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妻に財布を片付けろと言われた俺が、娘の似顔絵の切れ端だけは捨てられなかった理由

  • 2026.10.23
ハウコレ

レシートを抜いていた妻の指が、カード入れの奥に届きました。あの紙を財布に入れた日のことは妻に言えず、娘にも謝れないまま、財布だけがふくらんでいきました。

ごみ箱の底で、画用紙の切れ端が丸まっていました。拾い上げて広げると、クレヨンの肌色が指先に少しだけ移りました。その切れ端を入れて以来、財布を開いて整理しようとするたび、途中でやめてしまうようになりました。

床に広がったクレヨン

妻とは結婚して8年、6歳の娘がいます。娘がまだ5歳だった頃、妻が美容院に出かけ、娘と2人で留守番をしていた日のことです。

リビングの床いっぱいにクレヨンと画用紙が広がっていて、俺は仕事の電話を受けながら、2回、片付けるように言いました。3回目で、自分でも思っていなかった大きな声が出ました。

「いいかげんにしなさい」

娘は泣きながら描きかけの紙をつかみ、びりびりに破ってごみ箱に入れました。「パパの絵だったのに」と言い残して、子ども部屋へ走っていきました。

あとで拾い集めた紙は、ほとんどが細かくちぎれていて、形が残っていたのは顔の部分だけ。メガネと笑った口、その下に「ぱぱ」の字がありました。残りは捨て、その切れ端だけを財布のカード入れの奥にしまいました。

整理できなくなった財布

翌日、娘はけろっとした顔で「パパ、おはよう」と言ってきました。謝るきっかけを逃したまま日が過ぎ、妻にも、娘を泣かせたことを言えずにいました。大声を出した父親だと思われるのが怖かったのです。

財布を整理しようとするたび、カード入れの奥の切れ端が目に入りました。見るたびに、泣きながら紙を破った娘の姿を思い出します。その先まで整理する気になれず、新しいレシートを上から押し込むことを繰り返しました。二つ折りの財布は、いつの間にか閉じなくなっていました。

スーパーのレジでは、床に落ちたレシートを拾って渡してくれた妻に、小声で言われました。

「財布、パンパンだよ」

「あとでやるから」

小銭を数えるふりをして、妻の顔は見ませんでした。

妻の手の中で開かれた紙

娘を寝かしつけた妻が、リビングに戻ってきました。俺はソファでスマホを見ていて、財布はテーブルの端に置いたままでした。

「財布くらい片付けてよ。だらしないよ」

妻は返事を待たずに財布を手に取り、レシートを次々に引き抜いていきました。

「いいよ、自分でやるって」

立ち上がったときには、妻の指がカード入れの奥に届いていました。折りたたんだ紙が、妻の手の中で開かれていきました。

「これ、何?」

妻の手から、そっとその紙を取りました。

「それだけは、捨てないで」

説明すれば、あの日のことを話すことになります。紙を折りたたんでカード入れに戻し、財布だけを持って寝室へ逃げました。

そして...

次の休日までに、レシートはすべて捨てました。カード入れの奥には、あの切れ端だけを残しています。

その休日、スーパーから帰ったあと、娘に「パパの顔、また描いてくれる?」と聞きました。娘は「いいよ。メガネも描くね」と言って、クレヨンの箱を持ってきました。あの日のことは、覚えていないようでした。

新しい似顔絵は、冷蔵庫に貼ってあります。妻はあれから、切れ端のことを何も聞いてきません。俺も、まだ話せずにいます。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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