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「親に会う日、あの服着てきて」彼が指定したのは一番着たくない服→玄関で彼の母が小さく声を上げた

  • 2026.10.24
ハウコレ

お茶と羊羹を出したあとも、彼の母の視線は何度も私の服へ戻ってきました。帰り際にかけられた一言を褒め言葉と受け取っていいのか、私はまだ決めかねています。

クローゼットの奥から、からし色のワンピースを引っぱり出しました。肩のふくらんだ袖も、裾の広がりも、鏡に映すとやはり子どもっぽく見えます。この服を選んだのは、私ではなく彼でした。

「あれがいいんだ」と譲らなかった彼

付き合って3年になる彼と結婚の話が進み、彼の両親へ挨拶に行くことになりました。その日のために、紺のセットアップを買ったばかりです。私の部屋のソファでカレンダーに印をつけていた彼が、顔を上げずに言いました。

「親に会う日、あの服着てきて」

浮かんだのは、初めての旅行で着たからし色のワンピースでした。旅先の雑貨屋で勢いで買ったものの、帰ってから友人に「発表会みたい」と笑われ、それきり袖を通していません。手持ちの服の中で、一番着たくない1着でした。

「あれ、子どもっぽいでしょ。紺のセットアップにしようと思ってたんだけど」

「あれがいいんだ。頼む」

理由を聞いても、彼はカレンダーを見たまま首を振るだけ。紺のセットアップは、タグをつけたまま紙袋に戻しました。

玄関で聞こえた小さな声

当日は、からし色のワンピースに白いカーディガンを重ねて、彼の実家の門をくぐりました。インターホンを押すと、少ししてドアが開きます。出てきた彼の母は、私の顔より先に服へ目をやりました。

「あら、黄色」

小さな声でした。彼の母はそれから彼のほうをちらりと見て、どうぞと中へ招き入れてくれました。

派手すぎたのだと思いました。挨拶の場に黄色を着てくる人だと、最初の数秒で決まってしまった気がします。脱いだパンプスを、2回揃え直しました。

何度も袖へ下りてくる視線

居間では彼の父が迎えてくれ、話はおもに父と彼が進めました。彼の母はお茶と羊羹を出したあと、湯のみを両手で包んだまま、ほとんど話しません。ときどき目が合うと、その視線は私の顔から袖のあたりへ下りていきました。

紺を着てくればよかった。膝の上で重ねた手の下で、ワンピースの布をつまんでは離していました。彼は隣で父と仕事の話を続けていて、こちらを見ません。頼んだのはあなたなのに、という言葉を、羊羹と一緒に飲み込みました。

そして...

帰り際、玄関で靴を履いていると、彼の母が一歩前に出ました。

「その服、また着てきてね」

さっきより少しだけ大きな声でした。「はい」と頭を下げたものの、本当に気に入ってくれたのか、気を遣ってそう言ってくれただけなのか、判断がつきません。駅で彼と別れる時も、理由を聞き直すことはしませんでした。

家に帰り、ワンピースをクローゼットの一番手前に掛けました。奥に戻さなかった理由は、自分でもまだ説明できません。あの日、玄関で彼の母が見ていたのは、服の色だったのでしょうか。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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