1. トップ
  2. エピソード
  3. 「じいじの指、離さない」家族に送るはずの孫の写真を、社員40人ほどの全社グループに送ってしまった社長の私

「じいじの指、離さない」家族に送るはずの孫の写真を、社員40人ほどの全社グループに送ってしまった社長の私

  • 2026.10.3
ハウコレ

返信は3分間、1件もつきませんでした。画面に触れられないまま立っていた私の元へ届いたのは、1番新しい社員からの、感想だけを書いた1行でした。

送信のボタンを押した指の先で、画面の上に「全社連絡」の文字が出ていました。息子夫婦の家の玄関で靴を履きかけたまま、孫の写真がどこへ飛んだのかを、そこで初めて理解しました。送信を取り消す方法は、知りませんでした。

家族に送るはずの1枚

写真は、白いおくるみの孫が私の人差し指を握っているところを、片手で撮ったものです。添えた文は「じいじの指、離さない」の1行だけでした。送る相手は妻と息子夫婦の4人のチャットのはずが、指が触れたのは、その下に並んでいた会社のグループでした。社員は40人ほどです。会社のグループは、私が連絡事項を書き、社員が「承知しました」と並べる場所で、それ以外の文を見た記憶がありません。玄関で靴を履き直しながら、画面のどこを押せば消えるのかを探しました。見つかりませんでした。

増えていく既読の数字

消せないまま、写真の横の数字だけを見ていました。既読10、既読20、既読30。数字が動くたびに、誰かが会社の机で私の孫と、じいじという言葉を見ているのだろうという想像だけが先へ進んでいきます。返信は1件もつきませんでした。連絡事項なら1分と空かずに並ぶ「承知しました」が、その時だけ1つも来ないことの意味を、考えないわけにはいきません。社長の私物の写真に何を返せばいいのか、誰にもわからない。そう思わせたのは、私です。息子の家の玄関に、靴を履いたまま立っていました。写真の時刻から、3分が過ぎていました。

入社2か月の社員からの1行

そこへ、1件だけ返信がつきました。「社長、お孫さんに指を持っていかれてますね」。名前を見ると、入社2か月の事務の社員でした。会社の廊下で挨拶を交わした回数は、まだ数えられるほどです。その1行を読んでから、「送る先を間違えました。消し方がわからないので、このままにしておきます」と打ちました。そのあとは早く、課長のスタンプ、総務の「おめでとうございます」、と、いつもの連絡事項より長い列。打ち終えてからも、最初の1行を何度も読み返していました。誰も触れられなかった3分を、いちばん新しい社員が終わらせてくれた。そう受け取っていました。

そして...

あの写真は、今も会社のグループの連絡事項の間に、消さずに残っています。消し方は、その後も覚えていません。あの一行がなければ、会社に戻ってからも写真のことは誰にも言わずにいたと思います。社長の投稿には承知しましただけが並ぶ、その形を作ったのが自分だったことも、あの玄関で知りました。

(60代男性・経営者)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ