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「物価上昇」でも「コメ不足」でもない…コンビニ、スーパーで消費者が払わされている"もっとも無駄なコスト"とは

  • 2025.4.8

食費が家計を圧迫している。消費支出のうち食費が占める「エンゲル係数」を見れば明らかだ。統計によると、2024年は28.3パーセントと、1981年以来43年ぶりの高水準を記録している。ジャーナリストの井出留美さんは「物価の上昇、コメ不足が注目されるが、最も無駄で、削るべき『上乗せコスト』はなぜか見落とされている」という――。

※本稿は、井出留美『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

「節分には、恵方巻」はどこから来たのか

本稿では日本における食品ロスの現状をみていきたい。まず、大量廃棄の問題が近年話題になっている恵方巻をめぐる状況をみていこう。

節分に恵方巻が売り出されることはすっかり全国的な風景となった。

恵方巻のシーズンのコンビニ外観(セブン‐イレブン)
恵方巻のシーズンのコンビニ外観(セブン‐イレブン)

2023年の恵方巻は「伊勢えび1匹」や「神戸牛のローストビーフ」を具にした1万円を超える贅沢なものから、食品価格の高騰がつづく中でも比較的値上げが抑えられている肉を使った「ロースカツ巻」まで、さまざまなものが売り場に並んだ。

同年はコンビニで働く大学生バイトらの労働組合「SDGsユニオン」が大手コンビニ3社に対し、恵方巻の廃棄量の調査・開示や、過剰な販売競争の実態に関する調査・公表などを求める要求書を提出したことと、農林水産省の野村哲郎大臣(当時)が節分当日の会見で、恵方巻の食品ロス量について「どのくらいの廃棄になったのか把握してみたい」と語ったことが注目を集めた。

“すし支出”は2月だけ突出している

節分といえば豆まき。だが、いまどき節分の夜に窓を開けても「鬼は~外、福は~内」なんて声は聞こえてこない。

豆まきに代わって節分の風物詩となった「恵方巻」の起源については、大阪の商家で商売繁盛を願っておこなわれたなど諸説あるが、全国的な普及のきっかけとなったのは、1989年に大手コンビニが「恵方巻」という商品名で販売したことにあるという。

総務省統計局のデータをもとに、2019年から2022年にかけての節分前後の「すし(弁当)」への1世帯あたりの日別の支出金額(図表1)をみると、節分だけ支出金額が突出している。

【図表1】すし(弁当)の日別支出金額
出所=『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)

「すし(弁当)」には、巻き寿司のほか、握り寿司、いなり寿司などが含まれるが、明らかに恵方巻の影響を受けていることがわかる。確認できるもっとも古い2000年のデータと比べ、節分の支出金額が3倍以上に伸びている。

7割以上が「去年、恵方巻を食べた」

また、図表1で2021年だけ支出金額のピークがずれているのは、節分が2月2日だったためだ。

2000年と2022年の2月の「すし(弁当)」への支出金額を地域別に比べてみると、近畿地方の風習だった恵方巻が全国に広がっていった様子がうかがえる(図表2)。

【図表2】すし(弁当)への1世帯あたりの地方別支出金額
出所=『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)

支出金額の伸びは関東と九州で特に大きい。

こうしてみると全国の食品小売企業が、なぜこれほど恵方巻の販売に力を入れるのかが理解できる。恵方巻はまだ伸びしろのある有望な商材なのだ。

総合保険メディア「ほけんROOM」が2020年1月に恵方巻に関する興味深い調査をおこなっている。調査に参加した1031名は、「去年、恵方巻を食べたか」という質問に、食べた(71.5%)、食べていない(26.9%)、忘れた(1.6%)と回答している。参加者の居住地域は不明だが、7割以上が恵方巻を食べたと答えていることに驚かされる。「去年、恵方巻をどこで入手したか」という問いには、スーパー(57.9%)、家でつくった(16.7%)、コンビニ(9.8%)という順番だった。「今年の恵方巻」については、当日に買う(49.4%)、予約する(10.6%)、自分でつくる(14%)、買わない(19%)、食べない(4%)という結果だった。

消費期限内の恵方巻を「何割引であれば購入するか」という問いには、5割引(35%)、6割引以上(21%)と半数以上が半額以下であれば購入を考えると回答している。

「食品ロス削減推進法」以降、廃棄量が減っている

農林水産省は、2023年も食品小売業界に対し、「需要に見合った販売」「予約販売」などの食品ロス削減の取り組みを呼びかけ、90の事業者が名乗りをあげたという。では、実際はどうだったのか。

まず、首都圏で食品事業者から余剰食品を受け入れて豚の飼料にリサイクルしている日本フードエコロジーセンターが、この6年間に節分当日に受け入れた恵方巻の量を見てみよう。

【図表3】恵方巻の売れ残り搬入量の推移
出所=『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)

波はあるものの2019年10月の「食品ロス削減推進法」の施行以降、恵方巻の廃棄量が減っていることがわかる(図表3)。2021年に激減しているのは、コロナ禍で東京や大阪など10都府県で緊急事態宣言が出されており、食品小売店が時短営業した影響が考えられる。

「売れ残り」独自調査の結果は…

筆者は2023年2月3日から同月4日にかけて、協力者5名と1都4県、合計45店舗の大手コンビニと食品スーパーをまわり、恵方巻の調査をおこなった。

調査したコンビニ全店舗の売れ残り本数は898本(1店舗あたり28本)、完売店舗率21%だった。あるコンビニでは日付の変わった深夜0時13分に76本が売れ残っていた。

日本フードエコロジーセンターに届いた米飯(2025年撮影)
日本フードエコロジーセンターに届いた米飯(2025年撮影)

流通経済研究所による「日配品の食品ロス実態調査」(n=1028社)によれば、廃棄ロス率の中央値は「0~0.2%未満」~「0.6~0.8%未満」である。大手コンビニ3社は、農林水産省の恵方巻ロス削減の取り組みに名乗りをあげているが、直近3年間の完売店舗率は各社とも激減している(図表4)。

【図表4】大手コンビニ3社調査対象店舗の完売店舗率
出所=『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)

いくら「予約販売します」と宣言していても、需要を上まわる量を当日販売していては、売り切るのはむずかしいだろう。

客は知らないうちに代価を払わされている

ただ、前掲の恵方巻に関する調査から、「予約する」のは消費者の1割程度に過ぎず、5割は「当日に買う」のだから、コンビニがそんな消費者のニーズに応えようとしたのは当然といえる。

しかし、同調査によれば消費者の約6割は恵方巻をスーパーで購入しており、コンビニで購入するのはわずか1割程度だ。そして半数以上は「半額以下であれば購入を考える」というのだから、値引き率の低いコンビニで売れ残りが発生するのも無理はない。ただし、3社ともに恵方巻を完売させた店舗がある。加盟店オーナーの裁量なのだろうか。

セブンイレブンはAIによる発注補助システムを2023年2月に5000店舗、ファミリーマートも同年3月に5000店舗に導入するという(※)。AIによって恵方巻のような季節商品の食品ロスが今後どうなるのかも注視していかなければならない。大手コンビニ独自の「コンビニ会計」によって、売れ残りなど、捨てる食品の費用の約80%以上は加盟店が負担しており、本部は捨てても損しない会計システムになっている(前回記事で詳述)。

※編集部注:セブン‐イレブン・ジャパンHPによると、2023年から発注数を提案するAI発注システムを全店舗で導入している。

その日にしか売ることのできない季節商品を過剰なほど多く売る店は、余って捨てる費用を消費者に食料品価格として負担させている。消費者は知らないうちに食料品価格に組み込まれた食品ロスの代価を払わされているのだ。そのことに、わたしたち消費者も自覚的であるべきだ。

廃棄率が0.004%のスーパーがある

食品スーパーはどうだったか。

井出留美『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)
井出留美『私たちは何を捨てているのか』(ちくま新書)

筆者のまわった店舗では、夕方には恵方巻が大量に積まれていたものの、23時以降にはおおむね完売しており、売り切る努力をしたことがうかがえた。一方で閉店15分前に160本も売れ残っていた店舗もあったため、調査した食品スーパー全店舗の売れ残り本数は485本(1店舗あたり44本)、完売店舗率9%という結果だった。

消費者庁の「食品ロス削減推進大賞」を2020年に受賞した株式会社ハローズは、2023年に中国・四国地方にある全101店舗で恵方巻を合計約31万本、1億7000万円分販売した。1店舗あたり約3000本売り上げたことになる。しかも、廃棄金額は全店舗合計で6664円だったという。廃棄率は驚異の0.004%である。

また、店名は公表できないが、恵方巻の廃棄をゼロに抑えたスーパーもある。このスーパーでは節分当日に恵方巻7000本を完売した。7割は定価で、残りの3割は夕方から値引販売して売り切った。

損失は額にして「12億8000万円」

調査を社会への影響という観点からまとめると次のようになる。

2023年の恵方巻大量廃棄の経済・環境・社会的な負担
〈経済面〉恵方巻の損失額は、筆者の推計では約12億8000万円。
〈環境面〉恵方巻の大量廃棄で排出される二酸化炭素の量は1355トン。水資源は25メートルプール570杯分が無駄に。
〈社会面〉食料価格が高騰する中、日本には年収127万円以下で生活している人が1900万人以上いる。処分された恵方巻があれば256万人が1本ずつ食べることができたはずだ。

これらの結果から国の担当省庁に以下のことを提言したい。

まず恵方巻についての全国規模の消費者意識調査をおこない、結果に基づいた対策を講じること。そして、コンビニとスーパーそれぞれの恵方巻ロス削減の成功例を幅広く共有すること。

恵方巻はそもそも、その年の縁起のいい方角「恵方」を向き、黙って恵方巻を丸かぶりすると「福を招く」という縁起ものの食べものだ。しかし毎年10億円以上が食べられることなく廃棄される恵方巻がはたして福を招くだろうか。このロス分の数字を見ると、「鬼は~内、福は~外」なんてことになっていなければいいのだが、と思ってしまう。

井出 留美(いで・るみ)
食品ロス問題専門家
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、日本ケロッグ広報室長等を経て、office3.11設立。

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