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映画とゲームが交錯する未来【MY VIEW|小島秀夫】

  • 2025.5.28
6月26日に発売となる最新作「DEATH STRANDING 2_ ON THE BEACH」より。Photo: Courtesy of Kojima Productions
6月26日に発売となる最新作「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」より。Photo: Courtesy of Kojima Productions

僕はゲームがない時代に育ちました。その影響は「シネマティックは映像表現」と評されることが多い自分の作品にも表れています。ゲームに対する先入観がない分、自ずと小説や映画で得た知識や技法をゲーム開発に生かすようになったのです。それもあり、ほかのメディアのクリエイターとも頻繁に意見交換をします。次回作のアイデアや好きな映画の話はもちろん、共通の悩みについて話すことも多いです。というのも、ディレクターは孤独。「この指とまれ」と言ってプロジェクトを始めたら、最後まで指を下ろせません。とまってくれた人たちへの責任があるからです。そこで生まれる苦悩や軋轢は、同じ孤独感にさいなまれている人にしか理解できません。

友人であるニコラス・ウィンディング・レフン監督とのコラボレーション展「SATELLITES」(プラダ青山店にて8月25日まで開催中)でも、テクノロジーや死といったテーマに加え、ものづくりの過程で変わる自身の生き方や哲学について語っています。双方弱みをさらけ出した、お腹丸出しの状態です。70年代のホログラムのような映像で映される僕らの会話の断片を聞いて、お客さんが何かを持ち帰り、自分のなかで再構成してくれればというコンセプトで作りました。僕とレフン監督、ふたりの引力で回っているところにお客さんが来て一緒に回ってもらう──それゆえ「SATELLITES」(衛星)という名前がついています。そんなレフン 監督が手がける映画と僕が手がけるゲームは、異なるメディアです。しかしいま、両者は急速に接 近しています。俳優を長期間ブッキングしづらかったり、そもそも出てもらうことが難しかったりといった大きな壁はありますが、ゲームだからといって俳優が出てはいけない決まりはありません。

長年の友人であるニコラス・ウィンディング・レフン監督(左)とのコラボレーション展「“SATELLITES” BY NICOLAS WINDING REFN WITH HIDEO KOJIMA」は、プラダ青山店にて8月25日まで開催中。Photo_ Yuji Watanabe
長年の友人であるニコラス・ウィンディング・レフン監督(左)とのコラボレーション展「“SATELLITES” BY NICOLAS WINDING REFN WITH HIDEO KOJIMA」は、プラダ青山店にて8月25日まで開催中。Photo: Yuji Watanabe

例えば、『DEATH STRANDING』(小島が代表を務めるゲーム開発スタジオコジマプロダクション 制作によるビデオゲーム)で使っている「俳優の演技を3Dスキャンして登場させる」という手法は、近年のマーベル作品の大半でも採用されています。また、もともと映画館の大画面でしか観ら れなかった映画は、いまやスマートフォンという小さなデバイスで観る人も多い。これはゲームも音楽も小説もマンガも同じ。スマートフォンの小さな画面に多ジャンルの作品が集約される状況で化学反応が起きないわけがありません。

僕も今、A24と『DEATH STRANDING』の実写映画化を進めているところです。ゲームの映像化というと、最近では『The Last of Us』のように原作の筋書はそのままに映像化した作品や、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のようにゲームのファンへのサービスのような作品もあります。こうした作品もそれぞれのよさがありますが、映画好きの僕としては映画としての表現を追求したい。「カンヌ国際映画祭」や「ヴェネツィア 国際映画祭」で賞をとるような、映画でしかできない『DEATH STRANDING』を目指しています。実はいま、アニメ化もすすめています。

Photo_ 「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」Courtesy of Kojima Productions
Photo: 「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」Courtesy of Kojima Productions

とはいえ、将来的にはゲームと映画の境界が消失していくでしょう。そして僕自身もそれを目指しています。『DEATH STRANDING』というIPを作ってさまざまなデバイスに展開したり、映画や続編を制作することがコジマプロダクションの第1フェーズだったとすると、第2フェーズはゲームと映画の境界がどこまでも曖昧な作品を作ることです。例えばプレイ中の画面を後ろから観た人が思わず映画を観ているのかと見紛うようなゲーム──。映画と同じアセットやクリエイターを採用することで、そんな作品を作ろうと画策してい ます。

ちなみに、第3フェーズはゲームでもあり映画でもある新しい形態を生み出すこと。第4フェーズは映画でIPを作ってゲーム化するか、まったく新しいものを作るかです。いまはまだようやく月面に到達した段階ですが、ここから冥王星を目指すような遠くて果てしない目標です。一方、最近は新しいメディアやカルチャーも登場しています。「横長の四角いスクリーン」という前提は VRによって崩されようとしています。視点の制限がなくなるので美術セットの作り方が変わり、観客の視線の誘導も変わるでしょう。あるいは最近では数秒の動画や映画の早回しなどメディアの消費の仕方も変わってきていますが、これは2、3時間座ってみることが前提となっている映画の習慣を変えるものです 。そう考えると、NHKの朝の連続テレビ小説の「毎日15分」という放送形態がいかに革新的だったかがわかります。

Photo_ 「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」Courtesy of Kojima Productions
Photo: 「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」Courtesy of Kojima Productions

こうしたメディアで新しいものを作るのは、従来のメディアに慣れ切った僕らの世代ではなく、これから生まれてくる世代でしょう。僕が目指すのは、そうしたクリエイターの背中を押す作品です。そのために大切なのは違和感かもしれません。映画『ブレードランナー』のように、歴史に残る傑作は、公開当初は業界や観客から拒絶反応を示されることが多いですよね。刺激があるということは、普段通りではないということ。つまり、違和感を生むのです。しかし、5年ほど経てば、周囲にもそのよさがわかるようになり、作品の評価も変わる。僕自身も含め、そんな「カルト映画」にインスパイアされて、クリエイターになる人は多いように思います。僕も公開当時より5年後、10年後に話題になるよう な作品が作りたい。ゲームでも映画でも、誰かの原点となるような何かを生み出したいのです。そ う考えると、あまり作品が売れすぎるのも問題ですね。

Profile

小島秀夫

ゲームクリエイター、監督。映画的演出と革新的デザインを取り入れた「メタルギア」シリーズは世界的ヒットに。2015年に独立し、コジマプロダクションを設立。最新作「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」は6月26日発売。

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