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没後初の回顧展『多田美波―光、凛と ゆれる』。空間デザインを担当した阿部真理子が読み解く

  • 2026.10.19

東京都現代美術館で『多田美波―光、凛と ゆれる』が開催中だ。戦後の日本美術に大きな影響を与えたアーティストの大規模な回顧展について、空間デザインを担当した阿部真理子に聞いた。

photo: Jun Nakagawa / text: Mikado Koyanagi

阿部真理子が『多田美波―光、凛と ゆれる』の回顧展を巡る
BRUTUS

光をデザインしたアーティストの“光而不耀”な仕事術


話を聞いた人

阿部真理子
あべ・まりこ/建築家、空間デザイナー。隈研吾建築都市設計事務所、DGT(パリ)を経て独立。『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』展などの展覧会の展示構成で知られる。近年は年間5~10ほどの展示をデザインしている。


昨年の『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』展(東京国立近代美術館)でも改めて注目された、戦後の日本美術における女性作家の草分け、多田美波の展覧会が、東京都現代美術館で現在開催中である。多田は、新しい工業素材や加工技術を用いた彫刻や照明作品で知られ、ホテルや皇居の照明など建築物の関連作品や、パブリックアートも数多く手がけている。

多田の没後最初の回顧展となる本展の見どころについて、展示構成を担当した、石岡瑛子の展示や『つぐ minä perhonen』展などでも知られる阿部真理子に話を聞いた。

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展示構成ではどこにポイントを置いたのだろうか。

「このお話をいただいたのは、昨年の11月のことでした。そこからいろいろとリサーチしたのですが、多田先生は、アート作品、プロダクト、ホテルの照明などのコミッションワークなど、スケールや目的の異なるプロジェクトを同時並行的に走らせてきました。それらは本質でつながっています。空間的にもあえて分けず、地続きに見渡せることを大切にしました。また、環境彫刻ですから、アトリウム(吹き抜け)や野外展示スペースも、自然に活用しています」

建築物の一部や公共彫刻など美術館に持ってこられないものも、写真や図面に合わせ、当時の実物パーツや試作品を展示するなど工夫されている。

「建築家の展示だと、施工方法なんかを丹念に説明することも多いと思うんですけど、多田先生の場合は、ガラスとか素材そのものの美しさに魅せられて、そこからその環境に合う造形を模索しているようなところがある気がしています。現物を持ってこられないので、そのパーツ自体から何かを感じ取ってもらう意味があるようにと思って、そうした部屋にしました」

アトリウムに展示されたステンレス素材などの作品群
アトリウムに展示されたステンレス素材などの作品群。野外の展示物も写真奥に見える。
初期の抽象絵画作品
初期の抽象絵画作品。後の立体作品への移行の萌芽が感じ取れる。
暗くした展示室には再制作・再構成の照明作品
暗くした展示室には再制作・再構成の照明作品が。かつて大阪のバーにあったクラゲ形の光造形と、東京のマツヤ・サロン、全共連ビルに設置されたチェーンデリア。

中には今回のために、再制作や再構成を行った照明作品もあるが、多田は、そうした作品を「光造形」と呼び、自分は「造形物を通して光をデザインする」のだと語った。こうした「光」へのこだわりについてはどうだろう。

「多田先生の作品は、作品自体が光るのではなくて、光源が仕込んではあるけど、その光を素材が受け止めるように作られているんですよね。譬(たと)えて言えば、太陽というより月に近いというか。先生の好んだ言葉に老子の“光而不耀(ひかりてかがやかず)”があるそうで、それは自分の内面や知性をひけらかさないあり方や姿勢を意味しますけど、文字通りの意味としても腑に落ちます」

多田は、そうした工業素材を専門業者と協働して作品に取り入れていったが、当時、特に女性としては珍しい存在だっただろう。最後に、そのような道を切り拓(ひら)いていった多田に、同性として思うところを尋ねた。

「ただただ尊敬でしかないですよね。多田先生は、戦後、しばらく体調を崩されていて、こうしてバリバリ活躍され、研究所を設立されたのは、30代終盤なんですよね。それも、とても小柄な姿で、当時おそらく男性社会の建築現場に乗り込んでいく、強さや努力と素直さ。今だって、まだ現場によっては堅苦しく勇気がいる時があるのに、その時代、そして今の私では想像できないような長い間、様々な困難を切り抜け、挑戦し、続けられてきたなんて。多田先生のような方がいたことを若い人含め、知ってもらいたいですね」


Information

『多田美波―光、凛と ゆれる』

戦後の日本美術を牽引した女性美術家、多田美波の没後初となる大規模な回顧展。約200点の彫刻作品と500点にも及ぶ建築空間のための作品を残した多田の作家活動の軌跡を概観することができる。東京都現代美術館で2026年12月6日まで開催。

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