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「いいのよ、座って」しか言えなかった。嫁にだけ1時間遅い時刻を送った私の本心

  • 2026.11.2
ハウコレ

台所の窓の向こうに、夫の叔母の車が入ってくるのが見えました。息子から見て大叔母にあたる人で、親戚が集まるお正月、誰より早くやって来るのはいつもこの人です。エプロンのひもを結び直しながら、息子の嫁に送ったメッセージのことを思い出していました。

30年前から変わらない台所

この家に嫁いで最初のお正月、集まりが始まるずっと前から、私は大叔母に台所へ呼ばれました。煮物の味が薄い、盛りつけが雑だ。親戚が居間でお酒を飲んでいる間、小言を聞きながら包丁を握り続けたことを覚えています。

大叔母のやり方は、それから30年近く変わっていません。

息子が結婚の挨拶に嫁を連れてきた日、食事が終わると、嫁は誰に言われるでもなく台所に立ち、洗い物を始めました。その背中を見て、あの台所だけはこの子に見せたくないと思ったのです。

本当の時間を書かなかったメッセージ

集まりの時刻は、いつも親族のグループチャットで知らせています。嫁はそのチャットに入っていないので、個別に送りました。

「お正月の集まり、13時に来てくれたら大丈夫だからね」

本当の集合より、1時間遅い時刻です。その1時間で料理を仕上げ、大叔母がお酒を飲んで落ち着いた頃に嫁が着けば、台所に呼ばれることはありません。

理由を書かなかったのは、大叔母を悪く言うことになるから。事情を知れば、嫁はきっと早く来て、台所に入ってしまう。

当日、最後の煮物を器に移していたとき、玄関の引き戸が開く音がしました。

嫁の顔を見られないまま

居間から、娘の声が聞こえました。

「あれ、集合1時間前だったよ?」

続いて、大叔母のよく通る声。

「お嫁さんは重役出勤ねえ」

小さな笑いが広がるのが、台所まで届きました。嫁が笑われているのは、私が送った時刻のせいです。廊下から居間をのぞくと、嫁は立ったままでした。

「いいのよ、座って」

大叔母の前で理由を話すわけにもいかず、私はそれだけ言って、嫁の顔を見られないまま台所に戻りました。後から来た息子にも、時刻のことは口にしないまま、その日が終わりました。

お盆の連絡を送るときも迷いました。時刻を変えれば、今度こそ嫁が台所に呼ばれてしまう。謝る言葉も見つからず、打てたのはこれだけでした。

「お盆も同じ時間で大丈夫だからね」

返ってきたのは「分かりました」の一言でした。

そして...

お盆の日、まだ大叔母が台所で鍋をのぞき込んでいる頃に、玄関の引き戸が開きました。廊下に出たところで、1人で立っている嫁が目に入り、足が止まったのです。

「……今日は、早いのね」

本当の時刻を知って来たのだと分かりました。言いかけた言葉を一度のみこみ、まずは謝らなければと思い直しました。

「恥をかかせてしまって、ごめんなさいね」

嫁は少し間を置いてから言いました。

「次からは、本当の時間を教えてください」

そう言って靴をそろえると、嫁は自分から台所へ入っていきました。大叔母の小言はその日も続きましたが、私の隣には、嫁が並んで立っていました。

帰り際、玄関の隅で、30年前の台所のことと、あの1時間の意味を短く話しました。ここで何も話さなければ、お正月と同じになると思ったのです。

(60代女性・主婦)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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