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ゲルハルト・リヒターの“キャンドル”、約51億円で落札。マリアン・グッドマン旧蔵作品に世界が注目

  • 2026.10.24
ゲルハルト・リヒター《Kerze》 (1982) カンヴァスに油彩 100.3×70.5㎝。「Kerze」はドイツ語でキャンドルの意。暗い背景に灯る1本のろうそくがぼやけた像で描かれている。リヒターが1982~83年に複数制作した「Kerze」は、現実と記憶のはざまで、静寂や内省、生と死、移ろう時間を思わせるシリーズ。 PHOTO: © CHRISTIE’S

2026年のアートオークションを語るうえで欠かせない一作がある。5月20日にニューヨークで開催されたクリスティーズのオークションで、ゲルハルト・リヒターの代表作の絵画《Kerze(キャンドル)》(1982)が3513万5000ドル(約51億円、当時)で落札された。リヒター作品として歴代トップ4に入る高値で、同セールのトップロットに君臨。リヒターがキャンドルを描いた作品がオークションに登場するのは15年ぶりとなり、今年の春季オークションを象徴する作品として話題を呼んだ。

だが今回注目を集めた理由が、もう一つ。この作品が、今年1月に亡くなった伝説的なギャラリスト、マリアン・グッドマンが約40年にわたり所有してきた一点であったことだ。グッドマンは1980年代半ばからリヒターをアメリカで本格的に紹介し、国際的な評価を築き上げた最大の功労者の一人。彼女は本作を1989 年にリヒター本人から直接取得し、以来、自身のコレクションとして大切に所蔵してきた。

ちなみに本作が初めて披露されたのは、それに先立つ1982年。当時シュトゥットガルトにあったマックス・ヘッツラー・ギャラリーで開催された展覧会で4 点のキャンドル作品が発表されたが、興味深いことに当時はいずれも買い手がつかなかったという。写真をもとに描かれた1本のろうそくは、1980年代初頭には決して市場の人気作ではなかったのだ。しかし、その後リヒターは20世紀を代表する画家として世界的な評価を確立し、キャンドルをモチーフにした作品は彼の「フォト・ペインティング」を象徴するシリーズの一つとなる。今回の落札は、その歴史をあらためて証明する出来事でもあった。

《Kerze》は、1本のろうそくが暗闇に浮かぶだけという極めて簡潔な構図でありながら、写真と絵画の境界、見ることと記憶、静寂と時間といった、リヒターが追究し続けてきたテーマを凝縮した作品として知られる。ぼかしをともなう柔らかな描写は写実的である一方、現実ではなく、どこか遠い記憶を見つめているような感覚を呼び起こす。

今回のセールでは本作を含む8点のリヒター作品が出品され、総額約7880万ドル(約114億円、当時)を記録した。いずれもグッドマンの旧蔵作品であり、長年にわたる作家との信頼関係を物語るコレクションだった。クリスティーズはこのオークションを一人のギャラリストが築き上げた功績を称える機会として位置づけている。なお、購入者は公表されておらず、美術館なのか個人コレクターなのか、その新たな行方にも関心が集まる。

概して、2026年前半のオークション市場ではどの作品がどのような来歴を持つのかがこれまで以上に重視された。1 本のろうそくが照らし出したのは、リヒターの画業とともに、その価値を早くから見抜き、長く守り続けたグッドマンのまなざしでもある。

From Harper's BAZAAR art no.6

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