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結婚したいと先に思っていたのは俺なのに、彼女の親に会うのが怖かった→2日かけて気づいた怖さの正体

  • 2026.10.3
ハウコレ

結婚が嫌なわけではありません。それなのに返事を言い切れない理由を探し続けて、たどり着いたのは自分でも認めたくない答えでした。渡せる言い方は、ひとつしかありませんでした。

返信の下書きに『会うよ』とだけ打った文を、俺は2日間送れずにいました。

皿を重ねる背中から聞こえた「来月」

付き合って3年になる彼女の部屋で、2人分の夕食を食べ終えたところでした。彼女は皿を2枚重ねて立ち上がり、流しのほうを向いたまま言いました。

「来月、うちの親に会ってほしいの」

テーブルに残った箸を箸置きに戻し、俺はもう一度それを持ち直しました。嫌だったわけではありません。結婚をしたいと先に思っていたのは、俺のほうです。それなのに口から出たのは、用意していたはずのどの言葉でもありませんでした。

「ちょっと、考えさせて」

「うん。急がなくていいよ」

彼女は流しに向かったまま蛇口をひねりました。水の音が俺の返事の続きを待っているように聞こえて、その続きを俺は持っていませんでした。その日は上着を取るのがいつもより早くなり、玄関でかかとを踏んだまま外に出ました。駅までの道で、さっきの自分の声を思い出すたびに、もう一度言い直したくなりました。

怖いのは彼女の親ではなかった

翌日、彼女からメッセージが届きました。

「無理に返事しなくていいよ」

既読をつけたあとで、俺は画面を伏せました。返さないことが答えになってしまうのはわかっていて、それでも下書きの欄は白いままでした。仕事の合間に会社のトイレで下書きを開いては、閉じることを繰り返しました。開くたびに、『会うよ』の先に何を足せばいいのかがわからず、足せない理由のほうを見ないようにしていました。

帰りの電車で、何が怖いのか順番に考えてみました。彼女の親が厳しい人だという話は聞いたことがありません。挨拶の仕方も手土産の選び方も、調べれば済むことです。それなら残るのは、俺自身のことでした。そこから先を考えるのを、俺は1日目のあいだ避け続けていたのだと思います。

姉が婚約者を実家に連れてきた日、父は勤め先と転勤の有無を聞き、答える相手の笑い方は最後まで固いままでした。あのとき見ていた側にいた俺が、今度は座る側になる。勤めて5年で役職はなく、貯金は人に言える額ではない。その全部を「この人で大丈夫か」という目で見られる。そう想像したところで、初めて自分の姿が見えました。俺が怖かったのは彼女の親ではなく、その目に映る自分でした。彼女と一緒にいたい気持ちと、それにふさわしいと胸を張れない自分とが、同じ場所に並んでいることを、俺は2日かけてやっと認めました。

2日目の乗り換えの駅で、下書きの『会うよ』を消しました。会うと言えば彼女は安心するでしょう。でもそれでは、怖さを隠したまま先に進むことになります。逃げるような言い方をするくらいなら、格好悪いままの本音を渡そうと決めて、俺は家に帰る電車を見送り、彼女の部屋へ向かう路線のホームに立ちました。

「今から行ってもいい」

「いいよ」

靴を脱がないまま伝えた本音

チャイムを押すと、彼女がドアを開けました。俺は玄関のマットに立ったまま、靴を脱ぎませんでした。脱いでしまうと、言う前に部屋に上がって、いつもみたいにテレビの話に流れてしまう気がしたからです。ドアの縁に手をかけた彼女が、上がらない俺を見ています。用意した言い方は、口に出す直前まで何度か入れ替わって、結局いちばん飾りのないものが残りました。

「かっこ悪いけど、今の俺は君の親に会うのが怖い」

彼女はドアの縁を握ったまま、俺の顔から目をそらしませんでした。

「結婚、考えてないのかと思ってた」

「考えてないんじゃない。君の親に、この人なら大丈夫だって思ってもらえる自信がないんだ」

言ってしまうと、2日間抱えていたものが、口にすれば短く済む言葉だったことに気づきました。隠しているあいだは重かったのに、渡してしまえば、彼女がどう受け取るかを待つだけになりました。

「じゃあ、怖いまま来て」

ドアから手が離れて、彼女は一歩下がりました。俺はそこでやっと、靴を脱ぎました。

そして...

約束の日、俺は彼女と並んで、彼女の実家の玄関の前に立ちました。チャイムを押したのは彼女で、ドアを開けたのは、写真でしか見たことのない父親でした。

「どうぞ」

上がり口までの数歩が、彼女の部屋のマットの上より遠く感じました。怖さは消えていません。それでも今度は、隣に彼女がいるまま、かかとを踏まずに靴を揃えて脱ぐことができました。

居間へ通されると、彼女は俺の隣の席に座りました。向かいには父親がいます。テーブルに置かれた湯のみへ手を伸ばしても、口をつける余裕はありませんでした。

「仕事は忙しいのか」

最初に聞かれたのは、それでした。

「忙しい時期と、そうでない時期があります」

自分でも拍子抜けするほど普通の答えが口から出ました。父親は「そうか」とうなずきました。隣を見ると、彼女は何も言わずに湯のみを持っています。俺もようやく、自分の湯のみに口をつけました。怖さは消えていません。それでも、怖いままここに座って、聞かれたことに答えることはできました。

(20代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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