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東京・代々木上原で味わう、トレンドセッターが手掛けるクラシックフレンチ【おいしい店みっけ!】

  • 2026.11.2
Jun Hasegawa

シェフの哲学を貫いたコンセプトととびっきりおいしい料理を提供しているお店が続々と誕生している東京グルメシーン。その“今”をフードジャーナリストの佐々木ケイさんと高山裕美子さんが独自の視点で紹介するレストラン連載。今回はフレンチ業界で広がる「クラシック回帰」に注目。

1軒目は数々の人気店を手掛ける丸山智博さんが、人気店「メゾン サンカントサンク」をリニューアルオープンさせて話題に。かつてのスタイルからなぜ王道ビストロへと原点回帰を果たしたのか? 刷新に至った理由から、定番にこだわった本格フレンチメニューまで、新しく生まれ変わった注目の魅力をご紹介。

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Photo : JUN HASEGAWA Editor : SATOKO UDA

Jun Hasegawa

フランス料理の軸足に、自由な引き出しを重ねて

フランス料理の確かな技術を体に刻み、「LANTERNE(ランタン)」や「MARUYAMA(マルヤマ)」といった気の利いた居酒屋から、ピタサンドイッチの専門店「La Pita de Maison Cinquantecinq(ラ ピタ デ メゾン サンカントサンク)」、新進作家の作品を扱う器のギャラリー「AELU(アエル)」、そしてケータリングまで――。丸山智博さんは、東京の食の風景をいつも軽やかに、新鮮な驚きをもって編み直してきた。

時代の空気を読み取るのも早い。フレンチから居酒屋メニュー、ピタサンドまで、スタイリッシュな空間をしつらえながら、そこで供される料理はどれも、素材の持ち味を深く引き出した滋味あふれる味わいで多くの人を魅了する。

例えばどこよりも早く最良のクラフトスピリッツをテーブルに迎え入れたり、最上級のハイボールと揚げたてのから揚げという王道のコンビネーションを新たなスタンダードに仕立て上げ、素朴なピタパンをワインやナチュラルなお酒とも最高に寄り添う大人のコンフォートフードとして美食の可能性を広げるなど、訪れる人にいつも心地よい発見をもたらしてくれる。

Jun Hasegawa

その丸山さんが、近年は主にプロデュースや料理監修に力を注いでいたが、そこから一転、原点である「MAISON CINQUANTECINQ(メゾン サンカントサンク)」の厨房に、再び自ら立つという。

2010年のオープン以来、この記念すべき一軒はフランスのビストロ料理や自然派ワインを軸にしながら、歴代シェフの個性に合わせ、その時々で表情を変えてきた。

ハーブやスパイスを効かせたモダンスカンジナビアンクイジーヌ的な皿があったかと思えば、国産の厳選食材を使ったコンテンポラリーフレンチが展開されるなど、多様な経歴を持つシェフたちの引き出しと「フランス料理のベース」を自由に掛け合わせることで、常に新鮮で心地よい空気感をつくり出してきたのだ。

Jun Hasegawa

変えること、変わらないこと。未来へつなぐクラシック回帰

なぜ、再び「メゾン サンカントサンク」の厨房に戻ろうと決心したかと尋ねると、丸山さんは少し考えてから、こう答えてくれた。

「店を始めてから、時代と共にさまざまな変化を重ねてきましたが、これからの未来を見据えたときに、『ずっと変わらない、変えたくない部分』を見つめ直したいと思ったんです。若いスタッフたちと話していても、モダンで複雑な料理以上に、オーセンティックなレシピのほうが“むしろ新しい”と強く惹かれているのを感じて。それならいっそ、お客さまのためにもスタッフのためにも、僕がずっと培ってきた原点のフランス料理のスタイルに戻そうと決めたんです」

奇しくも近年の本場パリの飲食シーンにおいても、極限まで削ぎ落としたミニマルなスタイルや構築的なイノベーティブの反動から、クラシックなソースや手仕事、伝統的なビストロ料理を現代的な軽やかさで再解釈する「クラシック回帰」が大きなうねりとなっている。

それは単なるノスタルジーではなく、オーセンティックな技法をベースにしながら現代の感性で鮮やかにアップデートしていく進化系のアプローチだ。東京で多彩な酒場文化を切り拓いてきた丸山さんが、あえてこの深化されたクラシックへ舵を切るという選択は、世界的な潮流とも驚くほどシンクロしている。

Jun Hasegawa

プリフィックスでもアラカルトでもない、自由な美食の選択

今回のリニューアルで特徴的なのは、メニューの選び方だ。基本となるのは、冷菜、温主菜の中から、ゲストの気分や食欲に合わせて「好きな2皿を自由に選ぶ」というスタイル。これは、決まったコースを順に楽しむプリフィックスとも、好きなものを単品で頼むアラカルトとも違う、いいとこ取りの中間システムだ。

「今日は軽くワイングラスを傾けたいな」という夜なら、ニース風サラダとオニオングラタンスープ、そしてデザートの3皿でスマートに完結させていい。パリのカフェに身を置くように、自分のコンディションに合わせて皿を組み立てることができる。反対に、友人たちとわいわいテーブルを囲み、ベースの2皿に加えて「みんなでシェアしながら、気になる料理をもう何皿か追加したい」というオーダーも自在だ。

メニューには冷菜として「生牡蠣 レモンとエシャロット」(¥1,800)や「パテ・ド・カンパーニュ」(¥1,800)、「鴨燻製のいちじくのライ麦クレープ」(¥2,900)などが並ぶ。

生牡蠣は赤ワインビネガーとレモン、エシャロットでシンプルかつさっぱりと。「鴨燻製のいちじくのライ麦クレープ」は、葉物のサラダに燻製の鴨ロースを添え、いちじくとビネガーで仕立て、玉ねぎのキャラメリゼを塗ったライ麦クレープで包み込んだ一品だ。ヘーゼルナッツのクリームソースを合わせ、仕上げにパルミジャーノレッジャーノを削る。一見すると鴨が主役のようでありながら、トレビスなどの苦みのある葉物野菜の個性がしっかりと生きる、甘じょっぱさが魅力的なサラダクレープに仕立てられている。

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温主菜は「スープドポワソン」(¥2,800)や丸山さんが“大人のフィッシュ&チップス”と呼ぶ「天然真鯛のフィッシュ&パニス 地中海風タルタルソース」(¥3,600)などの魚料理に加え、「津軽鴨もものコンフィ」(¥4,000)や「牛ほほとアプリコットの赤ワイン煮込み」(¥4,500)、ステーキフリットなどの肉料理もあり、どれも魅力的で悩んでしまう。

そんなときは、どんな仕立ての料理か、ポーションの大きさはどれくらいかなど、スタッフに気軽に聞いてみるといい。メニューについて尋ねると、女性スタッフが「どれも本当においしいんです!」と弾けるような笑顔で楽しそうに説明してくれて、その様子を見ているだけで、この店がスタッフからどれほど愛されているかが伝わってくる。

Jun Hasegawa

クラシックの奥底に宿る、軽やかな手仕事の妙

「スープドポワソン」は、ほうぼうやかさごをベースにした、魚介のうま味がギュッと詰まった一皿。添えられたルイユが、スープにコクとこってり感をもたらす絶好の味変になる。

一方の牛ほほ肉の赤ワイン煮込みは、重さを感じさせず驚くほどさっぱり。ひと皿ひと皿の背景には、丸山さんならではのエッセンスがしっかりと効いている。

「スープドポワソン」にはシチリア食材専門店「セドリック・カサノヴァ」のケーパーコラトゥーラ(シチリア産のケーパーを塩漬けにした際に出るドリップの瓶詰め)を忍ばせて奥深いコクをだし、赤ワイン煮はミルポワの量を抑えて鶏のフォンブランで澄んだ奥行きを持たせているという。

クラシックをベースにしながらも軽やかさをまとわせた構築的なアプローチに、思わずうっとりさせられ、ひと皿ごとに料理を味わう喜びが高まっていくのだ。

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デザートは「バニラのクリームブリュレ」(¥1,500)や季節のフルーツのソルベやタルト、チーズなどがメニューに並ぶなか、フランスの伝統的な古典菓子「ババ・オ・ラム」(¥1,500)が! 口に入れた瞬間、ブリオッシュ生地たっぷりと吸い込んだダークラム酒の芳醇な香りと、シロップの甘みがジュワッと広がり、生クリームとの組み合わせはもう至福でしかない(追いラム酒もできる!)。

銀食器にオールドバカラの小瓶、ペーパーレースでサービスされるのも気分があがる。ちなみに新生「メゾン サンカントサンク」で使用している食器は丸山さん自ら探し歩いたヴィンテージのノリタケや作家物の白い器。オーセンティックな料理の輪郭を際立たせており、さすがの組み合わせだ。

合わせるワインはフランスの自然派が中心だが、今後は食中に合う日本のクラフト焼酎のカクテルなどもオンメニューしていくという。

Jun Hasegawa

丸山さんが目指すのは、パリの街角にあるような、何度でも足を運びたくなる店。——しかしそれは、決して現状に立ち止まることではない。揺るぎない芯を通わせながら、より深く、より鮮やかに深化を遂げていくその空間で、丸山さんが紡ぎ直す料理の美味に身を委ねる夜は、きっと、東京で暮らす私たちの小さな贅沢になる。

MAISON CINQUANTECINQ メゾン サンカントサンク
住所/ 東京都渋谷区西原3-12-14 西原ビル1F
電話番号/ 03-5738-8068
営業時間/12:00 - 15:00、18:00 - 22:30
定休日/水曜
Instagram/@ maisoncinquantecinqbistro

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