1. トップ
  2. エピソード
  3. 単身赴任の父と息子の内緒のやりとり→「母さんの誕生日、何がいい?」の相談が100件ありました

単身赴任の父と息子の内緒のやりとり→「母さんの誕生日、何がいい?」の相談が100件ありました

  • 2026.10.29
ハウコレ

父から届いたストールの色の相談は、すぐに「すまん、間違えた。今のは忘れてくれ」と打ち消されました。その続きを父が誰としていたのか、答えは家の中にありました。

洗い物をしている間、ソファの上で息子のスマホが短い通知音を鳴らし続けていました。画面を見ては指を動かす息子に、誰からかと聞いてみると、返ってきたのは「じいじ」の一言。私の父のことです。スマホはそのまま、画面を下にしてクッションの上に置かれました。

父と私のチャットは「元気か」だけ

父が遠方の工場へ単身赴任して、2年が経っていました。実家では、母が1人で暮らしていました。車で15分ほどの我が家から、中学1年の息子が部活帰りによく顔を出していました。

父と私のチャットは、月に1度の「元気か」「元気だよ」と、私が送るスタンプだけ。父は昔から、用件以外の言葉を打たない人でした。

その父が、この春スマホを持ったばかりの息子とは、毎日のようにやりとりをしているようでした。何を話しているのか聞いても、息子は「別に」と言って部屋へ上がっていくだけ。

伏せられたスマホが目に入るたび、洗い物の手が少しずつ遅くなりました。

間違えて届いた父からのメッセージ

その日、息子が塾へ出かけたあと、今度は私のスマホが鳴りました。父からです。

「ストール、紺と黒どっちがいいと思う?」

「元気か」以外の言葉が父から届いたのは、久しぶりでした。ストールという単語と、来月が母の誕生日だということが、頭の中でゆっくりつながっていきました。

返事を考えているうちに、父から次のメッセージが届きました。

「すまん、間違えた。今のは忘れてくれ」

誰に送るつもりだったのだろう。「何の話?」と送ると、すぐに既読がつきました。けれど、その先はいくら待っても届かないまま。テーブルのお茶は、手をつけないまま冷めていきました。

今頃、父は画面を前に考え込んでいるのだろうか。そう思いながら、スマホを伏せました。

息子のスマホに続いていた100件の相談

塾から帰った息子に、父から届いた画面を見せました。息子は「あー」と声を漏らし、自分のスマホを握ったまましばらく迷っていました。

「じいじとの約束だから、中身は言えない」

そう言いながら見せてくれたのは、トーク画面の一番上だけ。3週間前の、父から息子へのメッセージでした。

「母さんの誕生日、何がいい?」

「もう100件くらいやりとりしてる」

息子はそう付け足して、画面をまた伏せました。

母への贈り物は、高校生のころからずっと私が選んできました。毎年この時期に父から「今年も頼む」と届き、私が決めて、父が代金を払う。今年はまだ、その1行が届いていませんでした。

私には「元気か」しか打たない父が、息子とは100件。台所に戻り、乾いた湯のみを布巾で何度も拭き直しました。

そして...

父とのトーク画面を開き、「何の話?」の下に1行だけ打ちました。

「紺がいいと思うよ」

しばらくして届いたのは、「ありがとう。母さんには内緒な」という返事と、お辞儀をするクマのスタンプでした。父からスタンプが届いたのは、初めてのことでした。

100件のやりとりの中で、父と息子は何を話していたのか。私に頼まなかった理由も、あのスタンプをどこで覚えたのかも、父にはまだ聞けないままでした。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ