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藤原ヒロシ × 内田鋼一。世界に誇る2人の目利きによる、果てしないもの選びの話

  • 2026.11.6

内田鋼一さんが古物や工芸において尊敬される目利きであれば、その対極にいるのは藤原ヒロシさんだろう。ファッションから車まで、彼によって流行ったものは数え切れない。日本を代表する目利き同士がブルータス誌面で遂に出会う。2人は何を話す?

photo: Masanori Kaneshita / text: Wakako Miyake / interview: Natsuki Ando / special thanks: MID-Century MODERN

藤原ヒロシと内田鋼一
BRUTUS

審美眼の奥にある、もの選びの共通点

──お2人の仕事を見ていると、扱うものはまったく違うのに“選ぶ”という一点では似ているように感じます。今日はそこから話を始めたいと思います。お互いのことはご存じでしたか?

内田鋼一

僕はもちろん。藤原さんはいろんな仕事をなさっているし、僕も格闘技が好きなので、その方面から知ったところもあります。うちの息子が憧れていて、今日対談することを話したら、めちゃめちゃ驚いていました。

藤原ヒロシ

そうでしたか(笑)。ありがとうございます。僕は器や陶芸のことはあまり知らないし、実際、興味もそれほどない。内田さんは陶芸家ですが、栓抜きとか白い器とか、いろいろ集めて展示して本にもしているんですね。メインで集めているのは何ですか。

内田

メインはありません。骨董が好きっていうわけでもないし。古いものをアーカイブして今につなげるというか、見向きもされていないものをピックアップして提案・提示をしています。コレクションというより、いろんなテーマを集合体で見せて「何が違うのか」「自分はどうしてこれを集めたのか」を再定義している感じです。

藤原

それは面白いですね。いいものを集めるだけなら、お金があればなんとでもなりますから。

内田

はい。だから毎回、自分が手がけるBANKO archive design museumで次はこの展示をやるって決めると「誰が見に来るの?」って言われます。

藤原

一番、人が来なかった展示ってどれですか。この栓抜き?

内田

来なかったですね(笑)。でも海外からの問い合わせは一番多かった。網羅するのではなく、素材と機能をより際立たせるために、あえて錆(さ)びた栓抜きばかりを集めました。

藤原

展示にしようと、そこから収集をスタートするんですか。

内田

初めは子供が何かを拾う延長で、好きなものをポケットに入れて帰ってきた感じ。世界中を旅していた時も、記念になるものを持ち帰っていた。それがだんだん増えて、もう一回見直してみようと思ったんです。「なんでこれに惹かれているんだろう」「なんでこれを選んでいるんだろう」って考え始めて。自分は素材が好きなんだとか、鉄工場で育ったことも影響しているのかな、とか。オープナーで言えば、日本にはもともとワインの文化がなかったから壊れやすい作り方になっていたりする。そういう背景や地域性の違いを考えるのが好きなんです。

藤原

たくさん集める動機に、いつか本にしてやろうとか、そういう気持ちはなかったということですね?

内田

なかったです。ただ、オープナーに限らずいろいろなものを持っているので、それらを見せる場所が欲しいとは思っていました。海外では企業の資料館なんかもすごくちゃんとデザインされていて、古いものをきちんとアーカイブして今に伝えている。それがすごく刺激的だったんです。だから、小さくてもいいから、ちゃんと掘り下げて展示できる気の利いたミュージアムを、いつか自分でやってもいいなとは、漠然と思っていました。

藤原

それを今、三重・四日市でやられているんですね。

藤原ヒロシ
「実はクラフトには苦手意識がある、選び方がわからないんです」と語る藤原ヒロシさん。

有名、無名問わず、フラットな視点で見る

──誰も見向きもしなかったものにもう一度価値を見出し、再編集して世に出す。ジャンルは違いますが、お2人はそんなところが類似しているように感じます。

藤原

再編集という感覚はないんですが、人に見せるところまで意識はしています。ショッピングモールにあるような大量生産品を面白いと思って紹介したら、そのあと話題になることも。そうするとちょっと嬉しい。最初から価値が決まっているレアなものを見つけるより、その方が面白いんです。僕は民藝や骨董の良さは正直よくわからないんですけど、木彫りの熊を見て「これは面白いな」とか、グラスを見て「きれいだな」と思うことはある。だから内田さんが、いわゆる民藝とは違うものを集めているというのがわかり、そこは共感しました。

内田

藤原さんのものの見方ってどういう感じなんですか。

藤原

みんなが好きな高級なものでも良いと思うものはあるし、逆にみんなが無視してるものでも好きなものがある。自分の気持ちに正直に好き嫌いを言っている感じです。

内田

それは自分も同じ。古くなければいけないってわけでもない。

内田鋼一
「物心ついた頃から、日本人のセレクト人生は始まっています」と語る内田鋼一さん。

時間を経ることで、新たな価値が生まれる

──そのお話とつながるかはわかりませんが、工芸の世界では“写し”という、古いものの形を見て、そこから良い部分を取り入れるという文化があります。

藤原

写しという概念は、僕はよくわからない。勉強しようと思います。ただ、僕らのいる音楽の世界で言えばパクリとサンプリングというのがあって、一般的には同じように思われているんです。けれど、僕はけっこう違うと考えています。パクリは、その時に流行っているものをそのままやること。サンプリングは時間軸のアーカイブが加わるので、そこは大きく違う。

内田

写しと似ていますね。同時代に真似するのは模倣、パクリだけど、そうじゃなくて、昔にあったものの良さに最初に気づいて、アレンジなり、思想や考え方なり、まったく違う提案をする。それが写しなんだと思います。器だったら本来とは違うシチュエーションで使ってみるとか、そういうことも含めて。

藤原

難しいのは1970年代にディスコが流行って、日本でもそのまま真似した音楽がたくさんあった。当時はパクリだと思われていたけれど、30年経って聴くと、それが面白いってなることもある。パクリだったものが時間を経て別の価値を持つんです。サンプリングも写しという考え方も、すごく奥深いですね。

内田

確かに。この特集で紹介している「なんちゃって青磁」も、土に顔料を混ぜて作ったチープな青磁まがいなんだけど、現代から見るとそのチープさも含めて面白い。今は僕しか注目していませんが、時を経たからこそ再評価できる。藤原さんが言うようにパクリだったものも時間の経過で価値が育つことがある。製作当時は箸にも棒にもかからなかったものが、世の中にはまだまだ眠っている気がします。

藤原

音楽では日本のシティポップがそうですよね。当時は海外のモノマネみたいな音楽だと思われていたのが再発見されて、今では独自のジャンルとして評価されている。

内田

日本独自なものってけっこうある。日本は海に囲まれているから、外の情報がなかなか入ってこないし、逆に一度入ったら、すぐには出ていかない。「それ、パクリじゃないか」「いや違う」と言いながら、外に向かわず内側だけで熟成・発酵する。その時間や環境が独特な文化を育ててきたんだと思います。今はグローバルというか世界同時発信になっているので変わってきつつありますが、ファッションや音楽にもそういうところはありますか?

藤原

そうですね。僕は日本とイギリスは結構似ていると思っていて、一度イギリスを通ると少し違うものになって出てくる。それも島国だからなのかもしれません。

ものを選ぶ行為が、日本人の日常に浸透

──日本は家庭でも包丁が何本もあるけれど、欧米ではペティナイフ1本で料理しちゃう。器も自分のお皿は決まっていない。海外とはそのあたりの感覚も違いますね。

内田

自分専用の器があるのって日本ならでは。俺の湯飲みとか、この箸は俺のだとか。

藤原

海外ではあまり聞かない。

内田

欧米は誰が使ってもいいオープン食器なんです。しかも手で持たない。器を唇に当てるって実はなかなかの行為で、それを両手で持つと愛着も深くなる。ヨーロッパで個人専用のものがあるとすれば、マグカップかカフェオレボウルくらい。温度を感じながら両手で持って口をつける道具だから、そこは日本の器の使い方と近いのかもしれません。

藤原

金継ぎも流行ってますよね。近い理由があるのかもしれません。

内田

同じ家族の中でも個人の器があるって特異なことで、僕らは物心ついた頃から、ものを選ぶせめぎ合いをしているんです。料理や季節によっても器を替えるし、知らないうちに、ずっと“選ぶ”ことを繰り返していると言えます。

藤原

“選ぶ”で言えば、セレクトショップも日本から始まったところがありますよね。

──確かにライフスタイルにもの選びが浸透しています。だからこそお2人の“選ぶ”が世界中で価値を持っているんじゃないかなと。

藤原

今日話してみて内田さんとは選ぶモチベーションが近いとわかりました。僕も実家がある伊勢に行くことがあるので、車で帰省する途中に寄らせていただきたいです。

内田

ぜひ、遊びに来てください。〈BANKO archive design museum〉の方もご案内しますよ。

藤原ヒロシと内田鋼一
左から内田鋼一さん、藤原ヒロシさん

profile

藤原ヒロシ(音楽プロデューサー、デザイナー)

ふじわら・ひろし/1964年生まれ。2000年代初頭に〈フラグメントデザイン〉を設立、多岐にわたる活動を行う。26年5月にプロデュースした渋谷のレコード店の歴史をひもとく書籍『The History of Record Stores in Shibuya〜 & Beyond』が刊行。


profile

内田鋼一(陶芸家、造形作家、アートディレクター)

うちだ・こういち/1969年愛知県生まれ。愛知県立瀬戸窯業高等学校を卒業後、世界各国の窯場で働きながら、92年三重県四日市市にてアトリエを構える。2018年に日本陶磁協会賞を受賞。また、四日市にて〈BANKO archive design museum〉、三重県多気町にて〈KATACHI museum〉を運営。帝国ホテル京都では入口のモニュメントや館内のアートワークを手がけるほか、建築、デザイン、企画など幅広く活動する。

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