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娘を追いかけて駅へ向かった母→塩豆大福を手に、改札の向こうの背中を呼び止められなかった

  • 2026.10.11
ハウコレ

あの時、本当に言いたかったのは別の言葉でした。けれど玄関でスーツケースを引く娘の背中に、言い直すきっかけを見つけられないままでした。

娘が断っていた誘い

取り込んだ洗濯物を抱えて、2階の廊下を歩いていた時のことです。半分開いたドアの向こうで、帰省中の娘が誰かと電話をしていました。

「ごめん、その週末は実家に帰るんだ」

相手は大学時代の友人のようでした。話の流れから、何かの誘いを私のために断ったのだと分かりました。

夫が単身赴任になってから、娘は毎月欠かさず帰ってきます。片道3時間、交通費も安くはないはずです。それでも、私が1人だと心配だからと言って帰ってくる。あの子の週末を私が埋めてしまっているのではないか。前から引っかかっていたことが、あの電話ではっきり形になりました。

途中で抜け落ちた言葉

帰り支度を終えた娘と、最後に食卓を囲みました。

「来月も同じ週末に帰ってくるね」

あの電話が頭をよぎり、箸を置きました。

「毎月じゃなくていいよ」

「なんで?お母さん1人だと大変でしょ」

「大変じゃないから言ってるの」

本当は、電話のことを話すつもりでした。けれど、廊下で聞いていたと打ち明ければ、娘は責められたように感じるかもしれない。迷っているうちに、言葉ばかりが硬くなっていきます。

「せっかく帰ってきてるのに、その言い方はないんじゃない?」

娘の顔を見られないまま、口を開きました。私のために、無理して帰ってこなくていい。そう言うつもりだったのです。

「もう帰ってこなくていい」

出てきたのは、いちばん大事なところが抜け落ちた言葉でした。

「分かった。もう帰らない」

売店の棚の前で

玄関のドアが閉まってからも、食卓の片付けは手につきませんでした。気づけば椅子にかけていた緑のカーディガンを羽織り、車の鍵をつかんでいました。

駅に着いても、待合室をのぞく勇気は出ません。何と言えばいいのか。帰ってこなくていいと言った口で、また来てねとは言えない気がしたのです。

駅の売店で塩豆大福を買い、振り返ると、改札の向こうに、スーツケースを持って階段を上っていく娘の背中が見えました。今なら呼び止められる距離です。それでも、拒まれるのが怖くて口を開くのが遅れました。名前を呼ぶ前に、娘の姿は階段の上へ消えていきました。

そして...

家に戻り、娘とのチャットを開き、何度も打ち直した文を送りました。

「さっきは言い方が悪かった。無理して帰ってこなくていいって言いたかったの」

送信してから、しばらく画面を眺めていました。既読は、まだつかないままでした。

(50代女性・パート)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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