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ウイルスの中に「人の脳の遺伝子」のDNAを発見

  • 2026.10.12
ウイルスの中に「人の脳の遺伝子」のDNAを発見
ウイルスの中に「人の脳の遺伝子」のDNAを発見 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

旅行から帰ってスーツケースを開けたら、見覚えのない靴下が一足まぎれ込んでいた、という経験がある人もいるでしょう。

私たちの遺伝子は体の設計図として、DNAの決まった場所におとなしく収まっているものだと思われがちです。

ところが、ヒトに感染するあるウイルスの遺伝情報の中から、本来そこにあるはずのない「人間の遺伝子」のDNAが見つかりました。

しかもそれは、私たちの脳の中で働いている遺伝子だったのです。

いったいなぜ、脳の遺伝子がウイルスの中に紛れ込んでいたのでしょうか。

研究チームは、この遺伝子がたどってきた長い旅の足跡を追いかけました。

研究の詳細は、2026年9月24日付で学術誌『Science』に掲載されました。

目次

  • DNAの中には「動くDNA」がある
  • 脳の遺伝子はどうやってウイルスに飛び移ったのか?

DNAの中には「動くDNA」がある

DNAの中には「動くDNA」がある
DNAの中には「動くDNA」がある / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

実は、生き物のDNAの中には、自分の居場所を変えられる「動くDNA」が存在します。

これは「転移因子」と呼ばれ、同じゲノムの中で場所を移ったり、ときには別のゲノムへ乗り移ったりします。

その中には、宿主のゲノムから、そこに感染したウイルスのゲノムへ乗り移るケースも含まれます。

今回、研究チームが注目したのは、伝染性軟属腫ウイルス(いわゆる「水いぼ」のウイルス)です。ヒトに感染するポックスウイルス(天然痘ウイルスなどと同じ仲間)の一種です。

このウイルスの遺伝情報の中に、人間が持つ「BC200」という遺伝子のDNAが、2か所も入り込んでいたのです。

BC200は、タンパク質の設計図ではなく、RNAとして働くタイプの遺伝子です。

そして約4000万年前に、脳の神経細胞の中でタンパク質づくり(翻訳)を調節する役目を担うようになったとされています。

いわば、はるか昔に脳の中で「定職」に就いた遺伝子です。

そんな落ち着いた暮らしをしているはずの遺伝子が、どうして脳から遠く離れたウイルスの中にいたのか、それが今回の大きな謎です。

脳の遺伝子はどうやってウイルスに飛び移ったのか?

脳の遺伝子はどうやってウイルスに飛び移ったのか?
脳の遺伝子はどうやってウイルスに飛び移ったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームがBC200の来歴を詳しく調べたところ、意外な素顔が見えてきました。

BC200は、脳で働く役目を得てからも、ゲノムの中を動き回る力を失っていなかったのです。

その動き方は「レトロ転移」と呼ばれるもので、遺伝子のRNAがDNAに書き戻され、そのコピーがゲノムの別の場所に入り込むしくみです。

このコピー&ペーストを手助けしているのが、「LINE-1(L1)」と呼ばれる別の動くDNAです。

研究チームによると、BC200は、サルや類人猿、そしてヒトを含む「真猿類」が進化してきた歴史を通して、L1による転移の「親玉」のようなコピー元として働いてきました。

しかもその転移は、子孫へと受け継がれる生殖細胞の系列で起きていました。

その結果、系統ごとに固有の挿入が、数百か所も生み出されていたのです。

つまりBC200は、脳で働きながら、同時にゲノムのあちこちへ自分のコピーを送り込み続けてきた、二つの顔を持つ遺伝子だったわけです。

そしてこの動きは、遠い昔だけの話ではありません。

現代の人々のDNAを見ても、BC200のコピーが入っている場所が人によって違うケースが見つかっています。

中にはたった1人だけが持つ挿入もあり、BC200が今も動き続けていることをうかがわせます。

ウイルスの中に見つかった2つのコピーも、現生人類の歴史の中で、L1の働きによって入り込んだとみられています。

人のゲノムの中を跳び回ってきたBC200が、ついにはヒトに感染するウイルスにまで「脱出」していたというわけです。

研究チームは、BC200が「安定した役目を持つ遺伝子」と「動き回る転移因子」の境目をあいまいにする存在だとまとめています。

脳の神経細胞でタンパク質づくりを調節する役目を得た遺伝子は、それから約4000万年ものあいだ荷造りをやめなかった旅人で、その荷物のひとつは水いぼのウイルスの中にまで届いていたのです。

親から受け継いだDNAは、固く閉じた設計図というより、今も少しずつ書き足されていく旅の記録なのかもしれません。

旅好きな遺伝子を抱えている割に、私たちの休日がたいてい家のソファで終わるのは、少し不思議な話です。

参考文献

Escape of the BC200 gene to a human poxvirus reveals its persistent transposition in primates (Science)
https://doi.org/10.1126/science.aeh3441

元論文

Escape of the BC200 gene to a human poxvirus reveals its persistent transposition in primates
https://doi.org/10.1126/science.aeh3441

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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