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財布の拾い主から「お礼はいりません」→代わりに月に一度、ある報告を頼まれました

  • 2026.10.1
ハウコレ

角がすり切れて買い替えを迷った月、返ってきたのは、いつもの礼ではありませんでした。私は今も、あの財布を捨てられずにいます。

バスの営業所で受け取った封筒には、財布と一緒に、拾い主の連絡先を書いた紙が1枚入っていました。

お礼をさせてください

財布を落としたのは3年前で、通勤のバスの座席に置き忘れたようでした。気づいたのは会社の売店で、財布を出そうとして鞄の中を3度探したあとです。カードを止める電話を終えたころ、営業所から届いていますという連絡が入りました。受け取りに行けたのは翌日で、拾い主の欄には連絡先の開示に同意すると印がついていて、私はその場で書いてある宛先へ文を送りました。

「財布を拾っていただいた者です。無事に戻りました。お礼をさせてください」

返事はその日のうちにつきました。

「お礼はいりません」

続けてもう1通。

「代わりに、1つお願いがあります。月に一度、『財布、まだ持っています』とだけ送ってください」

私は画面を上へ戻して、2通を読み直しました。

「それだけで、いいんですか」

「それだけで、いいんです」

月の初めの1行

最初の月は、頼まれたとおりの文を打ってから、送る前に3度読み返しました。

「財布、まだ持っています」

返ってきたのは「ありがとうございます」で、私はそれを受け取るたび、向きが逆だと思っていました。礼を言うのは私のほうで、その礼を断られた代わりに、私は落としていないことを報告している。2度目に落とすようなら知らせなさい、と言われているように読めました。半年もすると、月の初めに届くカレンダーの通知と同じ扱いになり、頼まれた文をそのまま送って、返ってくる礼をそのまま閉じる、それだけになりました。一度、近況を添えようとして、打った文を消しました。添えれば、来月もまた添えなければならない気がしたからです。

買い替えを迷った月

3年目に入ったころ、財布の角がすり切れて、中の芯が見えるようになりました。買い替えるつもりで店へ寄った帰り、その月の1行を打つ手前で、私は初めて決まりの文を崩しました。

「角がすり切れてきました。買い替えようか迷っています」

返事は、いつもの礼ではありませんでした。

「その角は直せます。捨てる前に、一度見せてください」

財布の処分にまで口を出されるのかと、そのときは思いました。直せるかどうかを、会ったこともない人がどうして言い切れるのか。私は返事を書かずに、財布を鞄の内側へ戻しました。

そして...

店で見た新しい財布は、まだ買っていません。角のすり切れは広がっていて、私は月の初めに、同じ1行を送り続けています。見せに行く約束はしていません。ただ、捨てる前に見せてくださいと言われた財布を、捨てられずにいるだけです。「ありがとうございます」は、今月も向きが逆のまま届きました。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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