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「今の、行けたでしょ」と笑い続けた友人→山道で対向車が現れた途端、助手席が黙り込んだ

  • 2026.10.3
ハウコレ

先の見えないカーブで対向のワゴン車が現れ、私は待避所まで下がって道を譲ります。走り出したとき、来るはずだった言葉が来ませんでした。

交差点で止まった途端、助手席の友人がダッシュボードを軽く叩いて笑いました。まだ市街地を出てもいないのに、これで3度目です。展望台までの道のりは、私が思っていたよりずっと長くなりそうでした。

「ブレーキ早すぎない?」が10分続いた市街地

学生時代からの友人と展望台へ行くことになり、車を出すのは私に決まりました。友人は免許を持っていません。私は免許を取って5年、乗るのは実家に帰ったときくらいですが、交通ルールを守って走ることに自信がなかったわけではありません。

出発してすぐ、友人が言いました。

「ペーパードライバーなのに大丈夫?」

「大丈夫だよ。普通に走るだけだから」

そう返したのですが、そこからが長かった。信号が黄色に変わって止まれば「ブレーキ早すぎない?」、右折で対向車を1台やり過ごせば「今の、行けたでしょ」、住宅街で制限速度を守って走れば「遅っ」。1つひとつは冗談の口調でしたが、10分も続くと、笑い返す間隔が開いていきました。

運転していない人に言われたくない。何度もそう思いました。でも、口に出せば空気が悪くなる。久しぶりに会えた日にそれは嫌で、私は「はいはい」と流しながら、十分に車間距離をあけたまま走り続けました。信号待ちのたびに友人は窓の外を指して、隣の車線の車が先に出たと報告してきます。

対向車が現れたカーブで、私は迷わず下がった

市街地を抜けて、道のセンターラインが消えました。両側は杉の斜面で、カーブの手前には黄色い看板が並んでいます。私は看板のたびに速度を落とし、ハンドルを切る前に必ずミラーを見ました。

「そんなに減速する?」

「後ろ来たら迷惑じゃない?」

友人はまだ言っていました。後ろには誰もいません。私は返事をせず、次のカーブに集中しました。この道で速く走る理由が、私にはひとつも見つからなかったからです。ガードレールの向こうは谷で、下には川の音がしています。

杉の幹に隠れた先の見えないカーブを回りかけたとき、対向のワゴン車が現れました。道幅は明らかに2台分ありません。私はブレーキを踏み、バックミラーで後方を確かめてから言いました。

「ちょっと下がるね」

30メートルほど後ろに、砂利敷きの待避所があるのをさっき見ていました。私はそこまで慎重に下がり、ワゴン車を通しました。運転手が窓越しに手を上げて、ゆっくり通り過ぎていきます。

軽口を待避所に置いてきたような助手席

ギアを戻して走り出したとき、気づきました。友人が何も言わない。

「今のは下がらなくても行けたでしょ」と、来ると思っていた言葉が来ませんでした。横目で見ると、友人は口を結んでフロントガラスの先をまっすぐ見たまま、膝の上でスマホを裏返しにしていました。

そこからは、どのカーブを回っても、どの看板で減速しても、助手席から声が出ませんでした。さっきまであれだけ続いていた軽口が、まるで待避所に置いてきたみたいに。窓の外を指すこともなく、ダッシュボードを叩くこともなく、友人はただ前を見ていました。

怖くなったのだろうか。対向車と正面から向き合ったのは、この道で初めてでした。それとも、さすがに言いすぎたと自分で思ったのか。私には判別がつきません。ただ、笑われていたときには感じなかった居心地の悪さが、車内に残っていました。

私は、自分の運転を変えませんでした。看板で減速し、ミラーを見て、車間をあける。友人が黙っていようと、それが正しいと思う走り方を続けました。ラジオもつけていない車内で、聞こえるのはタイヤが砂利を踏む音と、エンジンの唸りだけでした。

そして...

展望台の駐車場に入って、サイドブレーキを引きました。

「着いたよ」

友人はうなずいて、先に車を降りました。自販機で缶コーヒーを2本買ってきて、1本を私に渡し、町を見下ろしながら言いました。

「帰りもよろしく」

それだけでした。

帰りの山道で、友人は本当にひとことも口を出しませんでした。看板で減速しても、対向車を待っても、助手席は前を向いたまま。センターラインが戻り、市街地の最初の信号で止まったとき、友人がやっと口を開きました。

「さっきまで、ごめん。あの待避所があったのも私、全然気づいてなかったのに。ずっと偉そうに言ってた」

私は前を見たまま答えました。

「ほんとだよ」

「もう運転に口出ししないから許して」

友人はいつもの口調に戻って、ダッシュボードを軽く叩きました。出発してから何度も聞いた音なのに、今度は嫌ではありませんでした。

あの待避所で友人が黙った理由を、私はそこでようやく知りました。信号が青に変わり、私はいつも通り十分に車間をあけて走り出しました。今度は助手席から、「遅い」という声は聞こえてきませんでした。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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