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歌舞伎俳優・尾上右近と巡る〈江戸東京博物館〉。江戸から東京の変遷を3次元で体感

  • 2026.10.24
展示を鑑賞する尾上右近

歌舞伎俳優の尾上右近さんは、現代美術家との対談集を出すなどアート好きとして知られ、折に触れミュージアムを訪れている。〈江戸東京博物館〉がリニューアルオープンしたことを知り、多忙な中、4月に訪れたという。

「歌舞伎では江戸時代に起こったことをよく扱ってはいるけど、あくまで僕たちは歌舞伎の中の江戸を継承しているだけ。実際の暮らしがどうだったのか、今にどうつながっているかを知るためにも、こういう場所で体感するのは重要。だから再開後にすぐに来たんです」

以前にも来館したことはあったが、当時20代だった右近さんは、歌舞伎の研鑽を積むのに追われ、江戸の文化について学ぶどころではなかったという。

「30代になり、歌舞伎を俯瞰して見られる余裕が出てきたのかも。だから今、いろんな展示を見るのがとても楽しいんです」

同館6階の常設展示室には日本橋の原寸模型が架かり、5階の江戸ゾーンには江戸時代の代表的な歌舞伎の芝居小屋である〈芝居小屋・中村座〉、東京ゾーンに〈服部時計店〉が聳(そび)え立つ。いずれも原寸大の復元模型だ。

3次元の展示から、当時の暮らしを体感する

〈芝居小屋・中村座〉はリニューアル前から人気の展示物で、木戸(出入口)部分を原寸大の間口11間(約20m)、奥行き3間(約5.5m)で復元した。かねてから「小屋の中に入ってみたい」という声があり、今回、内部に通路が新設された。

「雰囲気は金丸座(香川県琴平町にある旧金毘羅大芝居)に似ていますね。江戸時代の長屋の住まいは本当に狭かったから、当時の人からすれば芝居小屋は特に大きく感じたんじゃないかな。今、銀座にあんな大きな歌舞伎座があるのと同じような感覚だったのかも」

江戸時代中期から後期にかけて、幕府から歌舞伎興行を許された芝居小屋は「江戸三座(中村座、市村座、森田座)」と呼ばれていた。

江戸時代の代表的な芝居小屋の一つである〈中村座〉の正面に立つ尾上右近さん。「原寸大ですか?こんなに大きかったんだ!」

「僕は市村座の流れを汲む役者なので、なぜ中村座が選ばれたのかが、ずっと気になっていました」

その答えは、学芸員の沓沢博行さんが教えてくれた。

「江戸時代にはよく火事が起き、芝居小屋も何度も焼失しています。これは堺町(現在の中央区日本橋人形町3丁目付近)にあった、19世紀初頭のものを復元していますが、建て直し時の記録などが多く残っていたのが中村座だったんです。外観は当時の浮世絵などを参考にしました。歌舞伎十八番『助六』の舞台を原寸大で再現した展示は市村座が基になっています」

『助六』の展示は以前からあったが、リニューアルに合わせて花魁(おいらん)・揚巻の衣裳などを修復し、人形の髪を床山が結い直したという。

「原寸大で中村座や、当時の『助六』の舞台を見ていると、江戸時代における歌舞伎というコンテンツの立ち位置についていろいろと想像力をかき立てられますね」

右近さんは、歌舞伎や時代劇を見るうえでも、こういった博物館を訪れるのはお勧めと話す。

「例えば『仮名手本忠臣蔵 六段目 与市兵衛内勘平腹切の場』は、“見苦しいあばら家”の場面ですが、舞台セットは大きいから、あばら家が広々とした住まいに見えてしまう。ここで長屋の狭さや人々の暮らしを体験してみると、設定や台詞(せりふ)がリアルに感じられます」

展示鑑賞中の尾上右近
肥桶(こえおけ)を担ぐ体験コーナー。舞台『衛生』で、古田新太さんと屎尿(しにょう)汲み取り業の父子を演じたことがある右近さんは、「肥桶担ぎは任せてください!(笑)」。
展示鑑賞中の尾上右近
江戸の棟割長屋展示「大工の家」の床の一部を切り取り、中に入れるようになった。
歌舞伎十八番『助六』の舞台
歌舞伎十八番『助六』の舞台を再現。
銀座煉瓦街の模型
大型展示も右近さんのお気に入り。写真は〈服部時計店〉内部にある「銀座煉瓦街」。明治10年代後半の銀座4丁目周辺を25分の1スケールで復元。

続いて、東京ゾーンで右近さんの興味を引いたのは、〈同潤会代官山アパートメント〉だった。

「関東大震災の復興住宅として建てられたのが〈同潤会アパートメント〉で、解体時に保存していた部材なども使い、ここに住んでいた建築家の西山夘三(うぞう)さんの詳細なメモや資料を基に再現しました。敷地内には商店や銭湯などがあり、一つの集落のようだったそうです」

沓沢さんの解説を聞きながら室内を興味深そうに眺める右近さん。

「江戸時代の長屋に比べると、ぐっと近代的になりましたが、実は長屋で暮らしの大枠ができていて今に至るまでスペックが増えていっただけなのかもしれないですね」

〈同潤会代官山アパートメント〉の外観と室内を復元。階段状にあしらわれた入口や窓枠、照明などのデザインがモダン。

ミュージアムには、エネルギーを浴びに行く

右近さんは、歌舞伎の一番の魅力は“人間のエネルギー”であり、歌舞伎を“人間力のミュージアム”のようだと感じているという。

「博物館なら展示物、美術館なら作品のエネルギーを浴びに行っているところはあるかも。どんな時代背景で、当時の人はどう思っていたのかなどをよく想像します。仏像とかを見ると、“作者、中二病だな!”って感じるんですよ。こんな姿にしたらめっちゃ邪気払ってくれそう、守ってくれそうって想像力を膨らませて作ったものでしょう?人間のエネルギーを強く感じるんです。ミュージアムで得たエネルギーはどこでどうつながるかはわからないけど、のちのち役に立ったと実感する瞬間があるんです」

ここまでミュージアムの魅力について熱く語っていた右近さんだが、「実は、歌舞伎以外に本当に興味がないんですよ」と言う。

「でもそれじゃまずい。人に歌舞伎に興味を持ってもらうためには、僕たちが人の興味を引きつけなくてはならないし、僕自身も、歌舞伎以外に興味を感じられなきゃだめ。僕がミュージアムに行くのは、歌舞伎以外のものを意識的に見て、いろんなことに興味を持つための、トレーニングのようなもの。僕がミュージアムに行くことも、根本は歌舞伎のためなんです」

展示を鑑賞する尾上右近
世相変遷展示を気に入った右近さん。「これを見ると、自分も歴史の中に存在していることが実感できます」
「iPod−10GB」
東京ゾーン最後の世相変遷展示。2000年代コーナーには「iPod−10GB」などつい最近まで使われていたお馴染みのものも。
展示物の車
江戸から現代までを一気に体験!

profile

尾上右近(歌舞伎俳優)

1992年東京都生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎、母方の祖父は鶴田浩二。2005年に二代目尾上右近、18年には七代目清元栄寿太夫を襲名。9月に大阪、10月に東京で自主公演第十回『研の會』を開催。著書に『尾上右近アーティスト対談集 右近 vs 8人』。

Information

〈江戸東京博物館〉の外観

東京都江戸東京博物館

1993年開館。菊竹清訓設計。2026年のリニューアルではOMAの重松象平が空間演出を行う。江戸から現代に至る約400年間を中心に、実物資料や体験型資料、復元模型などを約35万点収蔵。

住所:東京都墨田区横網1-4-1
TEL:03-3626-9974
営:9時30分~17時30分(土~19時30分)
休:月曜
料金:一般800円

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