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「あまりにも酷すぎる」「ほんと覚悟して観て」“残虐すぎる脚本”に震撼…“約100年前の実話”を元に描かれた衝撃作

  • 2025.7.6

映画の中には、実際に起きた事件とよく似た状況を描いた作品があります。今回は、そんな「実在の事件を彷彿とさせる作品」を5本セレクトしました。本記事では第4弾として、映画『福田村事件』(太秦)をご紹介します。関東大震災の混乱のなかで実際に起きた、行商団への集団虐殺。その“語られなかった過去”と向き合った映画が、いま問うものとは――。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

混乱のなかで広がった集団心理の暴走――災害の陰で起きた“もうひとつの悲劇”

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(C)SANKEI
  • 作品名:映画『福田村事件』(太秦)
  • 公開日:2023年9月1日
  • 出演:井浦 新(澤田智一 役)

あらすじ

1923年、澤田智一(井浦新)は、日本が統治していた朝鮮・京城(現在のソウル)での教師生活に別れを告げ、妻の静子(田中麗奈)とともに故郷・福田村へ戻ってきました。智一は、赴任先で日本軍による虐殺の現場を目撃していましたが、その記憶を胸の奥に封じ込め、静子にさえ真実を語らずにいました。

一方そのころ、四国の讃岐(現在の香川)から、ある行商団が関東方面を目指して旅立ちました。

そして迎えた9月1日、関東大震災が発生。人々が混乱に陥る中、「朝鮮人が集団で襲ってくる」といった根拠のない流言が各地で広まり、“正義”の名のもとに暴力が容認される異常な空気が、日本中を覆いました…。

震災から5日後の9月6日。この日、行商団の一行15名は次の土地を目指して利根川の渡し場へ向かっていました。しかし、そこで起きた些細な口論が、村人たちの集団心理を刺激してしまいます。行商団の彼らを待ち受けていたのは、あまりにも理不尽で、後に歴史の闇に葬られることとなる惨劇でした。

歴史に埋もれた出来事を“実話に基づくフィクション”として描く挑戦作

『福田村事件』は、1923年9月に発生した関東大震災の混乱の中で、実際に起きた虐殺事件をもとに描かれた作品です。

関東各地で不安と混乱が広がる中、香川県から行商に訪れていた一行が、千葉県のある村で讃岐弁を話していたため「言葉ががおかしい」と疑われ、集団心理の暴走によって襲撃されました。この悲劇により、15人のうち9人が命を落としましたが、この事件は長い間、歴史の中に埋もれていました。

本作は、“福田村事件”を題材にしていることが公式に明かされています。一方で、フィクションとして構成された作品であることも、監督自身がマガジン9のインタビューで語っています。

今回の福田村事件は、ドキュメンタリーにするには素材がなさ過ぎて無理だったということもあって、実話に基づいたフィクションということになりました
出典:森達也さんに聞いた:負の歴史に向き合わなければ、また同じ過ちを繰り返す――映画『福田村事件』(マガジン9編集部) 2023年8月9日配信

主人公の澤田智一や静子をはじめ、登場人物の多くは創作によって描かれていますが、彼らの姿を通して浮かび上がるのは、震災や混乱の中で「人はなぜ他者を疑い、攻撃してしまうのか」という問いかけです。また、映画の公開をきっかけに、事件そのものへの関心が高まり、広く知られるようになりました。

その一方で、「フィクションと史実の区別がつきにくいことで、かえって誤解が生まれてしまう」といった声もあり、過去を正しく伝えていくことの難しさも改めて浮き彫りになっています。

SNSでは「あまりにも酷すぎる」「ほんと覚悟して観て」というコメントも見受けられ、本作を真摯に受け止めていることがうかがえます。

史実と創作のはざまで描かれた“風化させてはいけないもの”

『福田村事件』は、主演の井浦新さんにとって特別な作品なのだとか。どの役を演じるかも決まっていない段階から、森達也監督の劇映画初挑戦に立ち会いたいという想いで参加を決めたといいます。

この作品を演じる上で一番大事だったのは、ここに登場する人たちは、村人も在郷軍人も行商団も朝鮮人も、登場人物全員が戦争の被害者だっていう意識を、絶対にブレさせちゃいけないと思っていました。
出典: 「知ることがどれだけ大事か」井浦 新が、森 達也監督の初長編劇映画『福田村事件』を通して見詰めたもの(BARFOUT!)AUG. 25 2023配信

その想いが、登場人物たちの抱える痛みを際立たせ、観客に感動をもたらしたのでしょう。

本作については、「脚色が目に付く、事実とは違う映画」という声がある一方で、「今も続く日本の差別問題を深く考えさせられた」「事件を埋もれさせてはいけないという制作陣の決意が、強く感じられる映画だった」といった称賛の声が後を絶ちません。

災害や事故の教訓は「風化させてはいけない」と語り継がれる一方で、植民地支配や震災下の虐殺といった不都合な歴史は、いまだ語られにくい現実があります。

そんな中、震災の混乱の中で起きた悲劇に正面から向き合った『福田村事件』が果たす意義は、決して小さくありません。
過去とどう向き合うかを、観る人それぞれに問いかける名作です。


※記事は執筆時点の情報です