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シャネルが支援|京丹後・間人に広がる、集落のアート「あしたの畑」

  • 2026.10.28
Katsuo Takashima 2026年秋にオープンしたクリエイターと職人の工房「間人プレイス」

京都市内から2時間半、カニ漁と丹後ちりめんで知られる、京都府京丹後市の間人(たいざ)を訪れた。目的は、間人で展開するアートプロジェクト「あしたの畑(TOMORROW FIELD)」(運営主体:NPO法人〈TOMORROW〉) の秋期公開だ。

「あしたの畑」では、国内外のアーティストや職人が間人に集い、学生や地域の人々も交えて、スタジオやレジデンスなどの活動拠点や、その土地に根ざしたインスタレーション作品を年々つくりあげてきた。2026年には〈シャネル〉より大きな支援を受け、新たな工房「間人プレイス」が完成し、隣接するアートギャラリー「SEI TAIZA」には、日仏の職人が協働した作品も加わった。パリから遥か遠く離れた京丹後で、いま何が始まっているのだろうか。

間人で迎えてくれたのは「あしたの畑」を構想したキュレーターの徳田佳世さん。徳田さんはベネッセアートサイト直島で、地中美術館と豊島美術館の建設時からキュレーターを務めた。その後、「アーティストが魂を削って作品を作る現場づくり」を試みようと、2016年にNPO法人〈TOMORROW〉を設立。間人に出合い、芸術が循環する社会を模索し実践する場「あしたの畑」を構想した。美しい自然を損なわず、集落に溶け込む景観をつくる。新たな素材を買い足さずその場にあるものを生かす。生活を豊かにする手仕事の美しいクリエイションを次世代に受け渡す。徳田さんは、人の魂に呼びかけるインスピレーションに満ちた場所として直感的に間人を選び、新たな活動をここでスタートさせた。

NPO法人〈TOMORROW〉代表の徳田佳世さん。大成古墳群にて。ここで徳田さんは一瞬で心をつかまれ、「アートの大切なものはすべてここにある」と直感した。徳田さんは、国内外のアーティストやアート団体と連携し食や工芸など他分野にまたがるアートプロジェクトのコンサルティングや企画を行う〈WATER AND ART〉の代表でもある。 Katsuo Takashima

「古代このあたりは海の玄関口として大変に繫栄した豊かなところでした。日本海側で最大級の前方後円墳『神明山古墳』があり、岬の丘陵地には、『大成古墳群』という群集墳がある。初めて大成古墳群に来たとき、大切な人を思って海に向かって祈り、弔ったであろう当時の人々の心情に一気に引き寄せられました」(徳田)

*『神明山古墳(しんめいやま・こふん)』(古墳時代中期・5世紀ごろ)『大成古墳群(おおなる・こふんぐん)』(古墳時代後期・6~7世紀)

誰も見たことのないアートプロジェクト

2026年秋期公開では、間人の集落のなかに点在する7つのサイトを見ることができる。活動拠点とする「間人スタジオ」、アートギャラリー「SEI TAIZA」、アートインスタレーション「Field of Stars」「納屋」「あしたの畑窯」、そして2026年にお目見えしたのが、工房「間人プレイス」と「宮ティーハウス」だ。

「間人プレイス」

「創造と学びの新たな拠点」として新たに設立、2026年10月12日より一般公開された「間人プレイス」。 Katsuo Takashima

「間人プレイス」は、集落の西、海風にさらされシルバーグレーに変色した焼杉の家並みのなかにある。元は織物工場だった。丹後ちりめんの全盛期には昼夜をいとわず、機織りの音が村中に響いていたという。工場はガラクタをいっぱいに詰め込んだまま、10年以上も放置されていた。ここにも衰退する地域産業の残照がある。

ボロボロの建物に、朽ちそうな小屋がもつ美を見いだし、再生に取り組んだのは、建築家の橋詰隼弥(はしづめ・しゅんや)さんと木桶職人の中川周士さん。「間人プレイス」としての再生には、〈シャネル〉から、前年の展覧会で使用された資材の提供をはじめ、大きな支援があった。約半年に及ぶ橋詰さんと職人たちの献身的な仕事で生まれ変わった工房は、錆びたトタンの風貌からは想像もつかない、削りたての木の香りに包まれていた。

木桶職人の中川周士さん。伝統的な木桶の技術で洋の器から茶室まで手掛け、そのダイナミックな創作技術に国内外から仕事のオファーが絶えない。写真で中川さんの背後に見えるのは、杉の「へぎ板」 。3ミリ厚に割った板をひたすらうろこ状に貼っていく。木を割る高い技術が求められる。 Katsuo Takashima

「2025年、東京で開催された〈シャネル〉のエキシビション『la Galerie du 19M Tokyo』では、ヒノキと杉材でつくった巨大な『幹』を7本出展したのですが、そのうちの一部が『あしたの畑』に寄贈され、前庭の雨水タンク、コンポスト、プランターとして再生させています。建物左の円形の塔は木桶の工法でつくった空間。外壁には、杉板を薄く割ったへぎ板を使い、木を無駄なく生かしています。ここではプラスチックは一切使っていません。木材は古びたら土に還り、新たな木でつくり変えることもできる。そうした環境に負荷を与えない循環するものづくりを、これからここに集う職人やクリエイターと交流しながら実践していきたい」(中川)

「循環棟」と呼ばれる手前の空間には、かんなくずを活用したバイオトイレを設置、排泄物は木桶コンポストで発酵させ、そのたい肥を木桶プランター(奥の木桶)の野菜栽培に利用するといった、自給自足の暮らしを支える循環の仕組みづくりに挑戦している。 Katsuo Takashima

さて、ここであらためて〈シャネル〉と「あしたの畑」について触れておこう。やや長くなるがお付き合いいただきたい。

日本でもあらゆる伝統技術が存続の危機に瀕していると伝えられて久しい。ファッションの中心地パリでも、クチュールを支える高度な技術の保存と継承は喫緊の課題となっている。〈シャネル〉は2021年、パリ19区に「le19M(ル ディズヌフエム)」を設立、約700人の職人や専門家が働く一大施設をつくり、併設のギャラリー展示やイベントを通して、その技術を発信している。さらにその視線は世界へも向けられている。

そのひとつが国際プロジェクトだ。第1回は2023年1月から3月までセネガルのダカールで開催され、第2回は、2025年9月から10月に「la Galerie du 19M Tokyo」と題して東京・六本木ヒルズで開催、展示・イベントともに多彩な企画が行われ、2026年春にはパリにも巡回した。

そのなかの「Beyond Our Horizons(ビヨンド アワー ホライズンズ)」という展覧会は、パリの〈le19M〉に集う刺繍や金細工など11のアトリエと、日仏の職人やアーティスト約30組とのコラボレーションの成果を展覧するという大掛かりなもの。徳田佳世さんがエディトリアル コミッティのメンバーのひとりとして参画、橋詰隼弥さんが、会場のセノグラフィ(会場構成)を担当した。間人プレイスを橋詰さんとともに再生させた中川周士さん、このあとに紹介する唐紙職人の嘉戸浩(かど・こう)さんも、「Beyond Our Horizons」でフランスの職人たちと協働し、これまでにない表現を求めて作品制作に挑戦した職人たちだ。

この協働をきっかけに互いに交流を重ね、対話を続けてきた経緯から、〈シャネル〉は、「Beyond Our Horizons」の成果を展覧会で終わらせるのではなく、新たな場所に手渡して生かしていこうという結論を出すに至る。そうして2026年、「あしたの畑」に作品の寄贈と会場で使った木材の提供が行われ、再利用できることになった。

「当初、2年ほどかかるだろうと見積もっていた『間人プレイス』という新たな工房の制作はこのおかげで急ピッチで進み、秋の公開に間に合わせることができたのです」(橋詰)

建築家・橋詰隼弥さん。京都大学大学院建築学専攻修士課程修了。大学院在学中よりインターンとして〈TOMORROW〉にて経験を積み、「あしたの畑」をはじめとするさまざまなプロジェクトに関わりながら、持続可能かつ環境再生型の作品を手掛けている。2024年英国の美術批評誌『APOLLO』による「40 Under 40 Craft」に選出。 Katsuo Takashima

知恵と手が生み出すクリエイション、それを長く大切に使い、次の世代にその技術と価値観を継承すること。徳田さんが 「間人プレイス」に込めた思いだ。今回の大規模な支援は、職人たちの思想と仕事が、パリを経て間人の”畑”に還ってきたともいえるだろう。

間人プレイスには、彫刻家の益田芳樹さんが島国日本を取り囲む「海波」をヒノキの寄木から彫り上げた、荒々しい波が盛り上がる形状の沓脱台(くつぬぎだい)など「Beyond Our Horizons」に参加したアーティストたちがこの場所のために制作した新作が設置された。

彫刻家・益田芳樹さん作の沓脱台。長年、仏像など文化財の修復に携わり、その技術を生かして自身の彫刻作品をつくり始めた。この作品は京都・三十三間堂の国宝・雷神像が乗る雲から着想を得ている。 Katsuo Takashima
五畳の寝室「職能庵」。正面の壁面が、京都の〈デザイン橡(とち)〉とパリのアトリエ〈ロニオン〉が協働した織物。天井の網代張りと呼応するような柄行はこの空間にしっくりとなじんでいる。 Katsuo Takashima

工房には一人が滞在できる五畳の寝室「職能庵」がつくられたが、ここがまた贅沢だ。天井は、数寄屋建築を手掛ける〈藤森工務店〉による「網代張り」。壁には丹後のダ・ヴィンチの異名を取る〈デザイン橡(とち)〉の豊島美喜也さんが茶綿で織り上げた織物に、パリのプリーツを専門とするアトリエ〈ロニオン〉がプリーツ加工を施したものが寄贈された。

これらのしつらいと調和を取るために橋詰さんが床の仕上げに選んだのが、日本の伝統的な敷物「油団(ゆとん)」。和紙に亜麻仁油を塗り、仕上げに豆腐で表面を磨き上げた。伝統技術に通じた中川さんたちも、「仕上げに豆腐を使うと聞いたときは驚きました」。100年使えるといわれる油団の材料はすべて土に還る。現在は全国で一カ所しか手掛ける店はなく、地元の表具店が和紙を張り、橋詰さんが自ら仕上げた。

素木の木材で再生された「間人プレイス」内部。板戸絵を手掛けたのは漫画家の五十嵐大介さん。 Katsuo Takashima

奥に見えるヒノキの板戸も「Beyond Our Horizons」で用いられた。その板戸には、間人に伝わる伝説の主人公、浦島伝説の乙姫と、羽衣伝説の天女が、窓から見える空の星座かのように象徴的に描かれている。時空を超える板戸絵を手掛けたのは、〈シャネル〉の展覧会で12メートルにも及ぶ三連画を制作した漫画家の五十嵐大介さん。五十嵐さんは板戸絵に取り組むため、間人に4日間滞在して描き上げた。引き戸には、茶の湯の道具を専門につくる「千家十職」のひとつ、永樂家の十八代当主・永樂善五郎さんが手掛けた五色の亀甲文様の陶磁器の作品が取り付けられている。

高台にあるので、窓際に取り付けられた作業台から目線を上げると、水平線を見渡せる絶好のロケーション。 Katsuo Takashima
中川さんが見せてくれた写真集『小屋の肖像』KADOKAWA(メディアファクトリー2000年)。中川さんは、あり合わせの廃材でつくられた小屋にレヴィ=ストロースの“ブリコラージュの美”を見いだし、間人プレイスにそれを反映させようとしている。 Katsuo Takashima

「SEI TAIZA」

地域の町並みに特徴的な力強い景観の屋根。セメント瓦という日本海からの風雪や塩害に強い、独特の建材が使われている。昭和中期に広く普及したがメーカーの廃業が進み、新たな入手や補修は困難になっているという。 Katsuo Takashima

「間人プレイス」から数件先には、2024年にオープンしたアートギャラリー「SEI TAIZA」がある。もとは築60年の丹後ちりめん工場だった。このギャラリーにも、2025年の〈シャネル〉の展覧会から作品が数点寄贈された。そのうちのひとつ、「花衝立(はなついたて)」を手掛けたのは、京都で〈かみ添〉を営む唐紙作家の嘉戸浩さん。

京都・西陣で唐紙の店舗兼工房〈かみ添〉を主宰する唐紙作家の嘉戸浩さん。NYでグラフィックデザイナーとして活動した後、唐紙を学び独立した異色の経歴をもつ。茶室やホテルなど建築家との仕事のほか杉本博司らアーティストとのコラボレーション作品も多数手掛ける。 Katsuo Takashima

「僕は唐紙師として、ふだんは京都で唐紙を制作しています。昨年はフランスのコサージュアトリエ〈ルマリエ〉の職人さんと協働して、唐紙の衝立を制作しました。この文様は〈ルマリエ〉がコサージュを作るときに使う花型。それを日本で彫師の方に依頼して版木に文様を彫ってもらい、僕が唐紙に摺りました。見どころとしては、衝立の脚の部分。版木と同じ彫刻を施しています。版木はふだん表に出すことはないですが、木版自体が美しい。皆さんにも見ていただきたいと思い、こういうしつらいにしました」(嘉戸)

三重県の〈金沢 木制作所〉の金沢健幸さんが唐紙の版に彫刻を施した脚部。嘉戸さんが独立したばかりのころから〈かみ添〉の版木を請け負っている。 Katsuo Takashima

嘉戸さんと〈ルマリエ〉の花の衝立は、東京でお披露目されたのち、パリに巡回し、今回、間人で展示されている。東京・パリでの展覧会に立ち会ってきた嘉戸さんだが、雲母(きら)摺りの唐紙は自然の光で見るときがいちばん落ち着いて見えて好きだという。今後はここで鑑賞することができる。

雲母摺りの唐紙による「花衝立」。本唐紙は1枚約1尺5寸×約1尺(45×30cm)で、複数枚を摺り、柄を合わせて仕立てる。本作は数寄屋建築に見られる「石垣張り」を取り入れ、紙をずらして張る前提で文様を設計。表装は〈藤田雅装堂〉の藤田幸生さん。版木を彫る人、唐紙を摺る人、紙を貼る表具師、それぞれの緻密な協働が欠かせない。 Katsuo Takashima

〈シャネル〉の展覧会で〈le19M〉と日本の職人とのコラボレーションで生まれた畳と障子。京都の〈髙室畳工業所〉と協業したのは、創業160年余のフランス刺繍とツイードのアトリエ〈ルサージュ〉。ミックスツイードを畳縁にした畳も、このギャラリーに収められている。

京都の〈髙室畳工業所〉とフランス刺繍とツイードのアトリエ〈ルサージュ〉がコラボレートした畳も見どころのひとつ。畳縁はミックスツイードだ。 Katsuo Takashima

舟と植物、海を越えた文化の交流

奥のスペースには豊かな色彩で絵付けがされた立体作品と絵画が展示されている。有機的なフォルムの作品群は、まるで波間でゆらゆら揺れているようだ。壁の絵は、京丹後の生機(きばた|精錬前の織り上がったままの絹織物)に描かれている。制作したのは、画家の浅野友理子さん。海の向こうからやってきた舟、運ばれてきた植物、間人で得たインスピレーションが伸び伸びとした筆致で描かれている。陶器の作品づくりに協力を申し出たのは、信楽の大谷製陶所。これは韓国の文化財団「ONJIUM(オンジウム)」との共同プロジェクト作品だ。〈TOMORROW〉の岡本夏佳さんに話を聞いた。

浅野友理子さんによる「漂着種子─Drift Seeds」。丹後地方の古墳で発掘された舟型の木棺にヒントを得て、花梨や棗、橘や茶葉など、茶にまつわる植物の種子を舟形の大きな器に描いた。 Katsuo Takashima

「以前、ある作家が匿名で寄付金を寄せてくださいました。自分が私たちの活動を通して制作の機会を得たように、次の世代の作家にも機会をつないでほしい、という思いからです。本作品は、その資金で作家を招聘し、制作費などに充てました。今回も作品を販売し、売れた場合には、その収益を次の作家の制作機会につなげていきたい。いわば、アートのバトンですね。都会でなくても、作家がインスピレーションを受けて作品を生み出せる場所があり、その作品が次の作家の機会や環境につながっていく。そんな循環が生まれることを願っています。若い作家へ、次々とバトンを渡していきたいです」(岡本)

〈TOMORROW〉でアートプロジェクトのコーディネートを担当する岡本夏佳さん。「あしたの畑」では、2年前から取り組む韓国の文化財団「ONJIUM」との共同プロジェクトをはじめ、アーティストとの活動を幅広くサポートする。「〈TOMORROW〉は少人数のチームなのでそれぞれ幅広い領域をカバーしていますが、あえていえば、徳田を筆頭に、橋詰が建築班、私がアート班というチームです」 Katsuo Takashima

「宮ティーハウス」

2026年秋公開の「宮ティーハウス」。間人集落の東側、田園が広がる宮(みや)というエリアにある。 Katsuo Takashima

今秋公開されたもうひとつの作品が「宮ティーハウス」。持続可能な建築で知られる建築家のアンナ・ヘリンガーさんと陶芸作家のマーティン・ラオホさんが構想し、間人に滞在して、左官職人の中須仁隆さんと協働して制作したものだ。半屋外の円形の建物には、壁面の小さな窓、天窓からは空が見える。この窓と屋根のすきまからの自然光で室内は案外、明るい。土壁が湿度を調整しているのだろうか、空気がさらりと感じられる。茶室や四阿(あずまや)のようなサイズ感も居心地がいい。

橋詰さんたちはここを造るにあたり、コンクリートを流し込む代わりに、「版築(はんちく)」という、人々の手仕事によって大地の素材を練り固めて造る手法を採用した。土を採取し、円形の型枠の中に少しずつ入れ、上から繰り返し強く突き固めて密度を高める。固まったら型枠を外し、乾燥させる。この作業を根気よく繰り返し、強固で風合いのある壁を完成させた。

円形の屋根は、数寄屋大工が削り出した「木組み」で造った。天窓から放射状に架け渡された木梁が支える屋根の構造は、レオナルド・ダ・ヴィンチが建築した橋と同じ構造だ。釘もボルトも接着剤も使用しない。解体後は素材を自然に還しやすく、環境負荷を抑えた木製の天井は、その構造も美しい。屋根瓦は丹後の土が使われている。浜辺の工房でワークショップを行ってみんなで作陶した。

どこかヨーロッパの教会のような荘厳な趣を感じさせる、「宮ティーハウス」の内部。 Katsuo Takashima
開化天皇の妃であった丹後地方の豪族の娘、竹野媛(たかのひめ)が、天皇の崩御ののちに里に戻り、高祖神である天照皇大神を祀ったと伝えられる竹野神社。伊勢神宮鎮座以前に巡幸した「元伊勢」の伝承地のひとつとされている。 Katsuo Takashima

「向かいは竹野神社(たかのじんじゃ)といって、いまの宮司さんは60代目。丹後地方でも古い歴史をもつ神社です。このティーハウスは、神社の参道の茶店のイメージ。お宮の前の土でつくったので『宮ティーハウス』です。この周囲は古代日本で、朝鮮半島や中国大陸と、かつて丹波国と呼ばれた王国であったこの地域を結ぶ、海上交通の重要な拠点でした。いまは田んぼですが、当時は潟湖(かたこ)というラグーンが広がっていて、波が穏やかな港に船が滑り込み、神社の参道は海へつながっていたんです」(徳田)

大成古墳群

大成(おおなる)の海岸段丘上にある古墳群。石室の石材のほとんどは玄武岩や安山岩などの自然石が使われている。発掘調査では、須恵器や勾玉など多数の副葬品が出土した。 Katsuo Takashima

日が傾きだすころ、大成古墳群に連れていってもらった。海を隔てて彼方の大陸と向かい合う岬には、全18基の古墳が点在する。このあたり一帯はユネスコが認定する「山陰海岸ジオパーク」の一部で、日本列島がアジア大陸と陸続きだった時代、その後、日本海が形成されていく過程が、海岸の地形や地層に残されている。このあたりの海岸で見られる、柱を並べたような岩肌は、マグマが冷え固まってできた柱状節理(ちゅうじょうせつり)だ 。海岸に聳(そび)える高さ20メートル、周囲1キロもある玄武岩の一枚岩、立岩も柱状節理の典型例。同様の規則的な割れ目の断崖が海岸線に沿って続く。

「海を渡って何が伝わってきたんだろう、どんな文化が伝わってきたんだろう、そういうことをもう一度、考えたかった。それには京丹後がぴったりの場所でした。我々は陸路で来てしまうので、都市からの視点になってしまいがちですが、間人は海に向かって開けた場所。海から見た間人を捉えたいと、2年前、韓国出身の現代アーティスト、ノ・サンホに船に乗ってもらって、現在・過去・未来を表現したドローイングを制作してもらい、間人アートマップを作りました」(徳田)

間人に滞在したNoh Sangho(ノ・サンホ)による時空を超えた間人の風景を描いた作品「THE GREAT CHAPBOOK 3 – Taiza」(2024年) Drawing by Sangho Noh, Project by TOMORROW FIELD

「ここに古墳があるということは、海に向かって弔ったということ。それは素晴らしい見送り方だと思ったんです。亡くなった大事な人に別れを告げて、どう向き合って生きていくか、と考えることは、与えられた人生をどう生きるか、ということ。ここに立つと、いつもアートの起源、役割についての思いにかられます」(徳田)

大成古墳群のある岬の丘陵地からは日本海が一望できる。 Katsuo Takashima

「あしたの畑」が始まって6年。地域の人たちとのつながりを求めて、神社で雅楽を奉納したり、子どもたちのために地元の食材を使ったハンバーガーを料理人に作ってもらい食べてもらったり、餅つき大会を催したこともあったという。集落の通り沿いにある、古民家を時間をかけて改修した「間人スタジオ」の庇(ひさし)は、中川さんが木で手作りしたへぎ板。いまでは雨が降ると、地元の人が雨宿りに立ち寄って、ちょっとした会話が始まるようになった。

「地元の人たちからすれば、私たちは多分いまも"宇宙人”です(笑)。でも冷静に振り返れば、直島も40年かかっている。直島で私たちやアーティストを支えてくれているのは、一緒にプロジェクトを見守ってくださった島の皆さんです。よそ者なので時間はかかると思います。自分が生きてるうちにできるとも思っていない。でも、いまは一生懸命、地域の文化になりたいと頑張っています。ここは決してアクセスはよくないですが、何か感じるものをもってかえっていただける場所であると信じています。またぜひいらしてください」(徳田)

2024年に「人口戦略会議」が発表した2050年までに消滅可能性のある自治体のひとつに、間人を含む京丹後市が含まれている。間人だけでなく日本中で進む少子高齢化だが、その難題にアートをもって取り組もうとしてるのが「あしたの畑」だ。徳田さんはかつて「間人での取り組みが日本の美しい海辺のアート集落モデルとなり、世界から人が訪れる場所、学生には学びの場に育つこと」が自分の望みだと書いた。〈シャネル〉の支援をはじめ、人々の支援がここに集まり、活動が発展することを願わずにいられない。

あしたの畑 2026 秋期公開|REFLECTION

会期/2026年10月12日(月・祝)~11月8日(日)
時間/10時~17時(最終入場 15時30分)
定休日/水曜
鑑賞料(日時指定ツアー制)/大人:3,500円、学生:2,500円(学生証を提示)
あしたの畑 2026 REFLECTION | 秋期公開 鑑賞予約はこちら

※鑑賞は事前予約制のガイドツアー形式(間人スタジオに集合)
※別途プライベートツアーあり
会場/
間人:間人スタジオ、SEI TAIZA、間人プレイス
宮 :宮のあしたの畑(Field of Stars、宮ティーハウス)

蛇口を撚れば水が出てくることに慣れた現代人は、自然の恵みを当たり前に享受し、目に見える資本に安心や幸福を見出すようになりました。
しかしその便利さの裏側で、地球が痛みを叫んでいるように思えるのです。
そのような時代に未来を感じない若者は子供を産むことを恐れ、日本は少子化に面しているー自然と再びつながるためには、 自らの手で生み出す力と、そこに宿る愛を実感する機会が必要だ、と。
それらを次世代へと手渡す学びの場を育み、心を揺さぶる体験となる作品を制作し、展示することーその循環を生み出すことこそが、 あしたの畑の活動の原点です。
次世代への継承のために、優れた才能により生み出される作品制作と展示の場を創出します。Stay Gold、新しいクリエイションの世界へ、永遠ではないと知りつつ感動する心を追い求めて。 ──「あしたの畑」プレスキットより

主催/NPO法人TOMORROW
特別支援/シャネル合同会社

参加クリエイター:浅野友理子(大谷製陶所)、アンナ・へリンガー、五十嵐大介、いとをかし、十八代 永樂善五郎、ONJIUM、金沢健幸、中川周士、中須左官店、縄屋、パロマ+五十嵐大介*、益田芳樹、cenci、マーティン・ラオホ、ルサージュ+髙室畳工業所*、ルマリエ+嘉戸浩・金沢健幸・藤田幸生*、ロニオン+デザイン橡*(あいうえお順)
*Beyond Our Horizons展を機に制作された〈le19M〉と日本の職人とのコラボレーション作品

撮影=高嶋克郎 編集・文=内田理惠(婦人画報編集部)

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