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「稼ぐ女は可愛くないよ」と笑った彼。会社がなくなり、私の稼ぎに助けられた2カ月

  • 2026.10.29
ハウコレ

缶ビールを開ける音のあとに、彼の短い笑い声が続きました。テーブルには、その日もらったばかりの昇進の辞令のコピー。見せたらきっと喜んでくれると思って、帰り道に何度も鞄の中を確かめた紙です。私はそれを、そっと裏返しました。

昇進の報告に返ってきた言葉

同棲して2年になる彼は、印刷会社で働いていました。私は広告の営業をしていて、担当を少しずつ増やし、後輩の案件も引き受けてきた末の主任昇進でした。その夜、彼に伝えました。

「主任になったの。お給料も少し上がるんだ」

缶ビールを開けてから、彼は辞令に目を落としました。

「稼ぐ女は可愛くないよ」

そう言って笑った顔は、いつもの冗談を言うときと同じ。私は言い返す言葉を探すより先に、流しで皿を洗い始めていました。

会社がなくなると告げられて

それから1カ月ほどたった頃、彼が玄関で靴を脱ぐ前に言いました。

「会社、今月で閉めるって」

大口の取引先が離れ、社長が事業をたたむと決めたそうです。家賃の引き落としは、翌月も変わらずやってくるものでした。私はすぐに言いました。

「家賃は私が払っておくね」

「悪い」

返ってきたのはそれだけでした。光熱費を払った日も、食材を多めに買って帰った日も、彼の返事は「悪い」のまま。夕飯は向かい合って食べるものの、話しかけても「うん」と短く返されて会話が続きません。食べ終えるとすぐ、彼はノートパソコンを抱えて奥の部屋へ入りました。

閉じたドアの前で

昇進を伝えたあの日の笑い声を、何度も思い出しました。稼ぐ女が可愛くないなら、その給料で暮らしている今をどう思っているのか。お礼の言葉を待っているのかどうか、自分でもよく分からなくなっていました。「悪い」と言うときの彼は、私の顔ではなく床のあたりを見ていました。

彼がスーツ姿で出かけていく日も、何度かありました。行き先は言わず、帰ってくるとまた奥の部屋へ。閉じたドアの前を通るたび、ノックしかけた手を下ろしました。

そして...

会社が閉まって2カ月ほどたった頃の夕飯で、彼のほうから新しい就職先が決まったと話してくれました。こんなに長く彼の話を聞いたのは、久しぶりのことです。

最初の給料が出た日、彼はテーブルに白い封筒を置きました。

「助かった。ありがとう」

中にはお札と、日付と金額が並んだメモ。家賃と光熱費に加えて、私が買ってきた食材の代金まで書き出してありました。見覚えのある、右上がりの彼の字です。

引き出しから、裏返したままだった辞令のコピーを出して、封筒の隣に置きました。彼の視線が紙の上で止まり、それから私の顔に移りました。

辞令を見せたあの日、どうしてあんなふうに私を笑ったのか。封筒を受け取った今も、その答えだけはまだ聞けていません。

(20代女性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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