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彼女の化粧が濃くなるたび、俺が言えずにいたこと

  • 2026.10.2
ハウコレ

「これで満足?」と聞かれて、俺は用意していた言葉を全部しまい込みました。伝えたかったのは化粧の濃さじゃなく、ガラスに映る自分のまぶたを押さえる、彼女の指のことでした。

インターホンを押してから、ドアが開くまでの間が、いつもより長く感じました。顔を出した彼女の眉にも、まぶたにも、いつもの色がありません。この顔で出てきた理由は、聞くまでもなくわかっていました。

「濃くない?」は、そういう意味じゃなかった

付き合って1年の彼女の化粧は、会うたびに少しずつ濃くなっていました。気になっていたのは、濃さそのものじゃありません。店のガラスの前で足を止めて、まぶたを指で押さえている姿を、俺は何度も見ていました。

カフェで向かい合ったあの日、ラテを前にした彼女の目元を見て、口が先に動きました。

「化粧、濃くない?」

「濃いのが好きなの」

「そっか」

言い方を間違えたと思いながら、カップの中を見ていました。ストローの先ばかり見ている彼女に、謝るタイミングを逃しました。

すっぴんの彼女に、可愛いとは言えなかった

次の週末、ドアを開けた彼女は、化粧をしていない顔で立っていました。似合ってる、と言いたい。でもここで言えば、俺が勝ったみたいになる。口に出せたのは一つだけでした。

「行こっか」

駅までの道で、隣の横顔を2回、見ました。まぶたの線が細くて、頬にうっすら赤みがあって、俺が好きになった頃の顔です。

「これで満足?」に、俺が返した言葉

定食屋で向かい合うと、彼女は箸袋を折りながら聞いてきました。

「これで満足?」

俺は箸を置きました。

「満足とかじゃないよ」

「俺、この顔のほうがずっと好きだよ」

「私のメイクは、私のためにしてるの」

彼女の声が、隣の席まで届くくらいに大きくなりました。伝えたかったのは、別のことでした。

「わかってる。でも、鏡の前にいるときの顔が、最近ずっとしんどそうだったから」

彼女は箸袋を置いて、しばらく俺を見ていました。

そして...

化粧を濃くするなとも、やめてほしいとも思っていません。ただ、鏡の前で目元を押さえる彼女を、もう見たくなかっただけです。あの日から、待ち合わせで見つけたときは、化粧の濃さより先に、彼女が笑っているかを見るようになりました。それを本人には、まだ言えていません。

(20代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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