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「『ワイルド・スピード』と張り合っても仕方ない(笑)」三池崇史監督が語る、“ヤバイ”映画への回帰と自由な作劇

  • 2026.10.25

三池崇史監督がハリウッドの新進気鋭スタジオNEONとタッグを組み、小栗旬とハリウッドのトップ女優リリー・ジェームズを迎えた『バッド・ルーテナント:トウキョウ』(公開中)。1992年の第45回カンヌ国際映画祭において高く評価された伝説的映画『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』をベースに、オリジナルのDNAを継承しつつ、物語の舞台を東京に移し、新たな形で生まれ変わらせた作品だ。

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MOVIE WALKER PRESSでは、かつてのVシネマのような世界が待ち望む“ヤバイ”映画に回帰した三池崇史監督に直撃インタビューを敢行!悪徳刑事・ヤクザ・歌舞伎町とアウトロー要素が詰まったハリウッドとの共同プロジェクトの裏側をたっぷり語ってもらった。

日本が世界に誇るバイオレンスの巨匠・三池崇史監督にインタビュー!
日本が世界に誇るバイオレンスの巨匠・三池崇史監督にインタビュー!

新宿・歌舞伎町で生きる矢吹恭二(小栗旬)は、ドラッグやギャンブルに溺れ、相棒を殺した噂もある最悪の刑事だった。ヤクザをねらう連続猟奇殺人事件が発生し、捜査を進める矢吹は石塚満(間宮祥太朗)を容疑者として特定する。ある日、矢吹の前にFBI捜査官グエン(リリー・ジェームズ)が現れ、コンビを組んだ2人は日本で行方不明となった次期アメリカ大統領の娘(リヴ・モーガン)を捜索することになる。

三池崇史、危険な〈原点回帰〉

――かつてのVシネマ時代の作品や『殺し屋1』のような作品を、また観たいという声は多くありましたが、『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、そうした〈原点〉に最も接近した快作でした。

「考えてみると、いつも原点界隈をうろうろしているんだよね(笑)。遠くに行けないというか、その辺をぐるぐるぐるぐる回ってる」

ベースとなったアベル・フェラーラ監督の『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』 [c]EVERETT/AFLO
ベースとなったアベル・フェラーラ監督の『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』 [c]EVERETT/AFLO

――今回プロデューサーを務めたサム・プレスマンさんの父は、『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』をプロデュースしたエドワード・R・プレスマンさんですね。この作品を原点に日本で新たに作るにあたって、なにか約束事などはありましたか。

「こんな作品にしてくれ、というのはまったくなしでした。『これを日本でやると、どう料理する?』っていう感じで、最初から自由を与えてくれました。どんな話になるのかも、基本的にこっちが提示する形だったので、それならと、こっちの切り札として脚本を天願大介に。この人は脚本家と言っていいのか、監督と言っていいのか、今村昌平の息子と言っていいのか、日本映画大学の学長と言っていいのか…(笑)」

――三池監督の『オーディション』『十三人の刺客』などで脚本を手がけてきた天願さんと組むのは久々ですね。

「本当に久しぶり。でも、書いてくれと言えば、書き上げるまでが早いんですよ。書いているうちに、登場人物たちが勝手に暴れ出すみたいでね。そういう感覚を自分も持っているので、その意味では楽というのとは違うんだけど、ストレスなく仕事ができましたね」

――劇中には、人間が肉団子になって“鳥葬”される場面が出てきますが、あれは天願さんのアイデアですか?

「そうです。今村昌平さんの『楢山節考』ですね。この映画に、あの死生観を持ち込んだところが独特ですよね」

小栗旬が史上最悪の汚職刑事=バッド・ルーテナントを怪演 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
小栗旬が史上最悪の汚職刑事=バッド・ルーテナントを怪演 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――『楢山節考』には、老人を山に棄て、その亡骸を鳥が啄んだことがわかる場面がありました。『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』では宗教が大きな要素を占めるだけに、日本で作るなら、そこをどうするのかと思っていましたが、まさかの“鳥葬”でした。

「その点についてだけは、天願さんといくつかやりとりがありました。主人公の刑事が五島列島の出身で、隠れキリシタンの末裔という設定にして、彼の根っこにはキリストがいると。それがいろいろあって、東京で刑事をやるようになった、という話にもできるよね、ということを言ってたんですが、でも、それって『復讐するは我にあり』だよね(笑)」

本作はハリウッドスタジオNEONが、企画段階から北米配給を決定 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
本作はハリウッドスタジオNEONが、企画段階から北米配給を決定 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――今村昌平監督の『復讐するは我にあり』は、カトリック信者の家族の物語で、神と信仰と犯罪が絡んでくる映画だけに、『バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト』を日本でやろうとすると今村映画になってしまうのはおもしろいですね。

「そうなると、個人を描く物語になってしまうので、みんながいろんな事情を抱えて生きているという話であるべきなんじゃないか、ということで、どんどん削ぎ落としていったんですよね。それで天願さんのなかで、キリストの代わりに自然界のものに癒しや死を求める発想が生まれてきたんじゃないですかね」

小栗旬の新たな可能性

小栗旬が演じる、新宿・歌舞伎町で生きる刑事・矢吹恭二 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
小栗旬が演じる、新宿・歌舞伎町で生きる刑事・矢吹恭二 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――悪徳刑事を演じる小栗旬さんが絶品ですね。セックス、ドラッグ、ギャンブルそして汚職に手を染めても下品にならないのは、小栗さんの気品がなせる技だと思いましたが。

「そうなんですよ。ステレオタイプの演技をしなくても共鳴できる。作りすぎてないっていうか、演りすぎない。悪い奴の役だからって、悪い顔をしなくていいよねっていう。小栗旬は、この世代で圧倒的ですもんね。『クローズZERO』『クローズZERO II』の主役として一緒にやったあとは、ゲスト的な役で出てもらっていただけなので、今回、20年ぶりにガッツリとやれたんですが、なにも変わってないですよ。『クローズ』の時は、小栗旬たちとホテルの近くの安い焼き肉屋で飲んで食って寝て、また撮影してたんですけど、その時のまま寝て起きたら『バッド・ルーテナント:トウキョウ』の現場にいる、みたいな地続きの感じがありましたね。『ゴジラvsコング』などハリウッド作品にこれまでも出ていますが、今回、小栗旬の新しい可能性を示せたんじゃないかなと思いますけどね。こういう役者が日本にいるんだよっていう」

三池監督作品といえば、やはりビルの屋上!笑顔があふれる撮影風景 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
三池監督作品といえば、やはりビルの屋上!笑顔があふれる撮影風景 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――FBI捜査官グエン・ビルグセンを演じたリリー・ジェームズさんは、三池監督の現場では短時間で膨大な量を撮影することや、本番のテイク数の少なさに驚いたそうですね。

「どこへ行っても、とりあえず驚かれちゃうんで。韓国でやった時(『コネクト』)も、『えっ、1カメラで、ワンテイク?』みたいな(笑)。いろんなテイクを撮って、後で編集する材料をできるだけたくさん集めていくハリウッド方式の撮り方だと、プロデューサーのさじ加減で、編集によっていろいろ調整できる。僕とやっていると、『こういうカットない?』『そんなカットは撮ってない』『えっ、ないの?』みたいになる。でも、それを意地でも貫くっていうつもりはないんですけど。そうすべきだなという作品が出てくれば、そうするし。日本で撮るんじゃなくて、向こうで撮るのであれば、そのルールを活用するっていう方法もありますからね」

――父が次期アメリカ大統領候補で、「スシの研究」のために来日して失踪したミーガン・ラヴゼイを演じたリヴ・モーガンさんの役は、なにがどうなってこんな役になっているのかと思いましたが。

「そう。リリー・ジェームズの役は、人間として心の動きが追えると言われたけど、リヴ・モーガンの役はなんの紹介もなく、ただドラッグとセックスをしながら、ぶん殴る女という。それをまた彼女は楽しんで演ってくれますからね。やっぱり、アメリカのプロレス(WWE)という究極のエンタテインメントの世界にいるプロレスラーですから。なんで彼女は幡ヶ谷のマンションで男をブン殴っているんだろうって撮影しながら思いましたから(笑)。すごく楽しかったですよ」

【写真を見る】セクシーに激しくバイオレンス!「WWE」のスーパースター、リヴ・モーガンの怪演がヤバい [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
【写真を見る】セクシーに激しくバイオレンス!「WWE」のスーパースター、リヴ・モーガンの怪演がヤバい [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

歌舞伎町で撮ることの価値

――歌舞伎町での撮影といえば、かつての三池監督の『新宿黒社会 チャイナマフィア戦争』などでは、ゲリラ撮影による現地の生々しいロケが迫力を生んでいました。『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』になると、歌舞伎町はすべてCGで作られていました。そして今回は、再び現地でのロケがふんだんに盛り込まれています。

「状況がだいぶ変わったんですよね。相談に乗ってくれる組織ができて、撮りやすくなった。それがいろいろと変化したり、歌舞伎町をエンタテインメントの題材として取り上げることにも価値が認められてきた。そのことが関係しているのかもしれませんが、いまはきちんと手続きを経て撮れるようになってきたんですよね」

『バッド・ルーテナント:トウキョウ』ロケ撮影の様子 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
『バッド・ルーテナント:トウキョウ』ロケ撮影の様子 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――今回、随所で三池監督の〈原点回帰〉を感じさせましたが、車のルーフに乗って拳銃を構えるヤクザに車をぶつけるアクションなどは、Vシネマ的な小気味よさがありました。

「やっぱり、『ワイルド・スピード』と張り合っても仕方ないですからね(笑)。アナログでローバジェットだからこそできることを思いついて撮っていると、とても楽しいんですよね。役者もなんか生き生きしてくるし、スタッフもなんか笑いながらやってる。アメリカから来た人たちも笑ってる」

ジェレミー・トーマスとの出会いと別れ

――近年、海外では三池監督の初期作やVシネマ時代の作品がUHD(Ultra HD Blu-ray)で続々とリリースされていて、海外での三池監督の人気を実感させます。『極道戦国志 不動』まで発売されました。

「『不動』も、何か野心があって作ったわけではなくて、ビデオ屋さんの棚を埋めるために作ったんです。映画祭にはVシネマというカテゴリーがないから、プリントにすれば映画じゃないかということで、1997年のトロント映画祭のミッドナイト・マッドネス部門に呼んでもらったんです。夜中に上映して大盛り上がりしたんです。その時の経験というのは、やっぱり宝物ですよね。この作品でこんなに喜ぶ人がいるんだっていう」

間宮祥太朗演じる石塚が“肉団子”を作るシーンはトラウマ級 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
間宮祥太朗演じる石塚が“肉団子”を作るシーンはトラウマ級 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――今回、プロデューサーを務めたサム・プレスマンさんは1987年生まれ。若いころに『オーディション』や『殺し屋1』を観ていた世代ですね。

「いま、いただいているいろんな話も、半分以上がそういう若い世代ですね。こっちは『えっ、そんな若い人が?』と思うんだけど、プロデューサーにしろ俳優にしろ、子どものころに観ていたから、監督は三池がいいと言ってくれて。そうやって、どこかで見ていてくれた人たちがいるというのは、作品を作っている我々にとってはうれしいことですね。ただ、見ている人たちがいるということは、同時に捨てられる可能性もあるわけで、どっちかというと、そっちの可能性の方が高い。楽しいけど怖いっていう世界ではありますよね」

――若い世代が出てくるなかで、先日、本作のプロデューサーであるジェレミー・トーマスさんが77歳で亡くなりました。三池監督が世界で発見され始めた初期のころから、熱心に声をかけていたそうですが、今回はどういう形で組むことになったのでしょうか。

「最初に出会ったのは、ベネチアでした。彼が一緒に映画を作りたいということで、声をかけてもらったんです。それがもう20何年も前。その間にいろいろ、超大作からなにから、いろんな企画がありました。俳優も候補が決まっていたり、ある程度具体的になったこともありましたが、大作だといろんな問題が起きるというか、成立しないのが普通という世界ですから、なかなか実現しない。そこで、我々が日本で作っている企画に参加してもらって、ヨーロッパに向けてジェレミーが紹介していくというようなことで、何本も一緒にやりました」

名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの遺作となった『バッド・ルーテナント:トウキョウ』 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
名プロデューサー、ジェレミー・トーマスの遺作となった『バッド・ルーテナント:トウキョウ』 [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――三池監督の『十三人の刺客』や『一命』に、ジェレミーさんは製作総指揮や製作で携わっていましたね。

「そういう意味では、『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、初めて企画からガッツリ一緒にやれた作品ですね。撮影中、ジェレミーは日本にいたんですが、終始、自由を与えてくれるんですよね。完成した時も非常に喜んでくれました。トロント国際映画祭で正式上映が決まって、良かったねと言っていたんですが、ちょっと体調が悪くて行けないという連絡が入って。いよいよトロントだと言っている時に、亡くなったという知らせが来て。残念ではあるんですが、ジェレミーはジェレミーで、いままで全力でやってきたでしょうから、なんの悔いもない人生だと思います。トロントでお客さんに熱狂的に迎えられた時は、自分の隣の席でジェレミーが見ていた感じがしましたね」

――ジェレミーさんとの実現しなかった数々の企画も、機会があれば甦る可能性も?

「宿題をいっぱい出していなくなっちゃった先生みたいな感じがするんですよ。でも、それはジェレミーがいたから生まれたものなので、そのなかから、僕たちだけでもうまく作り上げることができるものは作っていって、ジェレミーに届けるのも役目かなと思ってます」

僕らは僕らのやり方で作っていく

内容は原点回帰だが、“いま”の映画界に沿った撮影が行われた [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
内容は原点回帰だが、“いま”の映画界に沿った撮影が行われた [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、日米共同製作という新たな枠組みが、かつてVシネマにあったような自由を呼び戻したという点でも画期的な1本だと思います。日本映画も、撮影時間や休息時間、安全管理などの基準を定めた「映適」(日本映画制作適正化機構)のルールが適用される作品が増えるなど、労働環境に変化が見えてきました。国内外で撮る三池監督の目には、どう映っていますか。

「この間も海外と組んだ作品を日本で1本やったんですが、その時も、頑なに日本のスタッフで作ろうよって主張したんですよね。向こうからすると、DP(Director of Photography=撮影監督)をアメリカ人にした方が、制御しやすいはずなんですよ。でも、僕が意思疎通をうまく取るには、日本でやる限りは、できるだけ日本のスタッフでやっていきたい。アメリカの俳優たちはSAG(全米映画俳優組合)に入っているので、向こうが取り決めた時間に合わせなきゃいけない。僕もCAA(ハリウッド大手エージェンシー)と契約したので、アメリカの監督協会に入った方がいいと言われるんです。ただ、アメリカの監督協会に入ると、製作費自体が1.2倍くらい増えてしまうし、僕自身が規約で働けない時間も増えるんです。ありがたいことなんだけど、いま、世界に対して撮っている時に、そんなことをやってる場合じゃないよねっていう」

『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は公開中! [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.
『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は公開中! [c] 2026 BLT TOKYO LIMITED. All Rights Reserved.

――そのあたりの労働と規約の関係には、どう対処されていますか。かつては低予算、短期間の撮影日数で厳しい現場をくぐり抜けてこられましたが。

「僕らがかつて無茶できたのは、撮影が2週間で終わったから。まあ、2週間だったら楽しんでわーっとやっていると、半分くらい寝なくても大丈夫かな(笑)。それでスタッフも全部1段階上げるわけですよ。チーフだった人をカメラマンに、照明助手だった人を照明技師に。そうすると、撮りたいものが撮れるということで、お祭りのような現場になっていく。いまは撮影日数も長いし、寝ないわけにはいかない」

――労働環境のルールを守りつつ、限られた条件の中で工夫しながら映画を撮ることで『バッド・ルーテナント トウキョウ』のような快作が生まれたわけですね。

「そうです。ギリギリだけどセーフ。僕らには、僕らのやり方で作っていく自由度があった方がいいと思います」

取材・文/吉田伊知郎

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