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「私は先輩じゃないので」と返した私が、先輩の失敗の記録を読み始めた理由

  • 2026.10.1
ハウコレ

先輩の古い手帳には、私と同じ失敗が同じ順番で並んでいました。「新人の頃の私にそっくり」という口癖を、私は比べるための言葉だと思って聞いていました。記録を読んだあとも、その言い方が嫌だったことまで消えたわけではありません。

花束を抱えた先輩がエレベーターに乗ったあと、私は隣の席に移りました。机の引き出しは上から順に空になっていました。一番下だけを残して。

間違えるたびに聞いた口癖

入社した春、教育係についたのがその先輩でした。宛名に「様」と「御中」を両方書いた封筒を見て、笑いもせずに言ったのが「新人の頃の私にそっくり」。電話の取り次ぎを間違えても、同じ言葉でした。間違えたのは私なのに、話の主語はいつも先輩です。半年もすると、聞こえるたびに封筒を裏返す癖がついていました。

「私は先輩じゃないので」

見積書の桁を1つ間違え、先方から電話が入った日です。差し戻された見積書を見て、先輩が言いました。「新人の頃の私にそっくり」。プリントアウトを机に伏せたまま、私は言いました。「私は先輩じゃないので」。思ったより大きな声でした。先輩は見積書に目を落としたまま、少し置いて答えます。「そうね。ごめんなさい」。その日を境に、口癖は消えました。残りの2週間、交わしたのは引き継ぎの確認だけです。

同じ順番で並んでいた失敗

退職の日、先輩は最後に私の席へ来て言いました。「引き出し、一番下だけ片付けきれなかったの。悪いけど、お願いね」。最後まで押しつけるのかと、花束を渡しながら思っていました。

エレベーターの扉が閉まったあと、引き出しを引くと、角の丸くなった黒い手帳が1冊。表紙の年号は20年近く前でした。「宛名、様と御中を両方書いた」「見積書、桁を1つ間違えた」。私の失敗が同じ順番で並び、余白には「誰も何も言ってくれない」とあります。最後のページの1行だけ、インクの色が新しいものでした。「同じ順番で間違えている。だから大丈夫」。

そして...

比べるための言葉だと思って聞いていました。あれは、私はここまで来られたのだと伝えるための言葉だったのかもしれません。今、私の机の一番下には手帳が2冊。古いほうの、あの1行の下から、自分の失敗を書き始めたところです。

(20代女性・営業事務)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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