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森田剛が語る“面倒くさいけど愛おしい”男の魅力。映画『見上げてごらん』で直面した「お前は何がやりたいの?」という問いへの思い

  • 2026.10.24

近年は映画『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(2024年)や『雨の中の慾情』(2024年)、舞台 『台風23号』(2024年)、『ヴォイツェック』(2025年)、『砂の女』(2026年)などの主演を務め、さまざまな作品で活躍を見せている森田剛さん。

最新主演作となる映画『見上げてごらん』では、巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一を演じている。

映画『見上げてごらん』で主演を務めた森田剛さん 撮影=小嶋淑子
映画『見上げてごらん』で主演を務めた森田剛さん 撮影=小嶋淑子

インタビューでは、撮影秘話や“人間臭くて魅力的”だったという役柄について、さらに劇中に登場するセリフにまつわるご自身の考えなどを語ってくれた。

夢を捨てきれないまま仕事をしてきた主人公「相手によって見せる顔が違うところが演じていておもしろかった」

――最初に脚本を読んだときの感想を教えていただけますか?

【森田剛】お話をいただいた当初の脚本は、タイトル含めて完成版とは違っていて、そこからどんどん変化していったのですが、最終的にはキャラクターそれぞれが悩みを抱えて生きていて、誰もが共感できる物語になったなと。切なさもユーモアも盛り込まれた、二人の監督のセンスが光る珍しい作品だと思いました。

――巨匠マンガ家のアシスタントを長く勤め、人気声優の妻と別居して娘と暮らす42歳の主人公・土屋輝一という役柄を、森田さんはどんな人物だと捉えられたのでしょうか?

【森田剛】ちょっと面倒くさいところもありますが、愛を持っていて、“ちゃんと傷付く”という繊細さもあって、すごく愛おしいキャラクターというか…人間臭くて魅力的な役だと感じました。

【写真】巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一(森田剛さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
【写真】巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一(森田剛さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

――“愛おしい”と感じた部分はどんなところでしたか?

【森田剛】本作は森本晶一さんと佐藤快磨さんのお二人が監督を務めているのですが、脚本を担当した森本さんがとってもチャーミングな方で、そこがすごく土屋と重なるんです。森本さんの人柄がそのまま反映されたキャラクターだからこそ、土屋を“愛おしい”と感じたんだと思います。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――そんな土屋を演じてみていかがでしたか?

【森田剛】相手によって見せる顔が違うところがおもしろかったです。特に家族とのシーンは、言いたいことがたくさんあるはずなのに、ついつい押し殺してしまう。そこにすごく優しさを感じたのですが、観る人によっては“なんて焦れったい奴なんだ!”と思うかもしれませんね。

優しい一面を覗かせることもあれば、拗らせ感情を前面に出して周りを変な空気にしたり(笑)。そんな土屋を演じるのは、とても新鮮で楽しかったです。

――先ほど土屋について“面倒くさい”“人間臭い”と仰っていましたが、確かに“夢を叶えた人”に対する嫉妬心から、面倒臭い部分を見せて周りをドン引きさせた場面もありました。一方で、早瀬憩さん演じる娘・ひかりちゃんには父親らしい態度で接していますよね。

【森田剛】土屋は娘に対して“嫌われたくない”と思っている部分ももちろんあるのですが、うそはないというか、本音で向き合っていると感じました。だから娘と一緒にいるときは、土屋の本心が見えるシーンになっていると思います。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

土屋がアシスタントとして働く職場「学生時代の青春っぽさや懐かしさが感じられて、“なんか、いいな”と思ったんですよね」

――監督がお二人いる珍しい現場だったかと思いますが、印象に残ったことを教えていただけますか?

【森田剛】通常の現場だと監督と1対1の対話をしますが、本作では監督お二人と三人で相談することが多かったので、単純にアイデアが2倍になるというか、選択肢が広がった感覚があってすごくよかったです。

――常にお二人とも現場にいらっしゃったのでしょうか?

【森田剛】現場では森本監督と佐藤監督それぞれがお一人で演出をされることもありましたし、二人一緒に演出されることもありました。

――森本監督と佐藤監督は映像制作集団「分福」の先輩後輩という関係性だそうですが、それぞれ違った演出をされることも?

【森田剛】そうですね。お二人が違う視点で物事を見ているのがわかるというか、意見がぶつかるからこそおもしろくなるんだなと感じる瞬間はたくさんありました。僕はお二人と個人的な話をするというよりは、役や作品をとおしてしか会話をしていないのですが、柔らかい空気を纏っていて接しやすかったですし、やりたいことがそれぞれ明確にあるのが伝わってきました。

お二人とも“芯”がしっかりしているので、その分本作への熱意や力強さみたいなものを感じて、いい影響を受けながらお芝居していたように思います。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――土屋の職場である吉住プロは古いマンションの何もなかった部屋に吉住プロのセットを創り上げたそうですが、美術や小物などでお芝居にプラスの影響を与えたものがあれば教えていただけますか?

【森田剛】仕事机に置かれていたガムとティッシュはお芝居で結構使いましたね。ティッシュでペンを拭うとか、“土屋ならこれを使ってこんな動きをするかな?”とあれこれ想像しながら演じるのはおもしろかったです。吉住プロだけじゃなく、土屋の住むマンションの部屋も丁寧に作り込まれていて、本当に素晴らしかったです。

(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

――吉住プロで土屋がほかのアシスタントの方々とコミュニケーションを取っているシーンは、和気藹々としていて和みました。

【森田剛】恋バナをしたり、職場恋愛っぽい雰囲気もあったりしましたよね。でも土屋としては…ちょっと居心地が悪かったというか(笑)。

――恋バナとか興味なさそうですもんね(笑)。

【森田剛】はい(笑)。吉住プロでの撮影で印象に残っているのが、出前で頼んだ料理が届いたシーン。入り口近くにいた川上友里さん演じる山田ぽてとが「麻婆丼です!」ってほかのアシスタントに渡して、そこからバケツリレー方式で次々と料理を運んでいくっていう無駄なやり取りをしていて(笑)。

でも、そういうのって学生時代の青春っぽさや懐かしさが感じられて、“なんか、いいな”と思ったんですよね。すごく楽しい撮影でした。

――巨匠マンガ家・吉住はるをを演じた武田鉄矢さんとの撮影はいかがでしたか?

【森田剛】武田さんとのお芝居は勉強になりましたし、楽しかったです。土屋はほかのアシスタントよりも先生との付き合いが長いぶん特別な思いがあって、オフィスの中にある先生の部屋に入ることの重みをいまだに感じているんです。それなのに、森川葵さん演じる編集者の潮田は、軽い感じで先生の部屋に入っていくので、土屋は“なんだあいつ?”と思っていたんじゃないかなって。

武田さんが部屋にいないときも、(部屋の)前を通るだけでちょっとした緊張感がありました。それは武田さんが先生を演じてらっしゃったからこそというか、存在感がすごくありましたね。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

迷える大人たちの物語「それぞれ何かを抱えながら力強く生きていて、それを丁寧に描いているところが素晴らしい」

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――土屋がぽてととコンビを組んでマンガを描くことになり、潮田と一緒に取材に出かけるシーンは、本作の見どころの一つになっていると感じました。

【森田剛】取材のシーンの撮影で特に印象に残っているのは、見晴らしのいい場所で三人がソフトクリームを食べるところ。台風みたいに風が強い日に撮影したのを覚えています。このシーンもそうだし、先ほどお話ししたオフィスに出前が届くところとかも、なんかかわいいですよね。そういうホッコリさせるシーンがたくさんあるのも本作の見どころなのかなと思います。

――打ち合わせをしている最中に潮田と言い合いになり、土屋が「俺らはね、マンガが好きで、好きで好きで好きで人生賭けちゃってんのよ!」と言い放つシーンが印象的でした。このシーンの撮影エピソードをお聞かせいただけますか?

【森田剛】割と長いシーンだったので、土屋のスイッチが入るタイミングをリハーサルで細かく調整していました。撮影で覚えているのは、“そんなに怒る?”と思うほど潮田がマジギレしたこと(笑)。あと、ぽてとに関しても、“え?潮田の味方するんだ!?”と思ったり。お二人ともこちらの想定していたお芝居を超えてくることがあって、それがおもしろかったです。

土屋(森田剛さん)の漫画をチェックする編集者の潮田(森川葵さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
土屋(森田剛さん)の漫画をチェックする編集者の潮田(森川葵さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

――このシーンの土屋のセリフに関してはどんなことを感じましたか?

【森田剛】「人生賭けてる」とか「俺は何かいいアイデアがないかいつも探してる」って自信満々に言いますが、意外とそこまで考えてないんじゃないか、とも思いました。もしも本気で考えていたならとっくにマンガ家デビューしているはずですしね。そもそも彼はそういう星の元に生まれてないのかもしれない。そんなことを想像させるところが彼の魅力でもあり、おもしろさだなと感じました。

――ちなみに土屋と似ているなと感じる部分はありましたか?

【森田剛】似ているというか、共感できる部分はありました。たとえば、“将来が不安だな”とか“周りの人から嫌われてないかな?”とか“本当にやりたいことってなんなのか?”とかって誰しもが思うことで、土屋もそういった悩みを抱えている。そういう部分は同じだなと思いながら演じていましたね。

土屋以外の登場人物たちも、それぞれ何かを抱えながら力強く生きていて、それを丁寧に描いているところが素晴らしいなと感じました。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子

――劇中で、阿部寛さん演じる編集部・部長の馬場が潮田に「お前は何がやりたいの?」と尋ねるシーンがありましたが、もしもやりたいことがあっても、恥ずかしくて人前では言えなかったり、簡単には言語化できないようなフワッとした夢ってあるよなと思いました。

【森田剛】僕も昔「何がやりたいの?」と聞かれたことがあって、何も言えなかったのを今思い出しました。あと、「どんな作品が好き?」とか「どんな監督と仕事してみたい?」と聞かれたときに、ちゃんと答えた方がスムーズに話が進むのはわかっているんだけど…なんか苦手なんですよね、すぐに出てこない。というか、むしろ即答する方が胡散臭くないか?と思ったりします。

編集部・部長の馬場(阿部寛さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
編集部・部長の馬場(阿部寛さん) (C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

――即答されると軽い気持ちなのかなと思ってしまいますよね。

【森田剛】軽く聞こえるのもあるけれど、やりたいこと、好きなことは“これ”ですと言い切れないところがあるんです。それは子どものころからで、僕がサッカー好きなことを知って「好きなサッカー選手は誰なの?」と聞いてきた人に対して、幼いころの自分はうまく答えられなかった。なぜかというと、昔のマラドーナ選手は好きだけど、最近はそこまでだよなぁと思ってモヤモヤしたから(笑)。そういうことってありませんか?

――好きな映画監督を聞かれて、“全部の作品が好きなわけじゃないしなぁ”と回答に悩むことがあります。でも結局モヤモヤに蓋をして「○○監督が好きです」と答えてしまうので、自分の気持ちを誤魔化さない森田さんは、すごく誠実に人と向き合っていると思います。

【森田剛】自分もそうですが、土屋や潮田も確実に“やりたいこと”“好きなこと”を持っているんですよね。好みや情熱を燃やせるものを自分自身で把握することって、ものすごく大事なような気がしていて。それを見失わないようにして生きていればいいのかなと、本作をとおして気づきました。

撮影=小嶋淑子
撮影=小嶋淑子
(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会
(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

取材・文=奥村百恵

◆スタイリスト:SO MATSUKAWA

◆ヘアメイク:AMANO

衣装=ヴィンテージのパンツ(1万7千800円)/KIT VINTAGE、そのほかスタイリスト私物

(C)2026 「見上げてごらん」製作委員会

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