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「1年の1/3を休んだ病弱な少年」が累計500万部のベストセラー作家になるまで 『黒魔女さんが通る!!』石崎洋司が語る「本がくれる外の世界」

  • 2026.11.4

「病気で寝ているとき、窓からのぞく空と電信柱を見上げながら『外の世界はどうなっているんだろう』と想像していました」

そう語るのは、シリーズ累計500万部突破の大ヒットシリーズ『黒魔女さんが通る‼』(青い鳥文庫)で絶大な人気を誇る作家、石崎洋司さん。

『JC紫式部』シリーズや『杉浦千畝 命のビザ』『福沢諭吉「自由」を創る』など、楽しいお話から社会派の伝記まで、幅広いヒット作で読者の心をつかんでいます。

病弱で学校にあまり通えなかった子ども時代に「物語の楽しさ」に目覚めたこと。そして、いちどは出版社へ就職した石崎さんが、ケガをきっかけに創作を始め、作家への扉を開くことになった転機とは?

作家の軌跡を紐解き、今を生きるヒントを探る連載企画「君へ贈る物語の処方箋」。今回は、作家の石崎洋司さんにお話を伺います。

子どもたちの心の支えになること

──大人気の『黒魔女さん』シリーズは2005年にスタートし、初期の読者はもう大人世代になりましたね。2026年は待望のコミカライズや、カラオケとのコラボなど、長年のファンも喜ぶイベントが続いています。そんな記念すべきタイミングで「大学生編」が始動しますが、執筆のきっかけを教えてください。

石崎洋司さん(以下、石崎):大人になったチョコちゃんを書きたい、という想いはずっと持っていました。でも、実際書き始めるとめちゃくちゃ難しかった。

小学5年生編と6年生編では、クラスメイト36人の一人ひとりがぼくの中で行動していました。今回の大学生編では、今、その子たちがどこでどうしているかを描かなければなりません。

チョコちゃんも18歳になり、大学という新しい環境の中で生活を始めるので、まったく今までとはパターンが異なります。それでも黒魔女さんらしいストーリー展開は失いたくない。バランスをどう取るかが悩みどころでした。

そこで、キャラクターたちがどんなふうに成長してほしいと思うか、読者にアンケートをとったんですよ。

cocreco▲黒魔女修行をするハメになったチョコこと、黒鳥千代子。黒魔女ギュービッドや個性ゆたかすぎるクラスメイト、魔界キャラにかこまれた愉快な日常を描くマジカルコメディー。(左:シリーズ1作目『黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻』、右:最新刊『黒魔女さんは大学生‼ チョコ、バイトデビューするの巻』)

──読者参加型は、「黒魔女さん」シリーズの特徴ですものね! 今回もちゃんと継続されているのはうれしいです。ファンレターもたくさんくるそうですね。

石崎:読者からいただいたファンレターは、すべて読んでいます。どれも励まされますが、とりわけ心に残っている手紙が2通あります。

1通目は、「転校したばかりで友だちがいませんでした。休み時間に席で『黒魔女さん』を読んでいたら、『私も読んでるよ』と話しかけてくれた子がいて、友だちになれました」というもの。友だち作りのきっかけに役に立ったのですね。「『黒魔女さん』シリーズを書いていてよかった」と思いました。

2通目は、「親から叱られて悲しかったけれど、部屋で『黒魔女さん』を読んだら、悲しい気持ちが少しずつ消えていきました」というお手紙。これもうれしかったですね。子どもたちの心の支えになること、ぼくの本はそれでいいんです。

──「黒魔女さん」シリーズを書くときに、気をつけていることは何でしょう。

石崎:中国古代の老荘思想に「無用の用」という言葉があります。役に立たないと思われていたものがじつは役に立つ、という意味です。でも、子どもの本は、逆に、言うならば「有用の用」。児童書は「具体的に役に立つ」ものでありたい、と思っています。知識でもいいし、生活の中の息抜きでもいい。それも大きな役に立つことです。

それから、面白い物語を楽しみながら読んでもらうこと。もしかすると、ぼくの本が子どもたちにとっては、文字がたくさんある初めての本かもしれません。「本ってつまらない」と思われたら、本を読まなくなってしまうかも。責任重大です。

──今回の新刊も大人でも興味深いうんちくがたくさんあって、面白く読めました。広い世代で楽しめる内容ですね。

石崎:「子ども向きに書いてある本だからこそ、大人向けの教養書として向いている」というのがぼくの持論です。伝記もたくさん出していますが、すべて大人向けの情報を子どもにわかるように書く、というスタンスでずっと書いています。理解が進むように展開することを大事にしているんですよ。

病弱の子どものころに物語の楽しさに目覚める

──どんな子ども時代でしたか。

石崎:小学2年生くらいまでは、病弱で1年の3分の1ほどは学校を休んでいました。手術をしてようやく元気になりましたが、それまでは、熱を出して家で寝ていることが多かったのです。

そのころは、坪田譲二の『日本のむかし話』をずっと読んだりしていました。子ども向けにやさしく書かれた日本の民話がたくさん載っていて、大好きな本でした。

百科事典も引っ張り出して読みました。家に大人向けのオールカラーの百科事典と、子ども向けの学習百科事典があったのですが、百科事典は項目が短いのですぐ読み終わるのがいい。

学校の勉強に関係ないことでも、「そうなんだ」と思いながら読んでいるうち、知ることが楽しくなって、繰り返し開いていましたね。病気が治ってからは、体も丈夫になりスポーツ少年になったんですよ。

──読書に親しんだ子ども時代だったのですね。

石崎:高校生のとき、学校帰りに書店で見つけた柳田國男の『遠野物語』に夢中になりました。物語の主人公は、「山の神」「天狗」「神女(みこ)」「雪女」「河童(かっぱ)」など、実在するのかしないのかわからないものたち。明治時代に大ベストセラーになった、岩手県遠野で昔から語り継がれてきた物語がたくさん綴られている本でした。

あのときは、ほんとうに不思議な感じでした。足が勝手に、その本が置かれていた書店の棚に向かっていったのです。その本を読んだときに、ぜったいに遠野にいきたい! と思うようになりました。

そして実際に何度も遠野に行き、レンタサイクルで民話を語ってくれる人に会いに行ったんです。家の中に牛や馬を飼っているような古い茅ぶきの農家で、着物を着た小さなちいさなおばあさんから、囲炉裏端でお話を聞くのです。

「素語り」という、方言で語ってくれる物語は、まるで自分が物語の中に迷い込んでいくように面白くて、繰り返し出かけては昔話を聞き集めていきました。

でも、そんなお話が聞けたのは、ぼくが最後くらいだろうと思います。語ってくれる人が亡くなって、だんだん少なくなっていきましたからね。

ともかく、民話への興味が昂じて、高校3年のころから大学にかけて、『ちいさいモモちゃん』で知られる児童文学作家の松谷みよ子さんのご自宅で行われていた、民話研究会に参加するようになりました。松谷さんは坪田譲二の直弟子だったのです。

松谷さんの家は、ぼくの家から自転車で10分ほどの近さでしたから、たびたび出かけて行きました。松谷さんがかわいがってくださったこともあり、大学に行くより、松谷さんの家にいる方が多かったくらいです。

出版社の方たちもよく来ていましたから、ぼくにとって出版業界は身近な存在になりました。

出版社をやめ、本格的に作家の道へ

──作家になるきっかけは何だったのでしょう。

石崎:大学を卒業すると、ごく自然に出版社に就職しました。転職して予備校などで働きながら、好きな文芸評論でもやろうかな……、と考えていたとき、テニス中に脚をケガして、数日会社を休んだのです。

暇にまかせて子ども向けのファンタジーを書いていたところ、なんだか物語を書くのが面白くなってしまって、ケガが治ってからも書き続けていました。その作品を、当時お世話になっていた木暮正夫先生にお見せしたのです。

──アニメ『河童のクゥと夏休み』の原作「かっぱ大さわぎ」「かっぱびっくり旅」を書かれた作家ですね。クゥも岩手県遠野に河童を探しに行きますね。

石崎:はい。先生が読んでくださり、「面白いよ。でも、作家になるには書き溜めなさい。一作で終わる作家にならないように」と言われました。

一方で、先生はぼくの知らない間に知り合いの編集者に作品を見せていて。おかげでその原稿は『ハデル聖戦記』として刊行がきまり、ぼくは作家デビューすることになったのです。

──それで出版社をやめて、本格的に作家になったのですね。日本の民話が、石崎さんを作家の道に導いてくれたのかもしれませんね。

外の世界に一歩を踏み出すのを応援する3冊

──今の時代に生きる読者へ贈る、石崎さんとっておきの作品を3冊教えてください!

石崎:これからご紹介する3冊は、子どもはもちろん、大人にも読んでほしい物語ばかり。「外の世界に出てみよう」と思いたくなる本でもあります。

『ムーミン谷の仲間たち』(著/トーベ・ヤンソン 訳/山室静、講談社刊)

©️Moomin Characters™

cocrecoムーミン全集[新版]6 ムーミン谷の仲間たち(著/トーベ・ヤンソン 訳/山室 静 講談社刊行)

石崎:ムーミン一家をとりまく、ムーミン谷に暮らす仲間たちとの楽しい生活を描いた短編。ムーミンシリーズにはたくさんの登場人物がいます。

この本にはそれぞれの登場人物が主人公の9つの短編が収録されていて、ムーミンの世界がコンパクトに楽しめる1冊です。世の中にはいろいろな人がいるというのは、子どもたちには絶対に必要な視点ですからね。

子どもたちには「目に見えない子」のお話がおすすめ。ある日、姿が見えなくなってしまった女の子がムーミントロールの家にやってきます。女の子はなぜ見えなくなってしまったのか、どうすると見えるようになったでしょう。

「しずかなのが好きなヘムレンさん」のお話は、定年後のお父さんにこそ読んでほしい。年金をもらって好きなことをしたいと願うヘムレンさんは、子どもたちに請われて公園に遊園地を作ろうとしますが――。これを読んで、しみじみしてくれるお父さんであってくれるといいなと思います。ぼくはこのヘムレンさんが大好きなんですよ。

(編集部註:青い鳥文庫版『ムーミン谷の仲間たち』には、石崎洋司さんによる巻末エッセイが収録されています)

『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』上・下(著/リチャード・アダムズ 訳/神宮輝夫、評論社刊)

cocreco『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』上・下(著/リチャード・アダムズ 訳/神宮輝夫、評論社)

石崎:ウサギたちが住んでいる野原に危険が迫り、11匹のウサギが平和な土地を求めて旅に出ます。やっとたどり着いた理想の地、ウォーターシップ・ダウン。でも、穏やかな日々はつかの間で……。

高校3年のときに初版を読みました。危機が来ると知ったウサギが、野原から逃げ出そうと長(おさ)ウサギを説得するけれど、変化を恐れて動かない。しかたなく群れの中の数匹が脱出していきますが、行く先々にウサギの村があって……。

途中で立ち寄った農場には、いけがきの切れ目があって、そこから逃げようとすればできるのに、農場のウサギたちはそうしないのです。外の世界に行けるのに、行こうとしない。それは高3のぼくにとって衝撃でした。現代にも通じる話だと思います。

cocreco▲高3のときに読んで衝撃を受けたという、ご自身所蔵の『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』初版本を手に。取材のために大切にしている本を持ってきてくれた石崎さん。

『「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相』(著/石崎洋司、講談社刊)

cocreco『「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相』(著/石崎洋司、講談社)

石崎:3冊目は自身の著作です。生まれながらの心臓病、ギフテッドであるための苦しみといじめで、8歳で世界に絶望し不登校。家族とも対立して、死をも考えた台湾のオードリーは、どうして希望を取り戻せたのか? なぜ「だれも取り残さない社会」を目指すのか……?

ITの天才にして、トランスジェンダーを公表した世界が注目する「新しい民主主義」の旗手、「オードリー・タン」が生まれるまでの伝記物語です。

オードリーがとにかくすごい。さらに、お母さんも素晴らしいのです。今、日本でも研究者がどんどん海外に流出してしまうのが問題視されていますが、台湾も同じ状況でした。でも、オードリーは「海外から知識を持って帰ってくれるのだから、よいことだ」と言います。

『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』と同様に、ずっと同じ環境にいるだけではなく、外の世界に出ることの大切さを教えてくれる、そんなオードリー・タンの生き方をえがいた本です。

ぼくは、本を読む意味は、「今ここにある世界から違うところに行ける」「違う世界を見られる」ことだと思います。過去や未来に行くことはできません。国内や海外などに行くのもハードルが高いでしょう。本はそれを可能にしてくれるのです。

──石崎さんが子どものころに病気で外に出られなかったことが、物語を通して外の世界につながるようになった一因かもしれませんね。

親たちへ「子どもにたくさんの経験をさせよう」

──子育てに取り組んでいる親にメッセージをお願いします。

石崎:AIが発達し、もしかすると今学校で習っていることは、この先不用になるかもしれません。大人から子どもに「これをやっておけば大丈夫だよ」と言えない時代になっているのです。そんななかで、親は子どもにたくさんの経験をさせてあげることしかできないのではないでしょうか。

──自分で気づき、自分で発見し、自分の道を開いていく力をつけさせるのですね。

子どもたちに贈る言葉「一つの扉が閉じると、別の扉が開く」

──子どもたちが生きる糧になるような言葉をいただけませんか。

石崎:子どもたちには、スペインのことわざで「一つの扉が閉まると、別の扉が開く」という言葉を贈ります。部活でもいいし、自分の夢でもいい、何かに打ち込むことができなくなってしまった。あるいは、自分にはその才能がないと感じることもあるでしょう。

でも、ふと見れば、別の扉が開いています。行き止まりはない。だから絶望することはありません。このことを子どもたちには知っていてほしいと思います。

──石崎さんにもそのようなことがありましたか。

石崎:テニスでケガをして出社できなくなったとき、脚が動かせないのでお話を書いていました。それが作家になる扉を開くことになったのです。その時は気づきませんでしたが、あとで振り返ると、そんな瞬間でした。

──子どもたちが何かにつまづいて苦しいとき、「別の扉が開いている」と気持ちを切り替えられるといいですね。「黒魔女さん」シリーズをずっと応援してくれている子どもたちと、かつて子どもだったファンのみなさんへ、メッセージをお願いします。

石崎:大学生になっても変わらないチョコと、成長して変わったチョコの両方を楽しんでほしいです。新しいキャラクターも登場しますよ。また、電子版やコミックスには番外編の裏ストーリーも入っていますから、そちらも楽しんでみてくださいね。

取材・執筆/高木香織

撮影/安田光優

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