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娘の新居の地図ばかり見ていた私が、あの電話で話しそびれたこと

  • 2026.10.20
ハウコレ

「母さん、カーテンのフックってどこ?」息子の声で、娘との電話を切ってしまいました。娘にだけくり返してきた言葉には、娘の知らない始まりがありました。

スマホの地図に娘の新しい住所を打ち込むのは、もう何度目か分かりませんでした。駅から部屋までの道も、近くのスーパーの場所も、見なくても思い浮かぶほど。それなのに、娘本人にはそのことを一度も話していませんでした。

私が娘にだけ使ってきた言葉

春から、娘は転勤で県外へ、息子は大学進学で一人暮らしを始めることになりました。荷造りの手伝いは、自然と息子のほうに偏りました。鍵や財布をよくなくす子で、放っておけなかったのです。

台所で息子の段ボールに中身を書き込んでいたとき、娘に声をかけられました。

「私も来週引っ越しなんだけど」

「あんたは心配いらない」

ペンを動かしたまま返したこの言葉を、娘が小さい頃から使ってきました。時間割も願書も一人で揃え、困ったことは片付けてから報告してくる子。その姿を見るたびに、同じ言葉をかけてきたのです。

私の母に言われ続けた「見てられない」

私自身は、母から「あんたは見てられない」と言われて育ちました。宿題は横から直され、進学先もアルバイト先も、決める前に母の意見が入りました。心配されるたび、信用されていないのだと感じていたものです。

娘が生まれたとき、同じことはしないと決めました。信じていると伝えるつもりで口出しをこらえ、代わりにあの言葉を選んできました。

引っ越し当日は、息子の部屋にいました。家族のグループチャットには、カーテンを測る息子や炊飯器を抱える息子の写真を送りました。娘からの「着いたよ」には、「よかった」と返しただけでした。

電話口で言いかけたこと

息子が段ボールを開けている横で、娘から電話がかかってきました。

「私のこと、どうでもいいと思ってる?」

真っ先に浮かんだのは、自分の母の顔でした。この子にも、私と同じ思いをさせていたのかもしれない。

「そんなわけないでしょ。お母さんね、」

母に言われ続けたことから話そうとした、そのときでした。

「母さん、カーテンのフックってどこ?」

息子の声に振り向いて、口が先に動いていました。

「ごめん、またかけるね」

かけ直すつもりでした。けれど何から話せばいいのか決められないまま、その日は過ぎていきました。電話で母の話をすれば、言い訳に聞こえる気がしたのです。

3日後にようやく送れたのは、「元気にしてる?」だけ。返ってきたのは「元気だよ」。いつもどおりの、手のかからない娘の返事でした。

そして...

引っ越しからひと月が過ぎました。息子からは相変わらず忘れ物の相談が届き、娘からは何も届いていませんでした。地図アプリで娘の部屋のあたりを開いては、送る言葉も浮かばずに閉じる日が続きました。

信頼のつもりで言い続けた言葉は、娘には別の意味で届いていたのでしょう。母と違うことをしてきたつもりで、娘の話を聞く機会まで減らしていたのかもしれません。

「今度帰ってきたら、おばあちゃんの話を聞いてほしい」

そう打ち込んで、送信しました。返事は、まだありません。

(50代女性・パート)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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