1. トップ
  2. 「あまりにも救いがない」「キツすぎる」“攻めた脚本”に嘆く声も…だけど「なんでもっと評価されないの?」疑問の声あがる名映画

「あまりにも救いがない」「キツすぎる」“攻めた脚本”に嘆く声も…だけど「なんでもっと評価されないの?」疑問の声あがる名映画

  • 2025.7.2

映画の中には、実際に起きた事件とよく似た状況を描いた作品があります。今回は、そんな「実在の事件を彷彿とさせる作品」を5本セレクトしました。本記事では第1弾として、映画『ロストケア』(東京テアトル・日活)をご紹介します。献身的な介護の果てに下した決断――それは“殺人”だったのか、それとも“救い”だったのか――。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

信頼されていた介護士が容疑者に――介護の現場で何が起きていたのか?

undefined
(C)SANKEI
  • 作品名(配給):映画『ロストケア』(東京テアトル・日活)
  • 公開日:2023年3月24日
  • 出演:松山ケンイチ(斯波宗典 役)

ある早朝、住宅街の一軒家で、老人と訪問介護センターの所長の遺体が見つかります。捜査の結果、容疑者として浮上したのは、そのセンターに勤める介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)でした。斯波は献身的な人柄で、利用者の家族から信頼されていました。

事件を担当する検事・大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が働くセンターで高齢者の死亡率が異常に高いことに気づき、斯波と対峙します。

私は救いました

斯波は犯行を認めながらも、それは殺人ではなく“救い”だったと主張します。彼の言う“救い”とは何なのか。そして、なぜ心優しい青年が連続殺人に至ったのか。斯波の揺るがぬ信念は、大友の中にある正義感をも大きく揺さぶります――。

直接のモデルはない、それでも事件を想起させる衝撃作

映画『ロストケア』は、介護殺人を扱った作品ですが、特定の実在事件を直接モデルにしたわけではありません。ですが、原作者の葉真中顕さんは、本作を執筆するにあたり、2006年の“京都伏見介護殺人事件”に衝撃を受け、強く印象に残っていると語っています。

この事件は、認知症の母をひとりで介護していた息子が生活苦から心中を図り、母を殺めてしまったものです。ただし、物語はこの事件を題材にしたものではないと明言されています。

また、しばしば比較される2016年の“相模原障害者施設殺傷事件”は、障がい者施設で19人が犠牲となった大量殺傷事件で、加害者の優生思想が社会に大きな衝撃を与えました。

ただし、原作小説はそれ以前の2013年に出版されており、内容に共通点はあるものの関係はありません。映画化にあたっても、この事件と混同されないよう注意を払ったと語っています。

『ロストケア』は、作者自身の介護経験と社会への問題意識から生まれたフィクション作品です。

10年の歳月が描き出す、介護と命の尊厳

日本では、65歳以上の高齢者が人口の約3割を占め、介護をめぐる事件が後を絶ちません。

こうした現実に真正面から向き合ったのが、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さんの小説『ロスト・ケア』です。

この原作を映画化したのは、『そして、バトンは渡された』『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』などで知られる前田哲監督です。企画の立ち上げから完成までに10年をかけ、その間、脚本も20稿以上にわたって練り直されたという、まさに渾身の一作です。

主演の松山ケンイチさんは、42人の高齢者を手にかけた殺人犯・斯波を熱演。介護に真剣に向き合ってきた男の複雑な心情を丁寧に演じ、検事・大友秀美役の長澤さんと、信念と正義をぶつけ合う迫真のやりとりを繰り広げます。

共演には、鈴鹿央士さん、坂井真紀さん、柄本明さんといった実力派がそろい、物語に深みを与えています。

介護と尊厳をめぐる現代社会の問題に真正面から向き合った本作には、SNSでも「安楽死は必要だ。凄惨な介護は誰も幸せにしない」「安楽死を認めたら良いという意見もわかるし私もそう思うが、どんなリスクがあるか考えなければいけない」「社会制度、安楽死、なるべく早く議論を進めるべき」など物議を巻き起こし、社会制度までもを考え直すべきという意見も多くみられる事態に。

そんな議論が行われるほど、本作は視聴者の心に深く届き、考えさせられる名作だということがうかがえます。

また、「介護する側・される側、どちらの苦しさも胸に迫る」「あまりにも救いがない」「キツすぎる」「多くの現代人が直面する介護問題に切り込む作品」「この作品もっと注目されてても良いのでは」「なんでもっと評価されないの?」といった共感の声やさらなる評価を求める声も多数寄せられています。

介護をめぐる苦悩や葛藤は、もはや他人事ではありません。『ロストケア』は、その現実に正面から向き合い、私たちに「命の尊厳とは何か」を問いかけます。超高齢社会を生きる私たちにとって、今こそ観るべき一本と言えるでしょう。


※記事は執筆時点の情報です