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マイノリティとしての悩みやグチを描く場面も。「ハーフ」と呼ばれる人々の日常と葛藤

  • 2025.5.30

藤見よいこさんによる、コミック『半分姉弟』をご紹介します。

「ハーフ」の葛藤を通して描く、「わかり合えない」先にある希望。

「構想自体は3年ほど前からありました。以前はあまり光が当たらなかった属性の人たちが映画などで主人公になる潮流があり、もし自分が描くなら“ハーフ”だと思ったので」

本作は、日本とそれ以外の国にルーツを持ち、世間からハーフと呼ばれている人たちの葛藤を描いた群像劇なのだが、作者の藤見よいこさんもその当事者の一人。第1話で登場するのは、日本人の母とフランス人の父を持つ姉弟で、弟が父の苗字を外して改名したことを姉に告白するシーンから始まる。姉は、幼い頃から異質な存在として扱われる自分を受け入れてもらう処世術としてお調子者となり、上京し“黒人”ライターとして活躍している。対して5歳下の弟は、生まれ育った地元で事務員として働き、“普通になること”を望んでいる。

「ハーフとして一括りにされる人たちでも、たとえば地方出身者と、都市部のインターナショナルスクールに通った人とでは、見てきた風景が全然違っているはずです。もっと言えば、この姉弟のようにルーツは一緒でも、性別や世代でもスタンスが変わってくるので、その違いを意識的に描きたいと思っています」

さらに、中国人の母を持ち、見た目ではハーフとわからない女性の苦悩や、そういった人を無意識に傷つけてしまっていた非当事者の気づきも、それぞれの視点から描かれる。

「ハーフに関することに限らず、『あの言動はダメだったかも』と反省した経験は私もあります。第1話でも描いているのですが、親友同士でさえわからない部分があるのは当然のこと。わからないから断絶するのではなく、完全にはわかり合えないということを理解した人たちが、どう行動するのかを本作で描きたいのかもしれません」

複雑なテーマではあるが、マンガとしての面白さ、入りやすさをあくまでも大事にして描かれている本作。各話で主人公になるハーフ仲間の飲み会での会話は、マイノリティとしての悩みやグチを吐露しつつも、語りのテンションは“あるある”な女子トークだ。

「居酒屋やラーメン屋に行ったり、コンビニでお酒を買ったり、友達とおしゃべりしたりなど同じような日常を過ごしている姿をたくさん見せたいと思って。そこから共感してもらえたら嬉しいですね」

世間の意識の変化に敏感に反応しながら、多様な人たちを描いていけるのも群像劇のメリットだろう。

「1巻の冒頭で注釈を入れているのですが、ハーフという呼称にもいろんな議論があります。このマンガでは正しいことを言いたいわけではなく、正解がないようなことをずっと考えていきたいと思っています」

PROFILE

藤見よいこさん

ふじみ・よいこ マンガ家。福岡県出身。2014年『ふたりじめ 戦国夫婦物語』でデビュー。著作に『こんな夜でも、おなかはすくから。』など。

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan2448号(2025年5月28日発売)より

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