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「一番安いので」と店員に言った俺。値札の前で頭にあったのは、自分のことだけだった

  • 2026.11.1
ハウコレ

帰り道、彼女の左手に目を落としたまま、俺は言い訳を探していました。けれど、口から出てきたのは、売り場では言えなかった格好の悪い本当のことでした。

売り場で店員さんが指輪を出すたびに、俺の目は指輪ではなく、横の小さな値札に向いていました。隣の彼女の左手には、2週間前に渡した仮の指輪。本物は一緒に選ぼうと言い出したのは、俺のほうでした。

値札の前で分かったこと

仮の指輪でプロポーズして、本物は2人で選ぶ。ネットで見たその形が格好よく思えて、深く考えずに決めました。

「本物は、一緒に選びに行こう」

そう言った時、彼女は本当にうれしそうでした。ただ、本物の指輪がいくらするのか、俺はちゃんと調べたことが一度もありませんでした。

売り場で値札を見て、ようやく分かったのです。今の貯金では、並んでいる指輪のほとんどに届かない。この1年、カメラのレンズや飲み会に使った分を、きちんと数えたこともありませんでした。

彼女の「これがいいな」に返した言葉

「これがいいな」

彼女が左手を見せてきたのは、細い線がねじれた指輪でした。値札は、さっきから目で追っていた中でも高いほう。とても届く額ではありません。

お金が足りないと、彼女と店員さんの前で言うのは格好悪い。そう思った瞬間、彼女の手元から目をそらし、ショーケースのほうを向いたまま口にしていました。

「一番安いので」

「でしたら、こちらになります」

店員さんが出してきた細い指輪を見て、これなら払えると思い、彼女に聞きました。

「これでいいよね」

指輪なんて、どれも似たようなもの。どこかでそう思っていたのも本当です。

「今日は、決めなくてもいい?」

彼女の声を聞いても、疲れたのかな、くらいにしか考えていませんでした。

コンビニの角で聞いた彼女の気持ち

帰りの電車で、彼女は一言も話しません。窓の外を眺めながら、俺が考えていたのは来月の支払いのことでした。

駅からの道を、彼女は俺の半歩うしろで歩いていました。コンビニの角の手前で、俺は振り返りました。

「怒ってる?」

「一緒に選ぼうって言ったの、そっちだよ」

何か言いかけた俺を待たずに、彼女は続けました。

「一生の記念になる指輪だから、予算のことも含めて、一緒に選べると思ってた」

彼女の声は、少しずつ大きくなっていきました。

「なのに、私の顔も見ないで決めたよね」

彼女の左手に目を落としたまま、あの売り場で自分が何を見ていたのかを思い返しました。彼女の指でも顔でもなく、値札と、自分の財布のこと。頭にあったのは、自分のことだけでした。

そして...

言い訳を探すのをやめて、顔を上げました。

「ごめん。お金、全然足りなかった。言うのが格好悪くて、安いのって言えば済むと思った」

「最初から、そう言ってよ」

彼女はそう言って、少しだけ笑いました。その左手を見て、俺は約束しました。

「ちゃんと貯めるから、あの指輪にしよう。それまで待ってほしい」

新しいレンズは、あの日から買っていません。給料が入るたびに決まった額を別の口座へ移し、彼女が選んだ指輪の名前は、スマホのメモの一番上に残しています。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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