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「泣き寝入りですか」駐車中にぶつけられた50代男性→過失割合は0:100なのに…直面した“シビアな現実”

  • 2026.10.9
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「事故車になったら、売るときに安く買い叩かれるじゃないですか」

修理費は相手が払うとしても、事故に遭った車は修理歴が付き、価値が下がってしまう可能性があります。その分も相手に払ってもらえるはずだと考える人は、少なくありません。実際に調べてみると、条件次第で「評価損」が認められるという解説も多く見られます。

契約者のAさん(50代・男性)も、そう考えた一人でした。しかし、Aさんが最終的に選んだのは、請求をしないという判断だったのです。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が相談を受けた、“格落ち”についてのお話です。

コンビニの駐車場で起きたもらい事故

事故が起きたのは、コンビニの駐車場。Aさんが店内で買い物をしている間に、無人駐車中のAさんの車に、Bさん(30代・女性)の車が接触したのです。

過失割合は0:100(Aさん:Bさん)。過失のない事故では、保険会社がAさんに代わって相手と交渉することはできません。私はAさんの相談担当として、請求の進め方や見通しを伝える立場で対応していました。

事故現場が駐車場内で、Bさんの車は低速だったため、Aさんの車の損傷はパネルの凹みと傷のみと、比較的小さいものでした。車の骨格にあたる部分へのダメージはありませんでした。

売却を考えていたAさんの車

実はAさんは数年後に、この車を売却するつもりでした。下取りの査定はまだ受けておらず、あくまでAさんの中での予定です。

「事故歴や修理歴が付くことで、評価額が下がるのは納得できません」

Aさんはそう訴えます。

「修理代だけじゃなくて、価値が下がった分も相手に請求できるんですよね?」

「評価損」という考え方

修理をしても、事故に遭った車は市場での価値が下がる。この下がった分が「評価損(格落ち損)」です。

評価損は、過去の裁判でも判断が分かれている損害であり、保険会社においては賠償が認められにくい傾向にあります。一般に評価損が認められやすいのは、初度登録から1〜3年以内、走行距離も数万km程度で、かつフレームなどの骨格に大きなダメージを受けたケースなど、かなり限定的です。

対して、Aさんの車は登録から4年ほどが経過しており、走行距離も10万km以上。損傷も骨格には及んでいません。

私はAさんに、相手の保険会社から評価損が認められる見込みは低いことを説明。請求を続けるのであれば、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼する道があることを案内しました。ただし時間がかかり、結果も事案次第となることもあわせて伝えています。

説明を聞いたAさんが答えます。

「ぶつけられたのはこっちなのに、価値が下がった分は泣き寝入りってことですか」

過失のない事故で、価値が下がった分を誰も負担しない。被害を受けた側として、Aさんの言葉は決して不自然なものではありませんでした。

Aさんが出した答え

数日後、Aさんから連絡がありました。

「請求にかかる時間を考えて、評価損の請求は諦めることにしました」

Aさんは、弁護士費用特約を使わない判断をしたのです。

「納得はしていませんけどね」

そのように付け加えたうえで、Aさんは修理工場から説明された「修復歴」について話してくれました。

中古車の流通で使われている基準では、車体の骨格部位を損傷し、修正や部品交換で修復したものを「修復歴車」としています。骨格に含まれるのは溶接で接合された部位で、ネジ止めの部位は含まれません。つまり、ドアやバンパーなど外板パネルの修理だけなら、修復歴には当たらないのです。

Aさんの車の修理はパネルだけ。少なくとも、Aさんが心配していた「修復歴車」として扱われる状態ではありませんでした。

ただし、修復歴が付かないことは「価値が下がらない」ことを意味しているわけではありません。査定では修復歴とは別に、外板の傷や補修の状態も評価の対象になるためです。Aさんの車には、依然として事故によって価値が下がった可能性は残ったままでした。

0:100でも、すべての損失が賠償されるとは限らない

評価損は、事故によって価値が下がった可能性があるというだけで、無条件に認められるものではなく、車の状態や損傷の程度などから個別に判断されます。

Aさんは最終的に、時間をかけて請求を続けるより、早期に終わらせることを選びました。

「納得はしていませんけどね」という言葉。そこには、被害者であっても、事故によって生じた損失のすべてが賠償されるとは限らないという、損害賠償実務の厳しさと難しさがあらわれていました。

理屈や制度としての正解と、感情としての納得感は、必ずしも一致しない。「過失なし」という言葉の裏にある、目に見えない損害や時間の重みを改めて考えさせられる出来事でした。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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