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SUPERCAR中村弘二を直撃!劇場アニメ『どこよりも遠い場所にいる君へ』劇伴制作で悩んで導き出した答え「“聖域”を教会の鐘やベルを連想する音で表現」

  • 2026.10.10

ロックバンド、SUPERCARとして革新的な楽曲を生みだし、バンド解散後もNYANTORA、iLL、LAMA、MUGAMICHILLなど様々なプロジェクトで日本の音楽シーンを牽引し続ける“ナカコー”こと中村弘二。YouTubeでのライブ配信、自作音源のストリーミング公開など実験的なアプローチでも音楽を追求してきた彼が、『どこよりも遠い場所にいる君へ』(公開中)で初めて長編アニメーション映画の劇伴を手掛けている。

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原作は2025年に「カフネ」で第22回本屋大賞を受賞した、阿部暁子による青春小説。豊かな自然あふれる離島、采岐島(ときしま)を舞台に、1974年から現代にきたという少女、七緒(声:永瀬アンナ)と、心に傷を抱える高校生の和希(声:石橋陽彩)の出会いと交流、時を超えた絆が描かれる。ボーイ・ミーツ・ガールにファンタジックなSF要素も絡んだ本作の物語を、中村はどのように彩ろうとしたのか?言葉数自体は多くないものの、本人へのインタビューの端々から今回の劇伴制作が有意義なものであり、楽しんで取り組んでいたことが伝わってきた。

「こういう世界観や文化があるんだ、おもしろいな」

これまでテレビアニメ「エウレカセブンAO」やドラマ「潤一」などの音楽を手掛けてきた中村だが、長編アニメーション映画の劇伴を任されるのは今回が初となる。オファーを受けた当初の心境を、中村は「『楽しみだな』という気持ちでした」と振り返る。

「オファーをいただいた段階ではまだ台本もできていなかったので、まずは原作小説を読みました。ライト文芸というジャンルは身近なカルチャーではなかったのですが、『こういう世界観や文化があるんだな、おもしろいな』と。ただ、小説と映画の台本はまた別物なので、原作の空気感をなんとなく頭の隅に置きながら準備を進めていきました」。

阿部暁子による青春小説を劇場アニメ化した『どこよりも遠い場所にいる君へ』 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
阿部暁子による青春小説を劇場アニメ化した『どこよりも遠い場所にいる君へ』 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

「特別な手応えを求めるよりは、一音一音を映像に合わせていく」

本作は美しい自然の風景と、繊細な登場人物たちの心情変化が印象的。音楽的なギミックに頼るのではなく、主人公たちの感情や情景をそのまま表現することを意識したという。「画と台本が届くまでは、とにかくドラマに寄り添うストレートな音楽を作ろうと考えていました。その後、制作に入る段階で絵コンテやビデオコンテ(絵コンテによる動画)をいただいて。実際に映像も見て自然描写の美しさや豊かさが確認できたので、『これはいけるな』と確信しました」。

豊かな自然あふれる離島、采岐島 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
豊かな自然あふれる離島、采岐島 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

一方で、完成した映像のタイミングやカット割りに合わせて音楽を精密に作曲、制作する「フィルムスコアリング」も採用。この手法にあたって中村は、「映像そのものが楽譜のような存在だった」と説明する。

「特別な手応えを求めて作るというよりは、一音一音を映像に合わせていく感覚です。映像のカット割りやキャラクターの動作、表情の変化がそのまま楽曲の構成や動きになっていくような。画面のなかで起きているタイミングに合わせて音を置いていくので、即座の反応や構築の作業自体が非常にナチュラルでした」。

「クリエイターそれぞれの感性がそのまま入っている」

和田純一監督(「サクガン」「HIGH CARD」など)や音響監督のはたしょう二(「薬屋のひとりごと」「葬送のフリーレン」など)とのやり取りのなかで、本作の劇伴制作には明確なルールと方向性が提示されていた。その一つが“ピアノの封印”だった。

「作中でピアノという楽器が物語上の重要なキーとして使われるため、『劇伴側ではあえてピアノを使わないでほしい』というオーダーがありました。加えて、監督からは『見方によってはJホラーのような不気味さや怖さを感じるシチュエーションもあるけれど、ホラー寄りのトーンにはしたくない』という指示も受けていました。大きく意識したのはこの2点ですね」。

ピアノが物語の重要なキーとして登場する [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
ピアノが物語の重要なキーとして登場する [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

劇中では、ピアニストの小瀧俊治による演奏曲や、主題歌&劇中歌を手掛けるシンガーソングライター、とたによる楽曲も存在感を放つ。劇伴制作時にそれらの楽曲はまだ完成していなかったというが、中村はそれぞれの音楽が独立して存在することの美しさを感じている。

「僕が劇伴を作っている段階では、ピアノ曲や主題歌はまだ耳にしていませんでした。あとから作品として合わさったものを観た時、無理に連動させているというよりは、それぞれのクリエイターがこの作品のために書いた感性がそのまま入っていると感じました。いろいろな人の感性が混ざり合うのは、映画としてすごくよい形だと思います」。

「オーケストラや弦楽曲は生の音になった時にどう響くかというワクワク感がある」

作曲にあたり、音楽メニュー(演出意図の設計図)に沿って一つ一つのシーンに音を落とし込んでいった中村。30本以上の楽曲のなかで特に試行錯誤を重ねたのが、主要キャラクターの一人である高津(声:玉木宏)のアトリエで流れる楽曲だった。

「一番時間がかかり、どう表現すべきか悩み抜いたのが高津のアトリエのシーンです。彫刻家である彼が、複雑な想いを込めて作り上げた白い女性像に対してどういう感情を抱いているのか。それを音でどう表現するのかという部分ですね。僕はあのアトリエを、高津にとっての“聖域”であり“教会”のような祭壇的な空間だと捉えました。そのため、教会の鐘やベルを連想させるような音で構成して、“教会っぽさ”を意識して作っていきました。監督にもすんなり受け入れてもらえました」。

身元不明の七緒の保護を引き受けるぶっきらぼうだけど心優しい高津 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
身元不明の七緒の保護を引き受けるぶっきらぼうだけど心優しい高津 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

物語中盤、和希とヒロインの七緒が海岸沿いの道路を自転車で走り抜け、虹を見上げるエモーショナルなシーンが登場する。ストリングス(弦楽)を配した壮大なメロディが印象的で、本作のなかでも特に感動的なシーンになっている。

「作品にとっても重要なロングシーンで、『自転車で走る』『虹を見る』『2人が笑い合う』という3つのポイントがありました。オーケストラや弦楽曲の制作は普段の曲作りとは違って、実際に生の音になった時にどう響くかというワクワク感があっておもしろいんです。自分で書いたスコアを編曲の方にチェックしてもらい、フィードバックを受けながら調整して現地で収録する。オーケストラの制作は毎回、すごく楽しい刺激がありますね」。

和希と七緒が虹を眺めるシーンを劇伴もドラマチックに盛り上げる [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
和希と七緒が虹を眺めるシーンを劇伴もドラマチックに盛り上げる [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

「楽曲が自分の手から離れて勝手に広まってくれるのが一番いい」

中村のキャリアを振り返るうえで、映画『ピンポン』(02)での「YUMEGIWA LAST BOY」「Strobolights」や、テレビアニメ「交響詩篇エウレカセブン」の「STORYWRITER」といったSUPERCAR時代の楽曲群と映像作品との強力なシナジーは外せない。リリースから時を経てもなお、新しい世代へ届き続けている現状を本人はどのように捉えているのだろうか。

「う~ん…。『そうなんですね』という感じで(笑)。僕自身は特になにも思わないというか、あまり意識していないですね。作られた楽曲が自分の手から離れて、勝手に動いて広まっていってくれる分にはそれが一番いいと思っています。聴いた人が『いいな』と思ってくれたならそれで十分ですし、作ったらそこまでです」。

SNSや各種プラットフォームを通して自作の音源を公開するなど、インディペンデントで開かれた音のアウトプットを継続している中村。メジャーなパッケージ流通だけに留まらないこうした活動は、彼自身がたどってきた音楽環境のなかで育まれたところがあるようだ。

「僕の周りには昔から自由に活動しているミュージシャンが多くて、そういった先人たちの姿勢を見て育ってきたというのがあります。だから、ただ自然にやっているだけなんです。僕が自由に音を出すことで、あとから続く若い世代や周りの人たちが『あ、こんなに自由にやっていいんだ』と思ってくれたらうれしいですね」。

続けて、CD時代からサブスクリプション、SNSによるダイレクトな音源配布など、音楽環境が多様に進化した近年の状況についても質問。「音楽を作ることやリリースすることが、誰にとってもすごく身近で手軽になりましたよね。誰もが気軽に作曲して世に出せる時代になったと思います。僕自身、いろんな方とのコラボレーションをしますが、相手がどんな人であってもモノづくりに向き合う姿勢や個性がみんなおもしろいです。これからも、ただ純粋に『おもしろいな』と思いながら音楽を作り続けていきたいです」。

元SUPERCARの“ナカコー”こと中村弘二にインタビュー!
元SUPERCARの“ナカコー”こと中村弘二にインタビュー!

「身構えず、映像と音を自然体で楽しんでもらえたら」

最後に、映画館で『どこよりも遠い場所にいる君へ』を鑑賞する観客や長年のファンへのメッセージを求めると、中村はシンプルにこう締めくくった。「メッセージとかも特にないんですよね(笑)。『こういうふうに聴いてほしい』とか『ここはこう観てほしい』というような押し付けはしたくないです。劇場で映像と音に触れる時は、身構えずに自然体でそのまま楽しんでもらえたら、それが一番だと思います」。

中村弘二が手掛けた劇伴に注目! [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
中村弘二が手掛けた劇伴に注目! [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

取材・文/平尾嘉浩

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