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この10年はどんなだった?複雑な世界でおどらされるのが人生。——舞台『おどる夫婦』観劇レポート

  • 2025.4.22

現在THEATER MILANO-Zaで公演中の舞台『おどる夫婦』。長澤まさみ、森山未來の夫婦役の2人を中心に、松島聡、皆川猿時、小野花梨など多彩なキャストが織りなす物語であり、観客に深い余韻を残す作品だ。 別記事にて「役者で選ぶのもアリ」とこの作品を挙げたが、それを目当てに行っても、観劇しているうちにはまったく違う視点で公演を見ることになる、まさに演劇の醍醐味を味わえる傑作といえるだろう。

文:稲垣美緒(Harumari TOKYO)
撮影:yoshimi

華やかな役者のパワーを間近で堪能する

長澤まさみと森山未來は、映画『世界の中心で愛をさけぶ』、『モテキ』シリーズと大人気作品で共演しており、いわば“特別なふたり”として認知されている。本作『おどる夫婦』では、夫婦役として自然な関係性を築き上げ、その存在感を発揮していた。また、難しい役どころである松島聡はアイドルとしての活動が主でありながら、本作で難解な役柄に挑戦し、その繊細な演技力で観客を驚かせた。

彼の新たな一面を垣間見ることができ、ファンにとっても新鮮な驚きだっただろう。帰り際にあまり演劇鑑賞に慣れていないであろう彼のファンが「なんか、食らった……」と呟いていたのが印象的だった。

脇を固める役者陣も魅力的。コメディリリーフのような役どころの皆川猿時は、そのコミカルな演技が笑いを誘い、劇場全体の空気を柔らかくしていく。舞台鑑賞はどこか緊張感が漂うものだが、「面白い時は遠慮なく笑っていいのだ」と役者が劇場の空気をリードしていくのもまた、演劇の醍醐味といえるだろう。

「演出」のユニークさで舞台の面白さを知る

舞台の中心には回転する盆が設置され、それを巧みに使った場面転換がなされていく。

開演前から舞台上にはさりげなく森山未來が登場し、ストレッチや台本の確認を行うなど、現実と作品の境界を曖昧にする演出がなされていた。観ている側は舞台裏の一端を覗き見ているかのような感覚に陥り、作品への没入度が高まっていく。

また、そのシーンでは出演していない役者が、演技する役者を見守るように座っている姿も舞台上に見られ、舞台稽古の一コマを切り取ったようなリアリティが漂っている。

「どこまでが舞台で、どこからがリアルなのか」を曖昧にすることで、観客と舞台上の世界との一体感を生み出し、他では味わえない独特の雰囲気を醸し出している。演技だけでなく、演出による独特の空気感は、映画やドラマなどのエンタメでは味わえないものだ。

今回は蓬莱竜太という日本の演劇界を代表する演出家による作品。この舞台が気に入ったら、「次はこの演出家の別作品を見てみよう」などと、エンタメを選ぶ視点の幅が広がるだろう。

誰にとっても同じ“あの出来事”と、誰にでもある“個人的な出来事”

物語は、主人公夫婦が過去10年を振り返りながら、2011年の震災や2020年のパンデミックといった社会的出来事が彼らの人生にどのような影響を与えたかを描いている。震災や事故を直接描いているわけではないのに、彼らの人生の背景には、私たちの人生と同じように“あの出来事”たちがあったのだとさりげなく描いている。

これらの出来事を通じて、個人の体験と普遍的なテーマが巧みに絡み合い、観客に深い共感を呼び起こす。登場人物たちの葛藤や成長を通じて、私たち自身の歩みを重ね合わせることができ、クライマックスへと導かれる。世界は、大きな事件や出来事の年表だけでなく、でも個人的な出来事だけでもない。個人的な話と、政治や経済や、天災や事件。それらが絡み合う世界で生きているのが私たちなのだ。

『おどる夫婦』は、長澤まさみ、森山未來、松島聡という個性豊かなキャストの演技、独創的な演出、そして深いテーマ性が見事に融合した舞台であった。
夫婦関係だけでなく、親子関係、姉弟関係、友情、自尊心……。見る人によって、共感できるポイントがあるのではないだろうか。
思わず、自分にとってのこの10年は何だったのだろうかと振り返ってしまうことだろう。

東京公演では若干数ではあるが当日券も出るので、気になる人はこれからでもぜひチェックしてみよう。

Harumari TOKYO 特集「あたらしい演劇の最前線」はこちら
https://harumari.tokyo/feature/one-moment-one-stage/

Bunkamura Production 2025 「おどる夫婦」
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