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サルがヒトに進化したのは誤り。東大人気講義録:香田啓貴先生の「適応行動論」

  • 2026.11.7
サルがヒトに進化したのは誤り。東大人気講義録:香田啓貴先生の「適応行動論」

講義の概要

ヒトの「心」も、進化の中で適応しながら生まれたものとして捉え、文系・理系の両方の立場からヒトの行動を議論し、理解していく講義。動物行動学者の長谷川眞理子と行動生態学者の長谷川寿一が2000年に出版した『進化と人間行動』を下敷きに始まり、20年以上続いている。香田先生は22年から担当。受講者は600〜700人ほど。

Point1:サルやチンパンジーが進化してヒトになったというのは誤り

講義冒頭、香田先生が受講者に必ず伝えることがある。「サルやチンパンジーが進化してヒトになった、というのは間違いだから絶対に言わないように」。

進化論では、サルとヒトは共通の祖先から進化したという認識が正しく、サルがヒトに進化することは今後もあり得ないからだ。「ヒトに一番近い動物とされるチンパンジーには、言語や時間を遡る思考はないですよね。

では、共通祖先から進化する過程でどんな違いによってヒトの言語や心は創発したのか。進化論は、自然界のあらゆるものを観察して分類する学問である博物学に由来するものです。身体や脳の設計とその進化を踏まえた、ヒトの心と行動の進化を教えています」

Point2:知識や技能を次の世代に伝えることで文化を発展させられるのはヒトだけ

「動物にも“文化”があると思いますか?」。生物学の視点では、「文化」を「地理的な隔離や遺伝的な変異だけで説明できないような、集団の中で定着している行動」と定義する。

「1950年代に京都大学の霊長類学者、河合雅雄が宮崎県の幸島で、サルが海水でイモを洗う“イモ洗い”という文化的行動を見つけました。短期間で集団内に広まった行動です。

しかし、動物の文化はその後にはなかなか発展しない。一方でヒトの場合は、生み出した知識や技術が改善される形で新しい技術が生まれ、次の世代に適用されるという循環を持っています。ほかの動物と違い、ヒトには“累積的”に文化を発展させられる仕組みが備わっているんです」

Point3:ヒトは究極的には自分のための行動しかとらない⁉

生物にとって「子を残すこと、自分の遺伝子を残すこと」が最も大切なこと。では、なぜヒトは赤の他人のために行動することがあるのか。ダーウィンは解くことができなかったこの問題だが、現在は遺伝子のメカニズムから解釈されている。

「自分の子供は自分の遺伝子を半分持っているため、自分1人が生き残る=子供2人が生き残る、とも解釈できます。つまり、自分を犠牲にしたとしても、自分の遺伝子が残るような選択なら、やっぱり適応的なんです。ヒトには、もっと直接的に相手のことを思って動く心の振る舞いもあるんだけれども、それがなぜ生まれたかを進化論的に説明しようとすると、最終的には自分の利益になっているという考え方ですね」

Point4:AIと人間知性の違いも生物の進化と同じように分析ができる

AIが人間のように受け答えできたとしたら、それは人間知性と同じだと言えるのだろうか。その答えを求める手段の一つとして1950年代に提案されたチューリングテストがある。

「ヒトとヒトを模倣したAIをカーテンの裏に配置し、それぞれに質問をする。質問者が、どちらがヒトでどちらがAIか確実に見分けることができなければ、そのAIは人間知性を模倣できたと言っていい、というのがこのテストの考え方です。

じゃあヒトのような受け答えができるオウムには、ヒトと同じように“心”があると言っていいのか?という問題も案外似たような疑問ですよね。動物の心もAIの心も、生物進化の考え方で見えてくるものがあるんです」

講義の参考書

『進化と人間行動 第3版』著:長谷川寿一、長谷川眞理子、香田啓貴
『進化と人間行動 第3版』 「人間とは何か」という問いに進化の側面から光を当て、生物としてのヒトという視点で行動や心理を捉えた一冊の全面改訂第3版。著者として香田先生も加わり、言語をはじめとする比較認知や累積的文化進化についても新たに記される。26年3月26日発売。著:長谷川寿一、長谷川眞理子、香田啓貴ほか。東京大学出版会/2,970円。

東大memo
進化の過程でヒトだけに備わったわずかな違い。それが言語を生み、文化を生み、AIを生み……。今では情報が完全にキャパオーバー。

profile

東京大学大学院総合文化研究科准教授・香田啓貴

香田啓貴

こうだ・ひろき/2001年京都大学理学部卒業。博士(理学)。京都大学霊長類研究所認知科学研究部門の助教などを経て、22年より東京大学大学院総合文化研究科准教授に。

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