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なぜ“豚の姿”のままなのか ジブリ名作、語られずして終わる“人間をやめた理由”を考察『紅の豚』

  • 2025.5.9

5月9日(金)の金曜ロードショーで放送される『紅の豚』。豚の姿になった主人公がイタリア・アドリア海の空を駆け回る冒険活劇だ。豚の姿をしているにも関わらず、主人公ポルコ・ロッソ(CV:森山周一郎)のかっこよさは唯一無二。そのダンディズムに心が惹かれてしまう。

ポルコはなぜ豚の姿をしている?

物語の舞台は、第一次世界大戦後のイタリアで世界恐慌の真っ只中。ポルコはイタリア軍の飛行艇パイロットであった過去を持ちながら、現在は賞金稼ぎとして生活をしている。映画冒頭では、空賊・マンマユート団を撃退し、英雄に。そんなポルコの敵はイタリアの秘密警察だ。元々、軍のパイロットであったポルコは、反国家非協力罪の犯罪者としてつけまわされている。

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© 1992 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NN

ポルコは戦争で数多くの同僚を亡くしている。その経験から、軍に背中を向けているのだろう。ポルコの旧友であり、彼を密かに愛するジーナ(CV:加藤登紀子)は、ポルコの過去を知っている様子。また、ジーナは3度も戦争で飛行機乗りの夫を亡くしている未亡人でもある。

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© 1992 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NN

『紅の豚』では、ポルコがなぜ豚の姿なのかは語られない。これは想像でしかないが、ポルコの置かれている現状を踏まえれば、戦争で自分だけ生き残ったという後悔や豚として生きることで人間世界から距離を置いている表現の一つということができるだろう。ポルコが豚の姿でいることを受け入れているのは、戦争での自分を許さないという感情の表れなのかもしれない。

胸に刻みたいポルコの名言

空賊マンマユートを撃退したポルコは、懸賞金で休暇へ。しかし、ジーナに思いを寄せ、かつマンマユート団の用心棒であるドナルド・カーチス(CV:大塚明夫)が襲撃。ポルコの飛行艇は故障してしまう。ポルコはミラノの飛行艇製造会社・ピッコロ社へ。そこで設計技師のフィオ(CV:岡村明美)と出会う。

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© 1992 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NN

仕事に励む若きフィオにポルコがかける言葉は、胸に刻みたい名言ばかり。夢中で飛行艇の図面を引いたフィオにかけた「徹夜はするな、睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にもよくねえ」というセリフは、現代で生きる私たちにも身につまされる言葉だ。そもそも休暇に行く前に、空賊から果たし状を突きつけられながらも「悪いが俺は休暇だ」と返すのもかっこいい。

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© 1992 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NN

ポルコのかっこよさは仕事とプライベートの切り分けだけではない。ジーナとフィオからの好意を感じつつも、自分を許すことができず、なおかつ危険に巻き込みたくないと毅然とした態度を取り続ける姿、一方でジーナやフィオを思った行動もできるのがポルコのダンディたる所以だ。ポルコは他のジブリ作品のヒーローたちと比べても、異質のかっこよさを持つキャラクターだろう。

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© 1992 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NN

ジブリが数多く手がけている少年少女の冒険譚とは異なる味わいを持つ『紅の豚』。イタリア・アドリア海の空を舞台に、大人ならではのほろ苦く複雑な感情を感じさせる一作だ。一方で、ラストに見せるポルコとカーチスの決闘は子どもっぽく、そのバランスもクセになる。5月2日に放送された『君たちはどう生きるか』とは、対極にある作品だろう。ジブリ作品の振り幅を楽しめるはずだ。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202