含まれる。徐々に言葉が広がりをみせる一方、現在の日本社会の枠組みや法制度、メディア表象などでは未だに不可視化され、とりわけ特定のコミュニティに対しては差別や偏見が根深く残り続けている現状がある。アジアという枠で捉えると、今年1月にはタイで同性婚を認める法案が施行。ネパールに続き、アジアで3番目となった。その先頭を進み続けているのが台湾だ。台湾では2019年に同性婚が合法となり婚姻の平等が保障された。また、教育や雇用分野に限られるものの差別禁止法も制定されている。各国・地域が少しずつ前進ををみせる一方で、日本では未だに婚姻の平等も認められず、差別禁止法の制定も滞っている。今、台湾での現状を知ることで、さらなる社会の変化を促したい。

Read More >>> 東京高裁で「同性同士の婚姻を認めないのは違憲」──アジアのアクティビストらに訊く各国の実情

台湾を拠点に世界で活躍するアーティストの登曼波(マンボウ・キー)は、LGBTQ+コミュニティの可視化や家族という枠組みへの問いかけ、トランスジェンダーを含めより周縁化された人々の権利などをテーマとした作品を制作。台湾版『VOGUE』の表紙も手がけ、とくに台湾クィアシーンのダイナミクスを写すことで注目を浴びている。そんなマンボウは、6月に渋谷パルコ PARCO MUSEUM TOKYOで個展『HOME PLEASURE|居家娛樂』を開催。「台湾のLGBTQ+運動の歴史についても知ることができる」とした本展に際し、日本の“今”をピックアップするため2023年にゲイを公表し、その権利にも声をあげるアーティストの與真司郎を撮り下ろした。マンボウと與──、2人は台湾と日本、そしてアジアにおける現状をどのように捉えているのか。

6月のプライド月間に合わせ、2人の対談を敢行した。

台北では多様な当事者が混ざり、分かち合う機会がある

〈左から〉與真司郎、登曼波(マンボウ・キー)
〈左から〉與真司郎、登曼波(マンボウ・キー)

──おふたりは今回、マンボウさんの東京での個展に際した撮影でご一緒されています。それが初対面でしたか。

マンボウ 撮影の前にオンラインで打ち合わせをしましたが、実際に会うのは初めてでした。伝統的な歴史ある日本家屋の美しい庭と素晴らしい天候のもと、真司郎とも相談をしながらとても自然な流れで撮影ができました。

──撮影中も活発なコミュニケーションがあったとお伺いしました。どのようなことを話されたのでしょう。

撮影中に個人的な話はしなかったんですが、撮影後には日本と台湾の違いなどについて話しました。もちろん日本も徐々によくなってきていると思っていますが、ご存知の通り台湾は、LGBTQ+の話題に対してよりオープンです。同性婚ができますし、人々もそれを受け入れています。 僕は仕事で台北に行ったことがありますが、プライベートではありません。なので彼に「どこか(おすすめのアドレス)へ連れて行ってほしい!」と伝えました。

マンボウ 行きましょう! 僕は今、東京の新宿二丁目以外の場所にも興味があります。いつも日本に来ると二丁目に行くのですが、そこは男性のゲイの人ばかりで、ほかの性別やセクシャリティの人と触れ合う機会がありません。そこが台北とは少し違うと感じています。台北では多様な人々が混在していて、知り合える。自分がレズビアンバーやクィアバーに行くこともありますし、ゲイバーだけが居場所ではありません。

──たしかに、日本にはどこかで“線引き”がある気もします。マンボウさんの作品では、さまざまな側面から捉えたLGBTQ+コミュニティの可視化や、社会や家族という枠組みへの問いかけなどがテーマになっています。與さんは作品を見てどう思われましたか。

今回一緒に作り上げたビデオ、あれは素晴らしいアイデアでした。今までやったことがないものだったし、マンボウのアイデアは本当に刺激的でした。彼にはとてもインスパイアされています。

──マンボウさんは與さんにどのような印象を抱きましたか。

マンボウ 彼は日本のポップカルチャーシーンでカミングアウトしている数少ない人です。実は台湾でも日本のポップカルチャーは人気で、1990〜2000年代の僕が10代のころとくに触れていました。でもそこには、ジェンダーに関する問題を含めいくつもの課題があるように思います。

日本・東京という都市やその文化、人々に対する自分の考えもありつつ、今回のプロジェクトで最も大切なのは真司郎の話を聞くことだと思っていました。ともに作り上げたビデオは詩的で、はっきりと見えるものではありません。それ自体が今の日本の“現状”に近いと感じています。人々は(LGBTQ+の)存在を知っているものの、それについてどう話せばいいかわからない。とくに公の場では難易度が高いです。一方、台湾では日常の一部として話されます。レストランの店員さんにだって、自然に話すくらいです。なので、ここ(日本)ではより隠されていると感じています。少しずつ受け入れられている側面もありつつ、公の場では一貫して隠されていますね。

そう思います。日本人のなかにはまだ、それが何なのかを実際には知らない人も多いので、まずはもっと知ってもらうことが必要だと思います。また、誰かが大きな声でカミングアウトをして、可視化させることも重要だと考えます。

──台湾では2019年にアジアで初めて婚姻の平等が実現しています。日本では依然として認められていないなか、日本・東京で展示を行うことをマンボウさんはどう捉えていますか。

マンボウ 僕が日本人ではないからこそ言えることがある、という“自由”を感じます。一方で、日本の人々が実際にどう感じているかを聞く必要があるとも思っています。この展示を東京で行うにあたり、真司郎や『THE BOYFRIEND』に出演したUsakさんとも撮影をしました。日本で暮らす人々とのつながりを感じ、対話をすることが最も重要だと感じていたからです。もちろん写真の美しさや自分のスタイルにも気を配りつつ、そこに写る人物が持つ意味も意識しています。

──事前のトークショーでは、おばあさまの存在についても話していましたね。

マンボウ 祖母は日本統治時代の台湾で教育を受けていて、日本語と客家語を話します。なので、日本で展示をすることは僕のバックグラウンドや家族にとっても大きな意味があります。僕自身は日本語を話すことはできないのですが、東京に来るとそのコミュニケーションの取り方などからも、祖母の哲学と共通する部分を垣間見る気がします。

──與さんは台湾と日本の違いについて思うことはありますか。

僕は台湾にあまり行ったことがないのですが、日本でも絶対に婚姻の平等が実現するべきだと思っています。すぐにでもそうなるといいですよね! 以前住んでいたロサンゼルスでは、ゲイタウンでなくとも同性同士みんな手をつないで歩いていますし、それを誰も気にしていません。母が初めて遊びにきたときに、そのオープンさに驚いていたほどです。母はもしかすると、僕がゲイであることを心配していたかもしれません。ただ、ロサンゼルスに来たことで母自身の考えも変わったと思います。日本でももっと当事者を見かける機会が増えれば、みんな少しずつ理解が深まると思います。

──さらなる可視化が必要ですね。ロサンゼルスから東京に戻ってきて、どう感じましたか。

東京に戻る前は、ジャッジされ居心地が悪いと感じるだろう、と予想していましたが、カミングアウトしてみると90%がポジティブな反応、10%がネガティブなものでした。カミングアウト前は逆だと思っていたので、本当によかったです。安心しました。

台北や東京などの複層的な背景を持つ街にこそ期待したい想像力

──アーティストとしてカミングアウトし、メインストリームに持ち込むのは、とくにアジアにおいては容易ではないと思います。この話題を社会に投げかける際に意識していることはありますか。

マンボウ 僕は人々が会話するきっかけになれば、と思って展示を決めました。当時ファッションフォトグラファーとして長いあいだ働いてきていたので、個人で作品を作る必要はありませんでした。けれど、自分自身もずっと婚姻の平等のための運動に参加するなかで、「誰であれ他者の結婚を止める権利はない」という想いを発信したかったのがきっかけです。僕の両親は結婚していませんが、(異性カップルなので)結婚するかどうかを“選ぶ権利”はありました。

今回の展示からもわかるように、父はクィアです。なので、同性婚が成立したタイミングで父にも話を聞いたところ、世代間でのギャップも感じました。僕の世代ではカミングアウトすること自体に問題はありませんが、上の世代ではまだまだ難しい。時代背景が違うので、かれらの人生では当事者を見てこなかったこともあり根付いていません。父が生きた時代と僕自身が生きる時代を並べ、世代間の会話を公に出すことにも、大きな意味があると考えたのです。

日本にはまだセクシュアリティで悩んでいる人がたくさんいることを知っていたので、少しでもかれらに勇気を持ってもらうキッカケになればと思っていました。とくに日本の芸能界ではおそらく大半の方がカミングアウトしません。でも、誰かが行動しなければ変わらないことも知っていたので、恐怖心を持ちつつもカミングアウトすることに決めました。自分自身のことを手紙に書いて、ステージで読み上げ、ファンの前でカミングアウトすることはすごく不安でした。今でもたくさんのファンが応援してくれていると同時に多くのファンも失いました。でも後悔はありません、カミングアウトしてからは最高の人生を送っていますし、やってよかったです。

──マンボウさんの作品には、トランスジェンダーをめぐる差別など、より周縁化されたコミュニティを主題にしたものも。ゲイだけでなく、ほかのマイノリティの現状も含め、今後日本および台湾の現状がどのように変化していくことを願っていますか。

もっとノーマライズされたらいいなと思います。特別だと思われたくありません。僕たちはなにも特別ではなく、“普通”に生きたい“普通”の人間です。

マンボウ 僕はいつだって全員が異なっていて、それでいいと思っています。違いこそが重要で一人ひとり違っているべき、でもその“違い”で人をジャッジしてはいけない、と伝えたいです。それぞれ異なるみんなを個人的に知り、親密になることによろこびを感じますね。

──日本の文化では、周りと“違う”ことが難しい場面も多いです。

アメリカ人の友達が一度こう言ったことがあります、「日本はとてもオープンマインドだ」と。なぜかを聞いたら、「たとえば原宿や秋葉原、みんな自分の好きな服を着て好きなことをやっている」と話していて、確かにそうだなと思いました。日本の人たちはただ、ゲイが何かを知らないだけで、知れば理解できるはずだと信じています。

──それは興味深いですね。台湾は歴史的な背景からもさまざまな文化が混在していますが、どうですか。

マンボウ 台湾には4つの公用語があります。台湾語、中国語、客家語、そして原住民語で、地下鉄など公共の場では必ず4つの言語を使って表示をしないといけません。とくに台湾にとって原住民の文化はとても大きな意味を持っていて、同化政策の影響でほとんど失われてしまったその文化を、近年では民主化運動や文化復興の動きにより守ろうとしています。有名なポップ歌手のなかにも原住民出身の人がいて、その人の存在が若い世代にも影響を与え、多くの人が興味を持つきっかけになりました。複層的なアイデンティティを持つ人がいる、それはクィアとも共通する部分があるかもしれません。ジェンダーやセクシャリティ単体としてだけでなく、出自やバックグラウンドの視点にも関連付けて想像ができると理解しやすいのではないでしょうか。

──求める“変化”のために、音楽アート、写真などの文化的なアプローチはどのように力を発揮できると考えますか。

もっと表にでて活躍する影響力のある人がカミングアウトをすれば、大きく変わると思います。

マンボウ 影響力のある人がカミングアウトをする意義は非常に大きいと思います。台湾にももちろん、カミングアウトしている有名な映画監督やテレビ司会者、歌手や俳優などがいますが、まだまだ簡単ではありません。

本当に大変です。自分のやりたいことを続けるために立ち向かわなければならないし、時間はかかりますが、サポートしてくれる人も、自分らしくいることを評価してくれる人も必ずいます。

──なぜ、エンタメ業界ではカミングアウトをする人が少ないのでしょうか。

カミングアウトする前は、キャリアを失うのがとにかく怖かったです。20年かけて築いたものを全て失う覚悟をしていました。もし日本で受け入れてもらえなかったら、全てをやめてロサンゼルスに完全に移住する覚悟もしていました。でも幸いにも、今も仕事を続けられているし、応援してくれるファンもいます。スタッフや家族、友人もみんなサポートしてくれています。だから、ゲイであることは悪いことじゃない、と知ってほしいです。今、最高の人生を送っています。

プライドはとても政治的。根気強く会話を続けることで変化が生まれる

──6月はプライドマンスになります。お二人にとって「プライド」はどんな意味を持っていますか。

マンボウ コミュニティが公の場で一緒になるときです。以前の台湾のプライドパレードはより政治的な色が強かったのですが、今は“お祝い”に近いです。一方で、トランスジェンダーにフォーカスしたパレードは今もとても政治的です。かれらのためのスペースや公共のトイレが必要か、手術なしでも性別の変更が可能かなど、まだまだ細かな課題がたくさんあります。政府も変わってきている途中だからこそ、社会で会話をオープンにする必要があるのです。まず最初は何が起きているかを話し、人々に情報を伝えて理解をしてもらうこと。少なくとも話すチャンスを作ることが重要です。

2年前にカミングアウトしたばかりなので、この質問は少し難しいですね……。プライドとは誰もが持つべきもの。みんながプライド、自信を持って生きるべきだと思います。今年は初めて、アメリカのプライドパレードに参加します。クローゼットだったころは見つかりたくなくて行けなかったんです。でも今年は、アメリカにいるたくさんの友達と一緒にパーティーをします。とても楽しみです。

──昨年は東京でのプライドパレードにも参加されていましたね。

東京のプライドパレードは、これまで参加してきたヨーロッパや、話に聞くアメリカのものとはまた違います。ヨーロッパやアメリカではお祝いの要素も強いですが、日本では「僕たちはここにいる」ということをアピールするデモのような印象です。

──最後に、過去の自分にかけたい言葉と、日本のLGBTQIA+コミュニティに伝えたいメッセージを教えてください。

自分自身に言いたいのは、いい人と出会う努力をすれば、カミングアウトしても誰かが助けてくれるし、愛してくれる人が必ずいるということ。ゲイであることは悪いことじゃないし、怖がらなくていい。信頼できる仲間をみつけることができたら最高の人生が待っているよ、と伝えたいです。そしてみんなにも、サポートしてくれる人はたくさんいるし、もっと愛してくれる人がいるから、ネガティブな人がいても気にしないで、ポジティブな面に目を向けてほしいです。

マンボウ 食べ過ぎないでね、ですかね。僕は子どもの頃、すごく太っていたので(笑)。あとは当事者として権利を求めていく上で、どの文化、どの都市、どの国にもそれぞれに適した進め方があって、無理に合わせる必要はないということを伝えたいです。まずは根気強く対話を続けることで、変化が生まれるチャンスがあると信じています。台湾でも、みんなが続けてきたからこそ今があると思っています。

Photos: Aya Yasuda Text & Editor: Nanami Kobayashi

READ MORE

元記事で読む
の記事をもっとみる