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チラシの裏で何度も書き直した、娘への3行。「とうさんがうった」と返した父の本当の気持ち

  • 2026.10.27
ハウコレ

娘に送った3行の絵文字には、1つずつ意味を込めていました。けれど、娘の質問に返せたのは、絵文字のない短い一言だけでした。

娘に初めてメッセージを送った夜、台所のテーブルには、裏に鉛筆で下書きしたチラシが3枚重なっていました。消しゴムで何度もこすった部分は、紙が薄くなっています。それでもまだ、送信を押す決心はつきませんでした。

短い言葉が冷たく読まれる気がして

長年使ってきた折りたたみの携帯電話が、もうすぐ使えなくなると聞いたのがきっかけでした。店で機種を変え、文字の打ち方を一通り教わり、名前は自分で「とうさん」と入れました。

妻は娘と、毎日のようにメッセージを送り合っています。妻に見せてもらった画面では、どの文の後ろにも絵文字が付いていました。

俺の言葉は昔から短い。電話でも「おう」と「じゃあな」くらいしか言えず、娘には「お父さん、なんか怒ってる?」と何度も聞かれてきました。言葉だけで送れば、もっと冷たく読まれるだろう。だから、どの行にも絵文字を付けると決めていました。

人さし指1本で打った、3行と8つの絵文字

その夜、妻が先に寝室へ行ってから、人さし指1本で打ち始めました。打つのは「元気か」「とうさんもスマホにしました」「こんど、かえる日おしえて」の3行です。漢字に変わってくれたのは「元気」と「日」くらいで、あとは変換の出し方が分からずひらがなのまま。「スマホにしました」と丁寧語になったのは、手紙の書き出しのような気がしたからです。

絵文字は1行ずつ選びました。「元気か」の後ろには太陽と力こぶ。2行目には目玉と、祝いの星と、大笑いしているつもりの黄色い顔。

3行目には実家のドアと、帰ってきたら握ってやるつもりのおにぎりと、頼むという気持ちで両手を合わせた絵を付けました。

妻に見せずに送ったのは、自分で打ったものを届けたかったからです。送信を押したとき、湯のみのお茶はすっかり冷めていました。

打っては消した、長い説明

しばらくして、娘から返事が届きました。

「これ、お母さんが打ったの?」

すぐに長い文を打ち始めました。店で教わったこと、チラシで練習したこと、どの絵文字にどんなつもりを込めたか。けれど読み返すと、手柄を並べているようにしか見えません。少しずつ消していくほうが、打つより早く終わりました。

結局送ったのは、これだけです。

「とうさんがうった」

絵文字は付けませんでした。付ければ、また冗談に見える気がしたからです。少しして、娘から返事がありました。

「そうなんだ。帰る日決まったら連絡するね」

俺はおにぎりの絵を付けかけてやめ、「まってる」とだけ送りました。

そして...

数日後、娘から新しいメッセージが届きました。

「来月の連休に帰るね」

妻に画面を見せると、妻は俺の最初の3行までさかのぼり、黄色い顔を指さしました。大笑いではなく、泣き笑いの顔だそうです。娘には、俺が泣きながら打ったように見えたかもしれません。チラシ3枚分の苦労を思えば、あながち間違いでもない気がしました。

カレンダーの連休の欄に、下書きに使った鉛筆で丸を付けました。おにぎりの具は、妻に聞いて娘の好きな鮭に決めています。あの絵の意味だけは、連休に皿にのせて伝えるつもりです。

(60代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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