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弟の荷造りに追われる実家の台所で、母はまた私に「あんたは心配いらない」と言った

  • 2026.10.21
ハウコレ

「私のこと、どうでもいいと思ってる?」荷ほどきの途中で、母に電話をかけてそう聞きました。そこまで言わせたのは、子どもの頃から何度も聞かされてきた、母の同じ一言でした。

油性ペンのキャップを外す音が、実家の台所で何度も響いていました。母は弟の段ボールに、中身を1つずつ書き込んでいました。同じ春に家を出る私の荷物には、まだ誰も触れていませんでした。

弟の段ボールと、私への同じ返事

弟は大学進学で、私は転勤で、同じ春に一人暮らしを始めることになっていました。母はパートの休みをすべて弟の準備にあて、調味料やタオルを小分けにしては箱に詰めていきました。

「私も来週引っ越しなんだけど」

声をかけると、母はペンを動かしたまま答えました。

「あんたは心配いらない」

聞き慣れた言葉でした。高校の合格発表の日も、就職が決まったときも、母の返事はいつもこれ。弟が自転車の鍵をなくせば一緒に探し回り、提出物を忘れれば学校まで届けに行く母を、私は少し離れた場所から見てきました。

褒め言葉だと受け取ろうとした時期もありました。けれど28歳になっても、この言葉を聞くたびに、私の話はそこで終わりにされてきた気がしていました。

新しい部屋で鳴らした呼び出し音

引っ越し当日、母は弟と一緒に電車で弟の新居へ向かいました。私の部屋に来たのは、引っ越し業者の2人だけでした。

積み上がった段ボールの間に座り、母に「着いたよ」と送りました。届いた返事は「よかった」だけ。家族のグループチャットには、母が弟の様子を写真付きで流していました。カーテンを測る弟、炊飯器を抱える弟。その画面を何度も上に戻しては、また下まで眺めていました。

剥がしかけのガムテープをそのままにして、通話のボタンを押しました。聞くなら今しかない気がしたのです。

呼び出し音が4回鳴ったあと、ふっと途切れました。

電話の向こうで途切れた母の声

「もしもし」という母の声の後ろで、知らない部屋の物音がしていました。

「私のこと、どうでもいいと思ってる?」

前置きも何もない、そのままの問いでした。電話の向こうで、少しの間、何の音もしなくなりました。

「そんなわけないでしょ。お母さんね、」

そこまで言ったところで、弟の声が割り込みました。

「母さん、カーテンのフックってどこ?」

「ごめん、またかけるね」

通話は、それで切れました。

画面を伏せて、ガムテープの残りを最後まで剥がしました。中から出てきたのは、自分で詰めた食器ばかり。否定の言葉よりも、迷わず弟のほうへ向かった声のほうが、耳に残っていました。その日、母からの着信はありませんでした。

そして...

3日後、母から「元気にしてる?」とだけ届きました。「元気だよ」と返して、やりとりはそれきりでした。

引っ越しから半月が経ち、段ボールはすべて畳み終えました。仕事帰りに寄るスーパーの場所も覚え、困ることは特にありませんでした。母の言うとおり、私は心配いらない娘なのでしょう。

それでも、あの電話のことはふとした拍子に思い出しました。私にだけ同じ言葉をくり返してきたのは、なぜなのか。「お母さんね、」のあとに、母は何を言うつもりだったのでしょうか。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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