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「はじめまして」と居酒屋で頭を下げた彼の友達は、私の元カレの弟でした

  • 2026.10.28
ハウコレ

席へ戻る途中、顔を寄せ合う2人の低い声が耳に入りました。聞き取れたのは最後の部分だけでした。その言葉が、帰り道まで頭から離れませんでした。

居酒屋の引き戸を開けると、奥の席で彼が手を振っていました。その向かいで振り返った男性と、目が合います。3年ぶりに見るその顔は、記憶の中より少しだけ大人びていました。

コートを腕にかけたまま

付き合って1年になる彼から、大学のサークル仲間を紹介したいと言われていました。仕事帰りに待ち合わせた駅前の居酒屋で、彼は向かいの男性を指さします。

「こいつ、大学のサークルからの友達」

男性は一瞬だけ私の顔を見てから、小さく頭を下げました。

「はじめまして」

その声には聞き覚えがありました。3年前に別れた元カレの弟です。元カレの実家に遊びに行くたび、リビングで一緒に鍋を囲んだ相手でした。

脱ぎかけたコートを腕にかけたまま、「はじめまして」と返しました。知っている相手だと彼の前で言い出すきっかけは、その返事でなくなってしまいました。

戻った席で聞こえたもの

乾杯のあとも、元カレの弟は私のほうをあまり見ませんでした。彼が学生時代の失敗談を話すたびに笑い声はあがるのに、私と彼の友人のあいだだけ、会話が一度も行き来しません。

グラスの水滴を指でなぞってばかりいた私は、席を立ってトイレへ向かいました。洗面台の前で、今日のうちに彼へ打ち明けるべきか考え直します。元カレの話を、彼の友人の前で持ち出す理由は見つかりませんでした。

席へ戻る途中、2人が顔を寄せ合っているのが見えました。テーブルのすぐ手前まで来たとき、低い声が耳に届きます。

聞き取れたのは、「本人には言わないでおいて」という最後の部分だけでした。

元カレの弟が私に気づいて背もたれに体を戻し、彼が振り返ります。

「おかえり」

いつもと変わらない彼の笑顔でした。

最後まで聞き返せなかった言葉

隣に座り直しても、さっきの言葉が頭から離れません。本人とは、私のことなのか。元カレと別れた経緯を、弟は兄から聞いているはずです。連絡が途絶えがちになり、最後は私から別れを切り出した。その話がどんな形で彼に伝わったのか、見当もつきませんでした。

彼は何事もなかったかのように、次の注文を店員さんに伝えていました。聞き返せばいいのに、グラスを持ち上げては、口をつけずに置き直すばかり。

改札の前で別れるとき、元カレの弟は私に向き直りました。

「今日は、ありがとうございました」

深く下げられた頭に、私も同じだけ頭を下げて応えました。

そして...

彼と並んで歩く帰り道、コンビニの明かりが近づいたところで口を開きました。黙っているほうが、この先ずっと引きずってしまう気がしたのです。

「今日の友達ね、私の元カレの弟なの」

彼は少しだけ歩く速さを緩めました。コートのポケットに手を入れたまま前を向き、何か言おうと小さく息を吸います。

その横顔を見ながら、居酒屋で聞いた声を思い出していました。あのときの「本人には言わないでおいて」は、誰を守るための言葉だったのでしょうか。

(20代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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