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同期に口止めした俺→妻に「行きたかった」と打ち明けるまで

  • 2026.10.26
ハウコレ

鞄の内ポケットには、ひと月前から同じ茶封筒が入っていました。地方への転勤を断ったあとも、捨てられずにいた書類です。妻には言わないつもりでした。けれど、同期に口止めした言葉を、妻に聞かれていたのです。

同期にだけ話せたこと

封筒の中身は、地方に新しくできる拠点の立ち上げに、3年間加わらないかという打診でした。昇格も約束された話です。2週間ほど考えて、上司に辞退を伝えていました。

その日は、代わりに行くことが決まった同期が、報告がてら家へ飲みに来ていました。妻が氷を買いに出たすきに、同期が「奥さん、まだ知らないのか」と聞いてきました。

「妻には言うなよ」

そう返すと、同期は声を落として「それ、奥さんが決めることでもあるだろ」とつぶやきました。直後、玄関のドアが大きな音を立てて閉まり、「ただいま」と妻の声がしました。リビングのドアが、少し開いたままだったのです。

「おかえり。早かったね」

グラスに手を伸ばしながら、さっきの言葉がどこまで届いていたのかを考えていました。

妻に転勤の話をしなかった理由

同期が帰ったあと、妻に聞かれました。

「さっき、何の話してたの?」

「仕事の話だよ」

それ以上は言えませんでした。

妻は半年前、希望していた商品企画の仕事に転職したばかりです。毎日楽しそうに仕事の話をしていました。

結婚前には「転勤になったらついていく」と言ってくれた妻です。今回もきっとそう言うでしょう。

でも、せっかく手に入れた仕事を辞めさせたくありませんでした。一方で、俺自身は新拠点へ行きたかった。断ったあとも、その気持ちが消えませんでした。同期から引き継ぎの電話が来るたび、ベランダへ出ました。妻に聞かれたくなかったからです。

置き忘れた封筒の前で

数日後、出がけに封筒をテーブルへ置き忘れました。帰宅すると、妻がその前で待っていました。

慌てて鞄にしまうと、妻が聞きました。

「私に言えないことなの?」

「もう終わった話だから」

「仕事のこと?それとも、ほかに誰かいるの?」

思いもしなかった言葉でした。

「違う。そういう話じゃない」

隠し続けたせいで、妻にそんな疑いまで抱かせていたのです。

そして...

向かいの椅子に座ると、妻が言いました。

「終わったかどうかは、私も一緒に聞きたかった」

もう隠せませんでした。鞄から封筒を出し、転勤の打診と辞退したことを話しました。

「お前の仕事を辞めさせたくなかった。勝手に断ってごめん」

妻は書類を見つめてから聞きました。

「それで、あなたは行きたかったの?」

「行きたかった」

口にすると、ずっと隠していた本音がようやく出てきました。

「だったら、どうして相談してくれなかったの?」

「お前なら、ついていくって言うと思ったから」

妻は首を横に振りました。

「そう言ったかもしれない。でも、どうするかは2人で考えたかった」

俺は言い訳せずに、妻の話を聞きました。

「次は、決める前に言って」

妻はそう言って、封筒を俺の前に戻しました。

妻のために断ったつもりでした。でも本当は、妻と話し合う勇気がなかっただけなのかもしれません。

その封筒は今、夫婦の書類をまとめた引き出しに入っています。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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