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「その服、似合わない」が口癖の彼→彼が選んだ服で出かけた日、商店街ですれ違った彼の母の一言

  • 2026.10.28
ハウコレ

彼が選んだのは、いつもの私の服と色も形もほとんど変わらない1枚でした。それを着て歩いた商店街で、彼の母がかけた言葉の意味を、私は測りかねていました。

クローゼットの前で、ハンガーを外しては戻す作業を何度も繰り返しました。鏡を見るたびに浮かぶのは、自分の姿より先に彼の顔です。結局選びきれないまま、紺のブラウスを着て駅へ向かいました。

待ち合わせのたびに聞く言葉

「その服、似合わない」

改札を出た私の服に一度だけ目をやって、彼はそれだけ言うと先に歩き出しました。袖口を指でつまみながら、後ろをついていきます。

付き合って1年、この言葉を聞いた回数を数えるのはもうやめていました。紺やグレーの落ち着いた色を中心に、昔から好きで選んできた服ばかりです。友人と出かけたときには、褒められたこともありました。

それでも彼に言われるたびに、その服はクローゼットの奥へ移っていきました。新しく買い足しても、また同じ言葉が返ってきます。どこが悪いのか聞けばいいのに、聞いたら全部を否定されそうで、口にできずにいました。

「じゃあ、どれなら似合うの」

その日、駅ビルの服屋の前を通りかかったとき、とうとう聞いてしまいました。

「じゃあ、どれなら似合うの」

責めるような声になったのが、自分でも分かりました。彼は少し黙ってから店に入り、何着か見比べてから、1枚のブラウスを私に差し出します。

紺色の、襟の小さなブラウスでした。試着室の鏡に映った姿は、さっきまで着ていた服とほとんど変わらないように見えます。カーテンを開けると、彼は私を見て「うん」とうなずきました。

色も形もほとんど同じなのに、私が選べば似合わなくて、彼が選べば正解になる。レジで袋を受け取りながら、自分の目がすっかり信用できなくなっていました。

次のデートには、そのブラウスを着ていきました。彼のお母さんに会うとは、思いもせずに。

商店街ですれ違った人

駅から少し離れた商店街を歩いていたとき、小さな店の扉が開き、じょうろを手にした女性が出てきました。一度だけ食事をしたことがある、彼のお母さんです。

お母さんは足を止め、私の姿を上から下まで眺めました。

「形がよく合ってるわね。よく似合ってる」

褒められたはずなのに、うまく笑えませんでした。彼が選んだ服だから似合っている。そう言われた気がしたからです。

お母さんは、今度は彼のほうを向きました。

「あんた、ちゃんと言えたの?」

「……まだ」

彼は足元を見たまま、短くそう答えただけです。お母さんは首を横に振り、私に会釈して店の中へ戻っていきました。

帰り道、隣を歩く彼は何も話しませんでした。ちゃんと言えたの、とは何のことなのか。私に伝えなければいけない何かが、彼にはあるのだと思いました。

そして...

帰宅してから、クローゼットの服を並べ替えました。彼が選んだブラウスを手前に掛け、自分で買った服を1枚ずつ奥へ寄せていきます。

同じ紺の2枚を見比べても、違いは最後まで分かりませんでした。

彼がまだ言えていないのは、別れ話なのか。それとも、私の知らない何かなのか。見当もつかないまま、クローゼットの扉を閉めました。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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