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彼女との通話に女性の声が入った瞬間、俺の口から出たのはいつもの言い訳でした

  • 2026.10.22
ハウコレ

言い直すなら今だと分かっていました。それでも、一度口にした言葉を引っ込められないまま、俺は送信欄にもう1つの言い訳を打ち込みました。

玄関のチャイムが鳴ったのは、彼女との通話を始める少し前でした。ドアの前に立っていたのは、大きな紙袋を2つ提げた姉です。その姿を見た時点で、ただ遊びに来たのではないと分かりました。

紙袋を2つ提げてきた姉

姉は2つ上で、結婚して隣の市で暮らしています。義兄とけんかになり、しばらく泊めてほしいと言いました。

「あの人には、自分から連絡するから」

姉が浴室に入ってすぐ、いつものように彼女から着信がありました。週末のもみじ狩りの待ち合わせ場所を決めかけたところで、浴室のドアが開く音がしました。

「ねえ、タオルどこ?」

口のほうが覚えていた言葉

「テレビだよ」

考えるより先に、そう言っていました。

以前は、彼女と通話している最中に、大学の友達が部屋に集まっていることがよくありました。女友達の笑い声が入るたびに、説明が面倒で「テレビ」で済ませていたのです。そういう集まりはもうなくなりましたが、口が無意識に動いていました。

次の瞬間、通話は切れていました。かけ直しても、呼び出し音が続くだけです。

相手は姉です。最初から言えば済む話でした。けれど、テレビと言ったあとで姉だと言い直しても、かえって作り話に聞こえる気がしました。

「急に切れたけど大丈夫?」

しばらくして返事が届きました。

「テレビって、何の番組?」

番組名までは浮かばず、ドラマとだけ打って、言い訳を1つ足しました。

「ドラマ。音量上げたままだった、ごめん」

「そっか」

短い返事を見て、これで済んだと思ってしまいました。

スタンプばかりの返事

それから数日、天気の話や紅葉の見頃の話を送っても、返ってくるのはスタンプか短い相づちばかりでした。済んでいなかったのだと、そこでようやく気づきました。

洗面所の棚に増えた姉の化粧ポーチを見るたびに、送ったドラマの文面が頭に浮かびました。

もみじ狩りの前日、姉は自分から義兄に連絡して、家へ帰っていきました。話せない理由は、もう残っていませんでした。

「紅葉の日、ちょっと話したいことある」

「わかった」

そして...

当日は駅で待ち合わせ、山道を歩いた先のもみじの下のベンチで、頭を下げて姉のことを話しました。彼女が姉夫婦と仲がいいこと、義兄に伝わったら困ると思ったこと、姉のタイミングで言わせてあげたかったこと。どれも嘘ではありません。

「最初から、そう言ってくれたらよかったのに」

彼女の言うとおりでした。手のひらに乗せられたもみじは、持ち帰って手帳に挟んであります。

ただ、あのとき「テレビ」がなぜあんなに早く口から出たのか。その理由は、まだ話せていません。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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