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立ち食いそば屋の、あのカレー。ライター、ギタリスト・中澤星児の東京編愛スポット

  • 2025.4.4
蓼科のカレー、よもだそば 新宿西口店のカレー、みのがさ 本店のカレー

立ち食いそば屋300店以上を巡った私の心に刻まれた、あのカレー

昨晩の夢から、未だ覚めやらぬ歓楽街の朝。バーのママが客を送り出している。「またねー!」とことさらに楽しそうな声がする。それはまるで自分に言い聞かせているかのようだ。春眠暁を覚えず。覚えてやるもんか。足元に転がった夢さえもこの世の春。道行くゾンビもあくびする。ここはいつも通る道。そんなストリートには、しみったれた花壇がある。水もろくに吸えなそうな硬い土。夜勤終わりのボーイがホースでばら撒く水は明らかに過剰だ。

アスファルトに垂れてできた水たまりをジャンプして避けようとした時、そんなカチカチの花壇に花を見つけた。気づかなかった昨日との違い。繰り返しの日常との境。時折、なにげない差異にハッとさせられること、あなたにだってあるでしょう?立ち食いそば屋におけるカレーとは、カチカチの日常に埋もれた花のような存在なのではないかと思う。

それは例えば、〈みのがさ〉のカレーが持つちょっとした懐かしさであったり、〈よもだそば〉のカレーが持つちょっとしたスペシャル感であったり。この決して大袈裟ではないちょっとした部分をふと思い出し、無性に食べたくなる。温室で育て上げられた花ではない。路傍に咲き、通りすがりの人を癒やす。その概念は立ち食いそば屋の存在そのものと言えるのではないだろうか。ソバるソバればソバる時。立ち食いそば屋を彩るそば屋のカレー。今日も今日とて花は咲く。きっと明日も明後日も。

そばよし 日本橋本店のカレー
そば屋のカレーはだしがベース。しかし、ここまでだしが効いた立ち食いそば屋のカレーは珍しい。カツオ節問屋直営ならではの花と言える。〈そばよし〉のカレーとかけてうす~く削ったカツオ節と解きます。その心は花かつお。食券機の片隅にはおみやげ用花かつおも。住所:中央区日本橋本町1-1-7 1F|地図
よもだそば 新宿西口店のカレー
立ち食いそば屋でカレーといえば、〈よもだそば〉の存在を忘れてはいけない。それほどに知る人ぞ知るそば屋のカレーは本格和風インドカレー。サラッとサッパリしつつもご飯に合う味は文字通りのもので、まさしくふと思い出して無性に食べたくなるカレーである。住所:新宿区西新宿1-15-7 1F|地図
蓼科のカレー
立ち並ぶ巨大ビルの前。赤坂見附の駅前に佇む〈蓼科〉のカレーはコクのある洋食屋の味がする。種類も、カレーライス、肉カレー、肉玉カレー、なす玉カレーと多め。実はこの店、元はカレーショップだったのだとか。立ち食いそば屋のカレーにも前世あり。さすが赤坂、花の街。住所:港区赤坂3-1-16|地図
おか田のカレー
セットでしか注文できない〈おか田〉のカレー。食べてみると、納得せざるを得ない。コク深さとともにやってくるピリ辛。その懐かしさを覚える辛さは、甘めつゆの温そばと鮮やかなコントラストに。縦の糸はそば、横の糸はカレー。織物のようなセットがいつかあなたの傷を癒やすかもしれない。住所:中央区日本橋小伝馬町13-6|地図
丹波屋のカレー
なぜ立ち食いそば屋はインドカレーを作るのか?看板のインドカレー460円にふとそんな疑問を抱くが、これはネパール人の店員さんが持ち込んだレシピなのだとか。カッカするスパイシーな後味は本場の味。なお、このインドカレー、ここ10年で10円しか値上げされていない。住所:港区新橋2-16-1 1F|地図
みのがさ 本店のカレー
〈みのがさ〉はまず米がウマイ。キリッと粒の立ったご飯が、タマネギの甘味溶け出る和式カレーによく合う。その味は嚙み締めれば嚙み締めるほど懐かしい。朝露が夜の嵐を教えてくれるように、〈みのがさ〉のカレーが歩いてきた道のりを教えてくれる。知らないうちに遠くまで来たものだ。住所:千代田区岩本町3-10-5|地図

profile

中澤星児(ライター、ギタリスト)

なかざわ・せいじ/ウェブメディア「ロケットニュース24」で「立ち食いそば放浪記」を連載。取材やツアー時にそば屋に寄ったら、300店以上を巡っていたゆるマニア。

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